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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第39話「退治。亜怪」


 ついに動き出した亜怪。夜空に広がる満点の星空を見たいその無邪気な願いが消え去った今、亜怪は憤慨に身を任せる化け物と化した。


『アアアアアアアアア!』


「!!」


 怒りで声を荒らげ左右に付いた紫色の目をギラギラに光らせながら、真っ黒な体を砲弾のように飛ばす亜怪に対し、チェリードは皆を庇うように「防御壁(プロテクター)」を二重に展開した。


「くっ!」


「チェリード! 大丈夫か!」


 幾度と続いた「今日」の中で生まれた障壁の連続展開を行うチェリードだったが、恨みを覚えた亜怪の突進はこれっぽっちの防御力で止まるものではなかった。


「やばい、みんな早く逃げ――――」


 チェリードが言い切る前に二枚の「防御壁」は割られ、彼は亜怪の黒光りする丸っこい体と衝突した。


 彼は肋骨と顔の骨をいくつか折った。


「がああああ!!」


「「チェリード(君)!」」


 痛みに悶えるチェリードに駆け寄ろうとするメロとデセリンだったが、それに気づいた亜怪は二人を睨みながらまた突進を始めた。


「うわっ!」

「キャッ!」


 間一髪で左右に避ける二人だったが、亜怪が突進を続ける先には師匠が立っていた。師匠は手に持っていた槍で亜怪を食い止めるがその速度が衰えることなく、師匠もろとも前方に進んでいく。


「くっ……! こんな力が残っていたとは」


 防ぎ続けても意味が無いと感じた師匠は、槍を弾いて亜怪の突進から逃れるのと同時に魔法を繰り出した。


「〈拘束(バインダ)〉!」


 そう唱えた師匠は魔法でできたエネルギー体の鎖を亜怪の周辺に生成させ、直ぐ様亜怪を鎖で縛り上げ拘束した。


 これによって、ひとまず亜怪を封じ込めることに成功した彼らは、亜怪の体に起きている異変に気づく。


「……! おい! あれ!」


 倒れた体を起こしながらチェリードが指を差した箇所を見ると、亜怪の体が時間を経るごとに消えていくことが人目でわかった。腕の末端からボロボロと崩れ落ちていくのが確認できる。


「体が消失している……」


「ほーう……攻撃を耐えきることができればアタシらは生き残れるってことかい」


「多分そう!」


 チェリードがそう言った次の瞬間、


『ウアアアアアア!』


 とても嫌そうな顔をしながら暴れていた亜怪が、自身を縛っていた鎖を力ずくで断ち切った。


 残り少ない時間を強いられた亜怪は、その怒りと憎しみを己の力に変えているようだ。


「くっ、ダメか……」


「き、来ます!」


 鎖から解き放たれた亜怪はより怒りを露にしながら、叫び、四人に襲いかかろうとした。


 そして全員が身構えたその時。



 ギィィィ…………



 どこからともなく聞こえてきたのは、鎖が擦れ合う音だった。


 そして次に鎖が見えた時には鉄の鎖は亜怪の体

に穴を開けていた。


 亜怪に向かって放たれた鎖を目で辿っていくと、暗闇の中でジェイルが一人、庭の外で立っていた。


「ジェイル!」


 彼に気づいたチェリードが思わず彼の名を声に出すと、ジェイルは表情を変えないままチェリードに聞いた。


「ジェイル、お前どこに居て――――!」


「あいつはなんだ」


「あっ、えっと、亜怪っていう化け物らしい……」


 突然現れ質問をしてきたジェイルにチェリードは困惑しながらそれに答えた。ジェイルは「亜怪」という言葉を聞くと何か思い出したような顔を浮かべた。


「『亜怪』……聞いたことある名だ」


 それを聞いたチェリードはジェイルに近づきながら、亜怪について少し説明した後、咄嗟に思い付いたことを提案しようとした。


「あいつは俺と師匠を『今日』に閉じ込めた犯人なんだ。そのせいでめちゃくちゃ大変だった…………だけどそれももうすぐ終わる。あいつの体が消えていくのを待てばあいつを倒せるんだ」


「………………」


「だからその鎖であいつを拘束し――――」


 しかし、ジェイルは途端に目元を鋭くし、


「俺に指図するな」


 と言い捨て、奇声を上げ続ける亜怪の元へ飛び込んだ。


「!?」


「ジェイル!」


「ジェイル君!」


「バカ! すぐに敵に突っ込むんじゃないよ!」


 その場にいる全員がジェイルに驚きの声を漏らした。今の暴れまわる亜怪に近づくのは危険すぎるが故、そこに飛び込むのがどれほど無謀であるか皆理解していからだ。



 だが、ジェイルは違った。



『アアアアアア!!』


「所詮は暴れるだけか」


 ジェイルは無謀を冒すほど単純ではなかった。彼は突然飛び上がったかと思えば、背中から生み出される四本の鎖を地面に突き刺し、自身の体を空中に固定した。


「来い」


 空中で身動きが取れない今、亜怪の格好の的となってしまった彼だが、むしろこの時を待っていたと言わんばかりにジェイルは堂々たる姿勢で亜怪を迎い入れた。


 亜怪は空に逃げたジェイルに襲いかかるが、これこそ彼の待ち望んでいた攻撃だった。


「! 危ないジェイル! 避けるんだ!」


 ジェイルは亜怪の体当たりを目の前にしてなおそこから微塵も動こうとしなかった。危ないと思ったデセリンが彼に指示するが、彼は聞く耳を持たない。


 そして、ジェイルと亜怪とがぶつかる寸前、ついに彼が動き出した。


『ア゛ァッ!』


 体が触れそうになるほどまで引き付けた彼が仕掛けたのは、予め待機させていた二本の鎖を亜怪の体を横から貫通させることだった。


 貫通した鎖は全長を伸ばしながら宙を舞い、更にもう一回、今度は縦方向から亜怪の体を貫通させた。


 先程とは打って変わり、暴れるにも暴れられない亜怪は断末魔を上げて以降、全身が硬直したまま力が抜けていった。


 最後に、死体にとどめを刺すような冷酷さでジェイルは地面に刺した四本の鎖を背中に仕舞い込みながら着地し、再度取り出した四本の鎖を違う方向からそれぞれ貫通させる。


 そんな彼の徹底ぶりと無惨さに、その場にいた三人は唖然とする他なかった。



『ホシ……ホシ…………』


 そして、最後に亜怪はそれを言い残し、ゆっくりと灰となりながら消滅した。



「消えたな」


 亜怪の最期を見届けたジェイルは何食わぬ顔で家の中に入ろうとしたが、こんな夜中にふと現れた彼に対して誰も疑問を抱かないわけがない。


「ジェイル。お前、今の今までどこに行ってたんだい?」


 師匠が心配そうな顔をしながら尋ねると彼は振り向き様に答えた。


「学校で能力の練習だ」


 師匠は更に続けて質問しようとしたが、彼はそれを無視して家の中に入っていってしまった。


 なぜジェイルが今まで姿を現さなかったのか。結局、その具体的な理由がわかることはなかった。


「なんだあいつ。急に現れたかと思えば良いとこ取りしやがって……」


「しょうがないさ。ジェイルは普段からああだからね」


 ジェイルの行動に怒りを見せるチェリードを、デセリンは肩を叩きながら慰めた。


「彼、たまに一日中帰ってこない時があるんだ。僕達も理由はわかってないんだけど、聞いてもさっきみたいな答えばっかりでね」


「へぇ~……ぶっちゃけ亜怪より謎が多くね?」


「ははは、確かに」


「やっぱそうだよな!」


 亜怪がさっきまで存在していた場所を見ながら、二人は友達のように笑いあった。


「デセリンって意外と良い奴だな」


「どこが意外なんだい?」


「初対面の時めちゃくちゃウザかったのを忘れたのか?」


「忘れるわけないよ。僕は記憶力も良いからね」


「ごめんやっぱ前言撤回」


「なんで!?」


「冗談だって!」



 きっと、消え去った亜怪の存在が二人の仲を深めたのだろう。


 チェリードはいつの間にかデセリンと打ち解けていた。笑いながら喋る二人の様子はさながら友人同士の会話のようだ。


「お前たち、そろそろ寝るよ!」


 師匠が微笑みながら家の中に手招きしながら二人に伝えた。忘れていたが、日付を跨いでから既に一時間が経とうとしている。


「「はーい」」


 二人は声を揃えて返事をし、メロをと共に家の中に入った。



 室内に入ったことで眠気が一気に襲ってきた四人は、「お休み」と言いながらすぐに自室に戻り、師匠とチェリードは最後の「今日」を感じながら眠りについた。



          ~次の日~



『アサダアアァァア! アサダァァアア!』



 最近煩わしいと感じつつある鳥に起こされ、ついに新しい今日が始まった。


 下に降りると、リーナ、デセリン、メロの三人が眠そうに朝食のパンを頬張っていた。


(そうか……もう『明日』になったんだな)


 チェリードはそれを思うと途端に嬉しそうな表情になり、元気な声で「おはよう!」と三人に言った。



 チェリードの寮生活は、まだ始まったばかりである。

近日、この後チェリードが亜怪について調べる話を投稿します。

短い内容ですが、是非そちらもお読みください。

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