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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第32話「現象の解明 Ⅱ 」


「先生。この三日間で何か気づきませんでした?」


 先生がキョトンとしていたので、チェリードは繰り返し伝えた。


「えっと……どういうこと?」


 しかし、先生はまだ質問の意図がわかっていないらしい。苦笑いしながら先生は聞き返す。


 今度はしっかりと伝わるように丁寧に説明しようとしたところ、先生に懐いている女子二人が話しかけてきた。


 この事を周りに知られたくなかったチェリードは、質問の続きは別の場所で行うことを提案し、校舎に入って二階にある使われていない教室に行くことになった。



 先生……教室……二人きり…………



 正直、彼は嫌な予感がしてたまらなかった。


「はあー…………」


 空き教室に着いてすぐさま先生は溜め息を付いた。傷の付いた机にもたれかかりながら、気だるげな表情のまま。


「ねえ」


 教室の廊下の境目で立つチェリードに、先生は言った。



「もう()()はしなくていいわよね?」


「………………」


(……やっぱり、そうなるのか)


 完全に予想できなかったわけではなかった。先生とは前に二度、こうして接触した機会があったから、またあの時の先生が帰ってくることは予想していた。


 だが、普段の先生を見て、もしかしたら……もしかしたら良好な関係が持てるかもしれないと、彼はほんの少しだけ思っていた。



 忘れていたが、彼女は殺人鬼だ。



「………………」


「ねえ、早く何か言ってくれない?」


 先生は蔑んだ目で彼を見下ろしている。その脅威の目に思わず冷や汗が出る。


 しかし、ここまで来たのに引き返すわけにはいかない。彼は全身の恐怖を振り払いゆっくり話し始めた。


「…………一昨日が、『一昨日』がずっと繰り返されてるの、先生も知ってますよね?」


「あーそのことね。私も気づいてたわ」


 やはり先生も気づいていたらしかった。


 さっき答えを濁していたのは演技だったのだろうか……とかを考えていると、先生がもたれ掛かるのをやめ、彼の真ん前に立ちこう言った。


「で、それがどうしたの」


 そして、チェリードは真剣な眼差しでこう言った。


「一緒にこの現象を解決しませんか?」


 こうして同じ現象を体験している人がいる以上、共に協力して現象の解明を行うのが一番だろうと彼は考えていた。


 それに、先生がもし協力してくれるならとても心強いと思っていた。


 あんなことがありながらも、さすがに先生は困っている生徒を助けてくれるだろうと思い込んでいた。


 もっとも、この人の前ではそんな考えも打ち砕かれることとなるが。



「え? 嫌よ」


 即答だった。考える間もなく、先生は一瞬で答えた。


「はぁ!? どうしてなんですか!」


「あんたに協力したくないからに決まってるでしょ? 別に私は困ってないし」


「ッ……!」


 どうやら、彼に対する憎悪は全くもって消えていないようだ。


 断った理由が自己中心的なものだったことに彼は腹を立てて反論しようとしたが、自分を殺した人に歯向かうことなどできるはずもなく、ただ睨むことことしかできなかった。


「ていうかよりによってなんで私? これぐらい自分で解決しなさいよ……チッ」


 更に続けて、先生は嫌悪を全面に押し出しながら舌打ちをした。


 嫌味ったらしい喋り方で愚痴を吐く先生は、普段の先生からは想像もできない低い地声で喋っていた。


 普段の明朗で優しい先生が、まるで嘘のようだ。



「――――はぁ……わかりました」


 彼は少し考えた後、これ以上口論になってもいけないと思い、渋々先生の言う通りにすることにした。


 ただ、彼は頷いた後、こう付け加えた。


「でも。先生がどうなろうと助けないですからね!」


「あっそう」


 彼が捨て台詞を吐いて教室を出ようとした時、ふと後ろを見ると先生と目が合った。


 目が合ったと同時にふんっと嫌そうな音を出して、彼は教室を後にした。



――――――――――――――――――――――――



 結局、先生の協力を得られなかったチェリードは、これからどうすれば良いかを家までの道をゆっくり歩きながら常に考えていた。


(先生がダメってなると後は師匠だけ……でも師匠はホントに()()と一緒なのか……?)


 現状、先生以外に同じ現象に遭っていると思われるのは、毎日違う特訓をさせる師匠しかいない。


 しかし、先程と同じように師匠に断られてしまうと、とうとう成す術無しという状態になってしまう…………そんなことを考える度、どんどん不安だけが降り積もっていく。


 謎が多いこの現象、そもそも原因すらもわかっていないこの状況下、まず何をすべきか…………




 そんなことを考えている内に、チェリードは無事家に着いた。


 が、そんな彼の元に嫌な情報が入ってきた。


「師匠が倒れた!?」


 リーナの説明によると、四人が家に帰ってきた時には既に倒れていたらしい。


 幸い意識はあったが、師匠を部屋に運んでいった時に、苦しそうな顔をしながら「体が重い……」と言っていたそうだ。


「今はデセリンとメロが看病してるんだけど、自力で体動かせないって」


 これを吉と見るか凶と見るか、朝のチェリードと同じ状態になったことで師匠も現象に巻き込まれたことが確定してしまった。


「まじか…………(早くこの現象を止めないと)」


「何か言った?」


「いやなにも。とりあえず早く見に行かないと」


「うん」



 チェリードが師匠の部屋に入ると、師匠はかなりぐったりとした様子で寝込んでいた。汗もびっしょりかいている。


「あ、チェリード、遅いぞ」


 デセリンがこちらに気づくとムッとした顔で彼を手招きした。隣でメロも冷水につけたタオルを師匠の額に乗せて看病しているようだ。


「おおチェリード……朝ん時のお前みたいになっちまって、情けないねアタシは」


 師匠はいつもからは想像もつかない覇気の無い声で喋っていた。


 こんなにも弱々しくなっているところを見ると、胸がキツく縛られるような感覚になりそうだ。


「師匠…………」


 辛そうに喋る師匠を見て、憐れみの顔を向けるチェリードに対して、師匠は強がるように笑った。


「大丈夫だよ。すぐ良くなる」


 二人に看病されながら話す師匠を見て、だんだん悔しさが沸き上がってくる。


「……師匠」


「ん?なんだい?」


 チェリードはベッドの横に行って膝を付いた。


「俺が、治しますから」


 何かを覚悟したチェリードがそう言い切った。


「ハッ、魔法も使えないのにどうやって?」


「――――治すったら、治します」


 チェリードの力強い眼差しに心打たれたのか、


「じゃあ楽しみに待とうかね」


と一言言い、ゆっくりと目を閉じた。



「なあ、本当に君に治せるのか?」


「そ、そうです! どんな病気なのかもわからないのに…………」


 魔法も治療もできないチェリードに疑いの目を向けるデセリンとメロは、看病しながら彼を横目に見ていた。


「ああ…………これは俺にしかできないんだ」


「「?」」


 不思議そうに見る二人を無視して、チェリードは険しい顔のまま自分の部屋に戻っていく。


「え? リド!? ちょっと!?」


 リーナが引き止めようとしたが、彼女の手を振り払って彼は部屋のドアを強く閉めた。



        ~その日の夜~



 彼の部屋から椅子を引きずる音がひっそりと聞こえてきた。


「…………」


 手汗にまみれた手で持っている縄を、天井に偶然刺さった鉄の破片に引っ掛けて、震えた手で頭がギリギリ入る大きさの輪っかを作った。


「はぁ…………はぁ…………」


 足音を立てずに椅子の上に立ち、頭を縄に通した。


「これで…………またあそこに行けば…………教えてくれるはず……………」


 恐怖で手足が痙攣し始めたのを我慢しながら、足場にしていた椅子を蹴り飛ばそうとした。


「はぁ…………はぁ…………ッ!」




 蹴ろうとしたところで、理性が彼を止めた。



「やっぱ…………怖えよ…………」


 涙目になりながら、覚悟を決めきれなかったことを悔いながら立ち尽くした。

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