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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第31話「現象の解明 Ⅰ 」


 次の日…………というより、「一昨日がまた始まってしまった」と言うべきだろうか。


 朝、目が覚めるのと同時に、チェリードは異常なまでの倦怠感に襲われた。


『アサアアアァァ!! アサアアアァァ!!』

 

「うっ……おはよ――――」


 彼がどうにか体を起こそうとするが、十キログラム程度の重りが乗ったような感覚に陥り、持ち上がらせることもできないままベッドから転落してしまった。


「痛…………」


 あからさまな異変に彼の脳は追い付かない。ただ唖然と、喧しく鳴いている鳥を見つめているしかしていなかった。


 チェリードはこの時、今体験している倦怠感に既視感を覚えていた。



 ベッドから転落した時の音があまりに大きかったのか、たまたま部屋の前を通りかかった師匠が部屋に入ってきた。


「ん……? アーハッハッハ! どうしたんだいチェリード! 間抜けな格好して!」


 部屋に入るなり爆笑し出す師匠にチェリードは僅かな苛立ちを覚えた。


「体が持ち上がらないんすよ!! ぜんっぜん! 笑ってるぐらいなら助けてくださいよ!」


 怒気を含んだ声で必死に訴えかけたつもりだったチェリードだったが、師匠は真に受けてくれない。


「冗談はいいから、さっさと飯食いな」


 そう言うと、師匠は痛そうに腰を叩きながら洗濯かごを片手に担ぎ、部屋を出ていった。


「………………」


『アサアァァァ!! アサアアァァ!!』


 彼を嘲笑うかのように鳥が鳴くのを見ながら、どうしようもできずにただ途方に暮れるのだった。


(まじでどうしよ…………)


 ついに考えることも面倒くさくなったチェリードは、二度寝を決意した。




         ~三十分後~


 二度寝から目覚めると、先程までの倦怠感が抑えられているようで、まるで嘘みたいに彼の体は軽くなっていた。


 なお、体調不良の改善に伴って与えられた代償は時間である。


「やべえ! 遅刻する!!」


 寝起きの体を迅速に動かし、彼は学校の準備を素早く行った。


 ふと、部屋の窓から外を見ると、朝のランニングが終わった四人が仲良く登校しているのが見えた。



 急いで階段を下りた先には、食器洗いをする師匠がいた。チェリードに気づいた師匠が玄関に直行する彼を見て、驚いた様子で言った。


「チェリード! 飯は食べないのかい!? あと走り込みはどうした!」


「すみません! 今日はなしで!」


「はぁ? 一体なにふざけたこと言って―――― って待ちなさい!!」


 引き留めようとする師匠のを振り払って、チェリードは玄関を飛び出した。


「はぁ……おかしな子だねぇ、全く…………」


 チェリードの不真面目さに呆れつつ、溜め息をつきながら台所へ戻ってまた皿を洗い始めた。



 一方、師匠を振り切ったチェリードは、四人に追い付くために全速力で走っていた。彼は先程までの倦怠感の反動か、彼の体が軽くなったことで普段より速く走れているような気分だった。


「おーい! みんなー!」


 チェリードが追い付くと四人が一斉に振り向いた。


「あ、リド! 遅いよ~」


 リーナが呆れながら言うと、チェリードは苦笑いをしながら謝った。


「ごめんごめん! ()()()()()調()()()()()


 チェリードは謝罪の後に、自分が謎の倦怠感に襲われていたことを言葉を濁しながら言った。


「え! 大丈夫!?」


 リーナが目を真ん丸にしながら心配そうにしている。


「ああ。今はもう大丈夫だ」


「そっか……」


 リーナが彼の言葉を聞いて安心していると、二人の様子を眺めていたメロがおもむろに口を開いた。


「――――二人って、仲良いんだね……」


 ……何やら聞き覚えのある言葉が聞こえてきた。


「え! そうかな~」


「まあなんだろーな……俺らって何か気が合うんだよな」


「そうそう! 話してて楽しいんだよね!」


「そうなんだ……そうなんだ、フフ」


(……この会話って、確か一昨日もやったよな)


 彼が思っている通り、この会話が行われるのは二回目である。一回目は一昨日、そして二回目が今回だ。


 二回も同じ会話をすることによる気持ち悪さが、彼の頭に入り込んでくる。



 この会話を聞いている時、チェリードの中にはいくつかの推測が浮かんでいた。


「一昨日」を二日と数時間過ごしただけとはいえ、多少「一昨日」と同じような内容にならずとも、どこかのタイミングで軌道修正されることを彼は理解していた。


 そして、昨日、今日と原因不明の体調不良に襲われたことも、今起きている現象と関係があると考えていた。


(もしこの現象がずっと続くなら、いつか動けなくなるかもしれないのか…………というか、一体誰がこんなこと…………)


 一日目は嘔吐、二日目は異常な倦怠感と、彼に起こる症状は決して軽いものではなかった。そのため、彼はこれ以上現象と共に起こる症状の悪化を危惧していた。しかし、


「おい、話してないでさっさと行くぞ」


「あ、ああ」


「「はーい」」


 現象について考察していた彼だったが、ジェイルの言葉によって二人の会話と共に思考も遮られてしまった。


(……まあいいや、学校に着いたら考えよう)


 彼は考えるのを後にして、ひとまず四人と一緒に学校へ向かうことにした。



 そして、学校に着いたチェリードは鞄を机に置き、鞄の中からメモ帳と鉛筆を取り出した。家を出発する前、ふと思い出して鞄にしまったその二つをポケットに仕舞った。


「よし……」


 彼は立ったまま右手を胸の前に持ってきて、握り拳を握りしめた。


(この現象を解決するために、まずは調べよう)


 こうして、現象が起きる原因を解明するため、チェリードは動き始めた。



――――――――――――――――――――――――



「みなさん、おはようございまーす!」


「「「おはよーございまーす!」」」


()()()通常通り、パターン③の授業です! 午後は固有能力の訓練があるので、昼休みが終わったら校庭に集合しましょー!」


「「「はーい」」」


(また「今日も」っつったな、メモしとくか……)



 さて、調べるといっても、やることと言ったら学校生活での出来事や会話を記録することしか思い付かなかった彼は、先生や生徒の会話をメモ帳にメモすることにした。


 何か矛盾することや予想外のことが起きたら、それが現象や現象の原因に何か関係があるに違いない。そう考えた彼は、前日の夜にこれを企てていたのだ。



 とはいえ、「一昨日」をただ繰り返すだけなので、そう簡単に予想外のことは起こらない。彼は一時間目から四時間目の授業の中でも適宜メモを取っていたが、特にこれと言った成果が出るわけでもなかった。


 そして、昼休み。彼がサンドイッチを頬張りながら朝での出来事をメモ帳に書き留めていると、ついに「一昨日」と違う出来事が起こった。


「あれ? ライナー先生!!」


「?」


 後ろを振り返ると、どうやら学食を買いに来たライナー先生が財布を持っていた。


「こんにちは~!」


 先生は周りの生徒に元気よく挨拶をする。


「先生、なんでここにいるの?」


 ある生徒が先生に理由を聞くと、


「アハハ、実は私、お弁当忘れちゃって……」


と、先生は少し恥ずかしそうに笑っている。


「そうなんだ! 先生でも忘れることあるんだ!」


「当たり前です! だって人間ですから!」


「「あははは!!」」


 先生の開き直ったドヤ顔に、生徒たちは楽しそうに笑っていた……



(あれ? これって……!)


 チェリードは急いでこの出来事を書き留めた。

 

(そうじゃん、こんなの一昨日は無かったじゃん! てことは……ハッ!)


 書き留めている最中、何かに気づいたチェリードは文字を書いている手が止まった。それと同時に、鉛筆を持つ力が抜けて手から離れて落ちてしまった。


 鉛筆が落ちたことに気づいた先生は、鉛筆を取るために彼に近づいた。


「あ、チェリード君、これ落とした――――」


 そして、偶然メモの内容を見てしまった。一瞬、先生の目の瞳孔が小さくなった。が、すぐさま笑顔を取り戻し質問してきた。


「ん? これ何書いてるの?」


 内容を見られたチェリードは咄嗟に隠し、


「い、いや、特に……」


と答えた。


 「あっそう」と相槌を打つと鉛筆を机に置き、何事も無かったかのようにさっきまでいた生徒の元へと戻っていた。


「……………」


 彼はただ先生の姿を茫然と見ていた。あの時、一瞬メモの内容を見たときのあの表情がやけに頭に残った。


 同時に、確信が持てた。




 午後の固有能力の練習も終わり、皆が帰り始める中、チェリードは一人、ライナー先生へと近づいた。


「ねえ! 一緒に帰ろ!」


 チェリードが先生に近づこうとした時、リーナが声をかけてくれたが、「用事がある」と言い、誘いを断ってしまった。リーナは「そっか!」と言って、他の三人と一緒に帰ってしまった。



 一歩、また一歩と近づく足音に気づいた先生が振り返ると、真剣な顔をしたチェリードがいた。


「……ん? どうしたの? チェリード君」


 先生が少ししつこそうに、かつ不思議そうに聞くと、チェリードは少しの間を空けて、言った。



「先生、ここ三日間、何かおかしいと思いませんか?」

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