表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
27/66

第24話「修行、授業、訓練 Ⅲ 」


 一時間目は「歴史」。


 この授業では、この大陸「アミュゼ大陸」における、過去に起きた事象やかつて存在した文明や文化、また、魔法の歴史についても、この授業で取り扱われる。


 ちなみに授業は毎回五十分程度で行われる。


「今日は、魔法の歴史についてやっていこうと思います」


 歴史の担当の教師は「ケル」と書かれた名札を首から下げながら、キリッとした顔で授業を進めていく。早くも遅くもないペースで、適度に生徒を指しながら、真面目に授業を展開していく。


「『最古の四士』がとある儀式をしたことによって、魔法の歴史が始まったわけですが、その儀式が起きた場所が資料のここに…………」


 窓の外をぼんやり眺めながら、淡々と内容をこなしていく先生の姿を目の端でチラッと見ていると、チェリードは何となく前にいた高校の日本史の教師を思い出した。


 まるで生気が感じられない顔に、腹の底から出しているのかわからない中途半端に小さい声、それから…………


 コツン


 昔のちょっとした思い出に耽っていると、頭に固形物が当たった。ポトンとズボンに落ちたのを見ると、それは白色のチョークだった。


「こら、チェリード君。ちゃんと聞かないとダメですよ。君は遅れてここに来たのですから、集中してもらわないと」


 先生はこちらをじっと見ながらしっかりと注意しつつも、その声には優しさがほんのり含まれていた。


「あ、すみません」


「………………で、ここで魔法の種類が一気に広がっていったわけですが、これは四士の中の…………」


 彼が軽く謝ると、先生は何も言わずに授業を再開した。



 歴史の授業が終わると、二時間目には数学が始まる。「数学」といえど、やることと言ったら四則演算がメインだ。


 チェリードはもちろんリーナも、小学生はとっくに経験しているし、高校生だってやっていた。そんな二人にとって、この授業は退屈なものになるだろう。


「はい! 今日は引き算から勉強していきましょう!」


 数学の先生は「ユーリ」という、赤い口紅が印象的なメガネのおばさん教師だった。


「教科書のここのページに書いてある通り、ここの計算は一の位から順番にしていくと解くことができます。もし上の数より下の数の方が多かったら、十の位から…………」


 授業内容はいかにも小学生がやるような内容だった。既に高校生を経験している二人にとって、この内容はあまりにつまらなすぎるものだった。


(退屈だなぁ~……チェリードも同じこと考えてるのかなぁ)


(はぁ~…………殺人鬼でも教室に入ってこねえかなぁ…………あ、入っても他の人がすぐに倒すか、意味ねえじゃ~ん……)


 男児なら必ずは妄想するであろう、「もし教室に危険な人が入ってきたら」。しかしこの誰もが魔法や固有能力を持っている異世界、そんな妄想をしてもただ虚しいだけに気づいたところで、二時間目の数学は終わった。



 三時間目は「医学」について勉強する。といっても、やる内容といえば怪我の種類とそれに応じた対処法や治療薬の効果など、どれも簡単で、かつこの異世界では特に重要になってくるものだ。


「お前らいいか!! 切り傷ってのはなぁ!!」


 彼はてっきり大人しい先生ばかりを想像していたようだったが、医学の担当は「ケン」という暑苦しい体育会系の男の教師だった。名前からして恐らく転生者だろう。


「浅いヤツだったら布を上から強く押し当てて止血すれば良いが、深いヤツだったら話は別だ! まず、傷の上から布を被せて、その上から治癒促進の魔法を使う! これが基本だ! 更に付け加えるなら、魔法を使いながら霧状の治療薬を振りかけて…………」


(ちくしょう……内容が頭に入ってこねえ…………てかうるせえ…………)


 他の生徒は授業に集中しているなか、教室に響き渡るほどの大きな声で説明する先生の声が五月蝿すぎて、彼は気が散っていまいち集中できていなかった。


(クソぅ……多分大事なこと喋ってんだろうけど、五月蝿すぎて全然頭に入ってこねえ……)


 結局この五十分間はただ先生の声に気を取られて終わってしまった。



 四時間目の授業は地理だった。


 この地理の授業では、アミュゼ大陸についての勉強がメインとなる。この地に存在する平原や山脈、そしてそこに生息する生物も学ぶこととなる。


「……えーと……今回は……オルタール王国周辺について、やっていきます…………」


 この学校だけなのかそうじゃないのかはわからないが、彼が授業前にクラスメートに聞いたところ、


「なあ、なんであの先生ってあんなに元気がないんだ?」


「あー……地理ってそんなに大事じゃないから、やる気が出ないんじゃない?」


 という答えが返ってきた。どうやらこの世界における地理は、元いた世界と比べるても重要度はかなり低いらしい。


「えー……皆さんが先日行ったあのフォーリッジ大森林…………あそこは森の奥に行けば行くほど空気中の魔力濃度が高くなって……あー……それに伴って魔物(モンスター)の強さも高くなっていきます…………」


(((この先生()大丈夫かなー…………)))


 首から下げている名札に「ルイドーレン」と書かれた先生は、毎日虚ろな目をしながら授業をしているので、生徒からもよく心配されている。涙目になりながら教室に入ってくることも多々あるので、生徒の間では自殺するのでは、という噂も立っている。しかし、この噂を否定する者はほとんどいなかった。


(何かあったんだろうか…………)


 チェリードも同じく、この先生のことが心配でならなかった。口をボソボソと動かしながら喋る先生は、まるで幽霊が喋っているようだった。



 四時間の座学が終わると、昼休みが始まる。


 昼休みはおおよそ四十分。昼食はこの昼休みの間に食べなければいけない。昼食は、弁当を持参したり学食に行く生徒が大半だが、チェリードは後者である。


「うわっ、今日は一段と混んでるな」


「パターン③」の時間割のクラスが多い日は、たいてい学食が混んでいる。



 というのも…………


「どいてどいてーー!」


「おい邪魔だ!! どけ!!」


「うええええん! 私の番だったのに~!!」


 午後は固有能力の訓練を行うのだが、一部の生徒は能力を使用する際に体内のエネルギーを消費したり、学食に売っている栄養剤や能力活性剤(固有能力の発動を容易にするもの)を欲しがる。


 そのため、「パターン③」のクラスは四時間目の授業が終わると一目散に学食のある一階へと駆け下り、学食を戦場へと変えていくのだ。



 チェリードは以前ドブライ家にいた時、母親が弁当を作ってくれていたので、昼食には困らなかったが、師匠の家に住んでいる今、昼は自分で買わなければいけなかった。


 幸いお金は師匠から支給されるので、買う食べ物には特に困らないが、とはいえ学食は戦場。そう簡単に昼食にありつけるとは考えにくい。


 並び始めて約十分、ついに昼食にありつけた彼は、教室の自分の席に座り、少し固めのパスタが挟んであるパンを頬張った。



 昼休みが終わると、次は固有能力の訓練が始まる。


「はーい! 今日は校庭でやるから、皆並んで~!」


「「「はーい!!」」」


 五学年全部が校庭に集まるのは無理があるので、校庭に残るクラス以外は、学校がいくつか所有している土地に分散している。チェリードがいる一年Ⅱ組は、今回は校庭で行うようだ。


「はい! 今日は固有能力の練習です! 各自で練習するなり、他の先生に付き合ってもらうなり、好きに練習して下さーい!!」


 固有能力の訓練と聞くとかなり厳しいものを想像してしまうかもしれないが、実際はただ楽しく能力の練習行うだけである。


 たかが十歳に死と隣り合わせの苦行をやらせる方がおかしいのだ。


「カデン先生」


 チェリードは練習を共にする友達がいないので、メロがいるⅣ組の担任、カデン・ルック先生の元へ行って、声をかけた。


 なお、ジェイルは一人で練習し、デセリンとリーナは他の友達と練習をしていた。しかし、彼にはそこに入り込む勇気はなかった。


「お、どうした」


 先生は魔法学の担当をしている、白髪を生やした五十代くらいの男教師だ。チェリードに気づいた先生は、校舎の壁に寄りかかりながら彼の方に目をやった。


「俺と、戦ってくれませんか」


「ほう、それまたどうして?」


「先生が近接格闘のスペシャリストだって聞きました」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 昼食のパンを食べ終わった後、彼はⅣ組へと出向き、メロに会っていた。



『あ、メロ。いたいた』


『あ……チ、チェリード君。どうしたの?』


『確か今日、固有能力の訓練やるのって、Ⅱ組とⅣ組だよね?』


『う、うん。そうだけど…………』


『そっちの担任って確か……あ、カデンだっけ? あの先生がどういう人なのか知りたいんだ』


『うーん……私もよくわかんないけど、噂だと先生やる前は格闘家だったらしいよ…………だから、近接格闘は得意なのかも……』


『へえ~そうだったんだ。ありがと!』


『あ、ちょっと! まだ言い残したことが…………あっ…………』


 メロの言いかけたことを聞かずに、彼は教室を飛び出ていってしまった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「――――なるほどな」

 

 チェリードの言葉を聞いた先生は寄りかかるのをやめ、無愛想な顔をまま準備運動を始めた。


「しかしお前……お前んとこの先生じゃなくて良かったのか? あの人の方が良いと思うんだが」


「いや……いいんです」


「そうか」


 彼の嫌そうな顔を見たからか、先生は無理に詮索をしなかった。



「うし、じゃあ始めるぞ」


 校庭の真ん中の方に来て、先生はそう言いながらゆっくりと構え始めた。


「とりあえずアドバイスとかは戦いながら教える。それでいいな?」


「はい、お願いします」


 彼は戦う前から既に先生から放たれている覇気のようなものに圧倒されていた。まるで体が萎縮してしまうような圧力が常にかかっているような気分だった。



「――――はぁ……よし、行くぞ!」


 先生の低く唸る掛け声と共に、彼の実戦練習が始まった。

 カデン・ルック

 固有能力「???」

 オルタール王国立学童教育校の一年Ⅳ組の担任。年齢は52歳。ボサボサの白髪と傷んだコートを着ているのが印象的な、大雑把な人柄が特徴的。先生をする前は冒険者をしており、格闘家をしていたようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ