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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第37話「退治、亜怪 Ⅱ 」


 突然両腕が消失し、そのまま地面に落下する師匠。あまりに不意に訪れる展開に、チェリードの頭は混乱していた。


 まるで意味がわからなかった。


「!?」


 師匠は咄嗟に受け身を取ろうとするが、その受け身をするための手が失くなったために、師匠は体を必死に捻って体制を変え、何とかうつ伏せの状態で着地することができた。


「師匠!」


 腕から大量の血が流れ出しているのを見て心配になったチェリードが急いで駆け寄ろうとしたが、師匠は「こっちに来るな!」と言ってチェリードを止めた。


「こっちに来るんじゃない! チェリード! そこで待っとき!」


「でも……!」


(それじゃあ師匠は……!)


 師匠の血は絶えず腕の付け根から流れ続けている。早く手当てしなければ、師匠は出血多量で死ぬ。そうでなくとも、いずれ亜怪に攻撃されてしまうだろう。


 今、師匠を助けなければいけないのに、師匠の元へ行かなければならないというのに、師匠はそれを頑なに拒んだ。



「ふあぁ~。亜怪捕まえた~?」


「先生!」


 なんとタイミングの良いことだろうか、三人の中で一番やる気のなかった先生が、外から聞こえる戦いの音で目覚め、こちらの様子を見に来たのだ。


 先生なら、この状況を打破するかもしれない。


「先生助けてください! ほら! 師匠があそこで!」


 先生は、チェリードが指を差した方向を見るとたちまち顔を真っ青にして、見間違いじゃないかと師匠を二度見した。


「嘘……!? あいつがやられるって相当よ……?」


 今度は先生が亜怪の方に目を向けると、亜怪は変わらず星々に釘付けになっていた。先生の目にはその様子が師匠を倒して尚余裕があるように見えたらしく、先生はだんだん恐怖を感じるようになった。


「……先生! 先生!」


「ハッ! な、なに!?」


 かつての戦友を狩られたことに対する恐怖で、気が気でなくなるところだった先生は、思わず逃げ出したいという思いが込み上げてきた。


「早く助けて下さいよ! 気を失う前に!」


「……ッ」


 チェリードの言葉に、先生は何も返すことができなかった。いや、返せるわけがなかった。


 初めて味わったこの異質な恐怖に、ライナー先生でさえも気を失いかけていた。この場から早く逃げ出したい、お家へ帰りたい、そんな考えばかりが先生の頭を埋め尽くしていた。



 師匠がやられた。


 かつて、共に幾度の冒険を共にした彼女にとって、それはあまりに現実味の無い嘘のように感じられた。



「……チェリード君、デセリン君達を呼んでください」


 少ししてから、先生は普段の丁寧口調で彼に言った。先生の中には、まだ「教師」としての威厳があるようだ。覚悟の決まった眼差しが、そう言っている。


「は、はい…………えっと、先生は?」


「私は……」


 先生は腰に巻いてあるベルトに刺さったナイフを構えるのと同時に、今にも走り出しそうな体勢で師匠を見つめていた。


 そして、先生は師匠の元へ向かって…………


「お家へ帰りますッッ!!」


……向かっていかずに、明後日の方向へと走り去ろうとしていた。


「はあああああ!!??」


 チェリードも師匠も、亜怪さえも置いて走り去っていくライナー。彼女には、「教師」としての威厳が一ミリたりとも残されてなどいなかった。


 生徒を助けず保身に走るその姿は、正真正銘のクズである。


「アハハッ! 別に死にやしないんだし、戦っても無駄! 私だけでも逃げるわよ~!」


 高笑いしながら走り去る先生は教師とは思えない発言を叫んでいる。


「じゃあねチェリード君~~!! 君たちだけで頑張ってね~~!!」


「おいふざけんな! 逃げんな卑怯者おお!!」


「アハハハハ!!」


 ずる賢い奴に限って逃げ足が速い。先生はチェリ―ドに全てを丸投げし、今にも逃げ出そうとしていた。


 だが、悪しき者には必ず罰が下るというものだ。


『…………?』


「あ」


 何の気まぐれかわからないが、突然亜怪が先生の目の前に現れた。そして亜怪が手を前に出すのと同時に、先生は存在ごと消された。


 ――――ここまでくると、もはや彼女に同情の余地すらない。消えるべくして消えた先生に、チェリードは何の感情も沸かなかった。


『………………』


 先生を消し去った後、亜怪はさっきまでいた場所に戻り、また空を見始めた。


(あいつまた星を…………てかなんでそんなに星が…………)


「…………ハッ! ボーっとしてる場合じゃない! 早く皆を呼ばなきゃ」


 亡き先生に言われた言葉を思い出した彼は、急いで師匠の家に入り、三人に助けを求めた。



「メロ! ……メロ! ……起きてくれ!」


 チェリードが最初に起こしにいったのはメロだった。両腕を失くした師匠の手当てをするためである。


 少し申し訳ない気持ちを抱きながらメロの部屋に入り、彼女の体を揺すって起こそうとすると、メロは(まぶた)を開けた途端、なぜか部屋にいるチェリードに驚きを隠せなかった。


「な、な、なにかご用ですかっ!?」


「ああああごめん! 驚かせちゃって!」


 突然起こしたことに対してすぐに謝まったチェリードだったが、メロはびっくりしすぎて少し涙目になっていた。


 事態は一刻を争う。メロには申し訳ないが、早く師匠を助けに行かなければ。


「師匠が大変なんだ! とりあえず庭まで一緒に来てくれ!」


 そうメロに伝えると、チェリードはパジャマ姿の彼女の手を掴み、動揺したままの彼女を引っ張って庭まで連れてきた。


「ヒッ! 何あれ……」


 メロが見た目線の先には、勿論亜怪がいた。彼女がそれに怯えていると、チェリードはそちらには目を向けず、下の方で倒れている師匠の方を指差した。


「師匠があそこで倒れているんだ。メロは師匠の手当てをしてくれ」


「う、うん……! でも、あの変なのは……?」


「あれには近づくな。遠回りして師匠に近づけば大丈夫……なはず」


 正直なところ、亜怪がなぜ師匠や先生を襲ったのか微塵も理解していなかった。だが、こうして師匠がピンチに陥っている今、とにかく行動するしかないのだ。


 戦いに、絶対はない。


「俺はデセリンを呼んでくる……だから、メロ」


 今の師匠を助けられるのは回復魔法が使えるメロしかいない。メロの両肩を掴む手に想いを託し、チェリードは真剣な眼差しで言った。


「師匠を頼む。今助けられるのはメロしかいないんだ」


「っ……!」


 去り際、チェリードはメロに向かって手を振り家の中へまた入っていった。



「………………」


 この時、彼女を真っ直ぐに見つめるチェリードの顔が目に焼き付いて離れなかったメロは、掴まれた肩の感触を覚えながら立ち尽くしていた。


(チェリード……君……)


 突然の彼の行動にメロは動揺してしまうが、彼に言われたことをすぐに思い出し、気持ちを切り替えた。


「私も頑張らないと……!」


 左手に持った木製こ杖をぎゅっと握りしめ、メロは師匠の元へ走っていった。



「おいデセリン! ……デセリン起きてくれ!」


 またここに戻ってきたチェリードが次に起こしに行ったのはデセリンだった。


 デセリンの自己紹介の時、「何でもできる」と言っていたのを言葉を思い出したチェリードは、早速デセリンの部屋に向かった。


「デセリン! デセリン!」


「ん~? なんだい、チェリード」


 激しく体を揺すられてやっと起きたデセリンは、彼と比べて全く緊張感がなく、目が半開きの状態で寝ぼけている。


「亜怪が現れたんだ。一緒に倒すのを手伝ってくれないか?」


「あ~…………そっか、現れたんだね」


 しかし、「亜怪」という言葉に反応し、デセリンは何かを察したのか、突然いつもの調子に戻った。


「とりあえず外に出る前に、いろいろ家の中を調べようか」


 すぐに外に出ようとするチェリードを引き留め、デセリンは家の中を探索し始めた。


 すぐに亜怪をどうにかしたいと思うチェリードは不思議がるものの、デセリンはただ、


「いいからいいから」


 と言って、いろんな部屋を見て回っていった。


「なあ、こんなことしてる場合じゃないんだって! 早く外に――――」


 とうとう我慢しきれなくなったチェリードが外に向かおうとした時、デセリンが何かを見つけたようだった。


 見つけた場所は、師匠の部屋だ。


「ほら、見つけた」


 そして、デセリンが手に持っていたものは、亜怪との戦いで消失したはずの師匠の腕だった。


「デセリン……おま、なんでそれを……」


「僕さ、一つわかったことがあるんだけど」

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