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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第29話「次の日……? Ⅲ 」


「お前、なんか気持ちわりいよ」


 稽古が終わり、カデン先生が最初に言った言葉がそれだった。チェリードは言っている意味がわからずすぐに聞き返した。


「え? 気持ち悪い? どこがです――――」


「お前、なんで俺の戦い方知ってるわけ?」


 一瞬、心臓がキュッとなった。彼は先生の言葉を聞いて、一瞬で冷静さを失ってしまった。


「え……? いや、なんていうか、たまたまというか、その」


「はあぁ~…………」


 チェリードのドギマギした様子を見て溜め息をつきつつ、先生は一歩前に足を踏み出して彼の目の前に立った。


「俺は教師になってから、人前じゃあ()り合うことも減ってよぉ、俺の戦ってる姿を見たことない奴の方が多いわけだ」


「………………」


「それなのにさぁ、お前……あれ、名前なんだっけ?」


「チ、チェリードです……」


「あ、そうそうチェリードね、俺はお前のこと全然知らなかったのに、お前は俺のこと知ってた。なあ、なんでなんだ? なんでお前は俺の戦い方を知ってたんだ?」


 その時の先生の問い詰める姿は、その顔つきや身長も相まって高圧的に感じられた。彼はその威圧感に押され、自然と体が固まってしまっていた。


「………………」


 チェリードが取った行動は、沈黙であった。圧倒的に不利な立場であると分かった上で、沈黙を貫いた。


 彼は、今自分に起きているこの状況を話したところで理解してもらえないとわかっていた。もし仮に言ったところで、むしろかえって混乱するだけだということもわかっていた。だから、彼は終始黙ることにした。


「おい……聞いてんのか? なぁ、なんか言ってみろよ」


 しかし、先生はそんな彼の様子に少しの苛立ちを覚えていた。今の先生の言葉の語気からそう読み取るのが自然だろう。徐々に眉間にシワが寄っていくのが見えた。


(まずい……このままじゃカデン先生ブチ切れるな……)


 どうにか状況を打開せねばと危機感を抱いたチェリードに、ある一つの打開策が浮かび上がった。



「す……」


「あ?」


「すみませんでしたぁ!!」


 先生の高圧的な態度に臆しながら、精一杯の謝罪をした。そして、


「じ、実は先生の戦ってる姿、たまたま見ちゃって……それでめっちゃかっこいいなって思って、それで、あ、見たのは一瞬だったんですけど、めちゃくちゃ印象的で、それで……!」


 彼は一つの嘘をでっち上げることにした。「実は前に先生の戦う姿を見ていた」ということにすることで、この状況を切り抜けようと考えたのだ。


「もういい」


 彼の嘘を聞いた先生はそう言って、呆れながらも納得したような表情を見せてくれた。


「もうわかったから、もう帰れ」


 先生はぶっきらぼうに言いながら、早くどっか行ってくれと言わんばかりに手をしっしと振った。どうやら、先生をどうにか納得させることができたらしい。本当に納得いっているかはともかく、ひとまず危機を脱したということだ。


(あっぶねえ……)


 チェリードは心の底から安堵した。


「そ、そうですか! では、俺はこれで…………」


 チェリードは軽く会釈をしながら帰ろうとした。



 そしてまた、視界がぐるんと回った。



「『転倒(フォルダウン)』」


 先生がボソッと魔法を唱えていた。そして先生はわざと足音を立てながらチェリードに近づいてきた。


「なあ、お前」


「ぐっ……なんすか……」


「やっぱお前おかしいよ」


「はぁ? なんでですか! 俺はさっき先生のこと――――」


「俺は目と耳が良いんだ。だから、誰かが隠れて見てるとか誰かが俺の噂してるとかわかるわけ」


「!?」


 彼は何を察したのか顔を青ざめていた。


「やっぱ俺ぁ見たことねえんだわ、お前のこと。どうやって俺の戦闘スタイルを学んだのか知らねえが、次からはバレないようにしろよ。ったく……」


 ――――思えばあんな見え見えな嘘が、教師に、ましてや人生経験豊富な大人に通じるわけがなかった。


 きっと目も泳いでいたし、説明する時も随分と事細かに説明していた。チェリードはなにぶん嘘を付くのが苦手らしかった。


「まあ今回はいい。別に知られたからって特に問題はねえ、ただお前が気持ち悪いだけだったってだけ」


「………………」


 彼は何も言うことができなかった。ただ自分が嘘を付くのが苦手だったこと、そして何より、自分が付いた嘘で先生を怒らせてしまったこと、それが精神的に辛くて口を開くことができなかった。


「ほら、早く行け」


 先生が優しく背中を叩いた。


「…………はい」


 チェリードは申し訳なさそうに言うと、一人でトボトボと家に帰るのだった。



――――――――――――――――――――――――



「…………………」


 師匠の家に着くまでの間、彼は転生前のことを思い出していた。


(そういえば、高二になってからはずっと虐められてたっけな…………)



 高二の秋、チェリードもとい桜井(しるべ)は虐めに遭っていた。夏頃から既に導の彼女が虐められていたのだが、彼女を庇ったのをきっかけに彼も虐められるようになってしまった。


 彼は元から気が強かったわけではなかったので、時が経つにつれだんだんと精神的に衰弱していった。



 桜井導には一つ、恐れていたものがあった。それは、他人を怒らせたり、不快にさせたりすることだった。


 幼少期から彼は、常に人を怒らせないような生き方をしてきた。人を怒らせることは良くないことだと、母に言われ続けてきたからだ。


 それゆえ、人に怒られるとひどく傷つき、落ち込むようになってしまった。怒られ慣れていないのが原因で、叱られたり説教された後は一人で泣く時さえあった。



「はぁ…………」


 チェリードの頭の中は、「怒られてしまった」ことでいっぱいだった。自分の発言に対する後悔が彼を取り巻いていた。


(なんであんな嘘言っちゃったんだ、俺…………ばれるってわかってたのに……クソッ)



 そしてしばらく歩いていると、たった一回怒られただけだというのにひどく落ち込んでいる彼の後ろから、怒られても全く動じなさそうな一人の少女が走ってきた。


「あ、リーナ」


 チェリードの姿を見かけたリーナがこちらへと走ってくる。


「チェリード! 一緒に帰ろ!」


 リーナはニコッと笑いながらそう言った。


 そんな彼女の可憐な笑顔に癒され、彼は少し心が和んだ気がした。


「ああ」


 彼も少し微笑んで、残りの帰路を彼女と話しながら歩いていくことにした。



 この時ばかりは、「昨日」が繰り返されているという現象を忘れることができただろうか。

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