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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第22話「修行、授業、訓練 Ⅰ 」


『アサアアアァァ!! アサアアアァァ!!』


「やかましい!」と思わず言いたくなるほどの声量で、鳥は今日も鳴いている。ジタバタと動く目覚まし時計は今日もチェリードを無理矢理起こす。


「あー……あともうちょっと」


『ネルナアア!! ネルナアア!!』


「う、わかったよ…………」


 ぐったりとした体を起こし、チェリードは一階のダイニングに向かう。



 あの自己紹介をした日から二日、学校が休みだった彼らは特訓に励んでいた。厳しい特訓を乗り越え、そして今日から、また学校が始まる。


「おはよー」


「あ、リド、おはよう!」


 チェリードは独り言のように挨拶をすると、先に座っていたリーナが挨拶を返してくれた。


「三人は朝のランニングに行ったよ~」


「そっか……俺たちも早く行かないと……ふあぁ……」


 思い瞼を何とか上げながら、ダルそうに自分の席に座った。今日の朝食は、デセリンが作ったクロワッサンとサラダとスープの三点セットだ。


「お? お前たち、まだ行ってなかったのかい?」


 洗濯かごを担いだ師匠はドタドタと足音を鳴らしながら二階から下りてきた。


「あ、師匠、おはようございます!」


「おはよーございまーす」


 二人がそう挨拶しても返事は返ってこない。師匠は朝から忙しいのだ。


「さっさと食って走りに行きな!」


 そう言いながら師匠は身支度を早急に済ませ玄関から出ていってしまった。


「「はーい」」


 と返事をして、チェリードとリーナは急いでクロワッサンをスープで流し込んだ。



 ここに住むことになった弟子の一日は朝の走り込みから始まる。日の入りより前に起き、自分たちで朝食を作り、そして、身支度をして外に走り込みに行く。


 二人は身支度をすぐに終わらせ、急いで外に出た。外に出ると、丁度日の入りの時刻だったようで、遠くに見える山から太陽が昇っていくのが見えた。


「わぁ~! 綺麗~!」


「ほら、行くぞ。置いてかれる前に」


「あ、うん!」



――――――――――――――――――――――――



 朝の走り込みのルートは単純明快、しかし苦難の道のりである。家を出て向かって左に走り、山の裾野にある小屋まで来たら引き返せす。それで朝の走り込みは終わる。


 しかし、彼らに待ち受けるのは、道中には暗がりに隠れる複雑に入り組んだ森、地図でもくっきり見えるほど川幅が広い川、魔物(モンスター)がたくせん生息する草原。


 これらを乗り越え、かつ更に引き返さなければ朝の走り込みは終わらない。もはや「走り込み」という言葉では収まりきらないのではないだろうか。


「――――くそっ! なんでこんな道を毎日走んなきゃなんないんだー!」


「疲れたー!!」


 二日前に一回走ったとはいえ、彼らにはまだ早かったようだ。入り組んだ森の薄暗さと複雑さに惑わされ、とてつもなく長いと感じるこの川を渡ることで多くの体力を消耗し、更にその後に走る草原では多くの魔物が二人に襲いかかる。


「いくら魔物は倒さなくていいからって、こんなにいたら捌ききれねーよー!」


 辺りを見渡せば三十匹以上の魔物が見えるこの草原で、二人は犬型の魔獣(モンスター)の大群に襲われかけていた。


「つべこべ言わずにさっさと行かんかい!」


「うわっ師匠!?」


 大勢の魔獣の相手をしていると後ろから師匠が物凄い勢いでこちらに向かって走ってきた。


「もう三人はとっくに家にいるよ! お前たちもさっさと戻って学校に行け!」


「えー!?」


 普段は面倒見が良くて優しい師匠も、特訓になった途端に鬼教官へと変貌する。二人の走り込みが終わるのが遅いと、わざわざこちらまで走ってきては渇を入れにくるのだ。


(ていうか、いつの間に三人とすれ違ってたの!?


「ほら! あともうちょっとだよ! さっさと行った行った!」


 師匠は鬼の形相で木刀をブンブン振り回しながら二人に急接近した。そのあまりに怖さに二人は仰天しながらも逃げ出した。


「くっそおお! 追い付かれてたまるかぁぁ!!」


 チェリードは必死の形相になりながら猛ダッシュで魔物を掻き分けながら山の方へと向かった。




「はぁ……はぁ……」


「もう……無理だって……」


 二人は何とか折り返し地点である山小屋に到着した。山小屋は現在は全く使われていないのか、屋根に壊された穴があったり、蜘蛛の巣が所々に張り付いていた。


「なんだい、本気出せば全然速いじゃないか」


 後ろから追い付いてきた師匠が二人に笑いかけながら言った。二人は息を切らしながら「ハハ……」と苦笑いをする。しかし師匠は息も切らさず一切疲れていないようだ。


「よし、じゃあ帰るよ」


「え? もう?」


「当たり前さね、いつまで休むつもりだい?」


 師匠は今にも走っていってしまいそうな素振りを見せながらチェリードを覗き込んでいる。


「――――これを、毎日やるんですか? ハァ……ハァ……」


 想像以上に息が上がっていたリーナは、一面に広がる芝の上に寝転がった。地面の芝生は柔らかく、彼女の疲れを癒してしまうとさえ思える。


「キツすぎだろ…………これ……」


 チェリードも彼女に続いて体を大の字にしながら

芝の上に寝転んだ。びっしょりとかいた汗が体を伝って芝生に流れ込んでいく。まだ早朝だというのに、一日分の運動をこなしたような達成感がそこにはあった。



「んん? アーッハッハッハ!! お前たちはまだまだみたいだねぇ!」


 突然師匠が笑いだした。かと思えば、師匠の後ろに人影が見え始めた。その人影はこちらに迫ってくる。


「うん? あれは…………」


 チェリードが人影に気づいて立ち上がったその瞬間、


 ビューーーン!


 風を切る音が聞こえるほどの突風と砂埃がこちら側に降りかかってきた。一瞬三人ぐらいの人影が通り過ぎたのが見えた気がする。


「ゲッホゲッホ…………」


 咳き込みながらも辺りを扇いでいると、


「師匠! こんなところにいたんですか!」


 砂埃の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「この声は……デセリン!」


 砂煙の中から出てきたのは、デセリン、ジェイル、メロの三人の弟子だった。


「ん? なんだ、二人もいたのか」


「え!? 嘘!? なんで三人がここに!?」


 まさかの登場に、リーナはとても驚いていた。


「あ、えっとね……? さっき走り込みが終わったんだけど、師匠がどっか行っちゃったし、まだ時間に余裕があるからって、ジェイル君が『もう一度走ろう』って誘ってくれんたんだ……」


 メロがいつも通りのおっとりした口調でここに来たわけを説明してくれた。しかし彼女もまた一切の疲れを見せてはくれない。


「へぇー……え、じゃあこれで二周目ってこと!?」


「あぁ、そうだが。最近は二周走ることが多いな」


 彼が三人のタフさに驚いていると、ジェイルは素っ気ない様子で答えた。


「はぁ~~!? どんだけ過酷なトレーニングしてんだよ……」


「お前が貧弱なだけだ」


「……おいおい、そんな言い方はないだろ」


「大体、お前らは来るのが遅すぎるんだ」


「はぁ~? 俺らはまだここに来たばっかりなんだけど」


「ち、ちょっと二人ともー……」


 口論を始める二人を宥めようとリーナが仲介に入ろうとすると、師匠があきれた様子で二人の頭にゲンコツを一発いれた。


「「痛!」」


「こんなチンケなことで争うんじゃないよ、全く」


「いや、だってジェイルが……」


「フン、本当のことを言ったまでだ」


「いやだからってもうちょっと言い方が……」


「ジェイルー! さっさと行こうぜー!」


 チェリードが彼の言い方に不満を言おうとした時に、デセリンが彼の名を呼んだ。ジェイルは「ああ」とデセリンとメロに向かって声をかけた後、チェリードをチラッと見てはギロッと睨み、そのまま二人と一緒に師匠の家の方へ走り去っていった。



「――――俺、そんなに悪いことしたか?」


「ん? チェリードどうした、何かやらかしたのかい?」


 師匠が不思議そうに聞いてきたが、チェリードは話すと長くなりそうなので濁すことにした。


「いやーそんな特にこれといったのは……」


「まあいい。休憩も終わったろう、さっさと行くよ!」


 師匠は特に気にしていないようで、二人を手招きしながら我先にと走り出してしまった。見事なクラウチングスタートから走り出すその姿はまるでチーターのようだった。


「「……………」」


 あまりの速さに見とれていると、


『ウウゥ……』


後ろから人間ではない呻き声がした。低く唸るその声に気づいた二人の背筋が凍りついた。


「「!!」」


 地面に映る影がだんだんと近づいてくる。二人は目で合図をして、同時に振り返った。


 振り返った先にいたのは、


『ヴウウゥアアアア!』


 巨大なサイクロプスの魔物だった。


「キャアアアアアア!!」

「うわあああああ!!」


 想像以上の大きさだった。こんなに大きいというのに、今まで気づけなかったのがおかしいぐらいその魔物の大きさは異常をきたしていた。


 二人は魔物に気づいて一目散に逃げ出した。


「ねえリド! なんであんなおっきいのがいるのよ~!」


「知るかよそんなの! いいからとりあえず足を動かせー!!」


 サイクロプスの魔物は二人の後を追いかけていた。しかし、中々速い。体が大きいから一歩一歩の幅が多いからだろう。おそらく全力で走らなければあっという間に追い付いてしまう。


「ヒイィ! あいつめっちゃ速いじゃん! どうすんのよ~!」


「うわあああああ!!」


 脇目も振らず、二人は早く家に帰りたい一心で魔物から逃げ続けた。魔物の群れを乱暴に掻い潜り、筋肉痛覚悟で腕と足を動かしながら川を渡り、時々木に突っかかりながら森を抜け…………



 そして、全力で走り続けておおよそ十分。


「「はぁ…………はぁ…………」」


「おやおや、お前たち今度は随分早かったね~」


 無事に家に辿り着くと、師匠が玄関で二人の帰りを待っていたのだ。常時全速力で走っていたので、二人は完全に疲れきってまともに立つことすらできなかった。


 どうやら、行きよりかは速く走れたらしい。師匠曰く、「行きの半分くらいの時間だね」とのことだ。


「いやー……だってあんな魔物に追いかけられたら当然速くなるに決まってるだろ……」


 チェリードが汗を垂らしながら中腰で息を切らしてしているところに、師匠がニヤニヤしながら近づいてくた。


「へぇ~その魔物って…………」


 ジリジリと近寄りながら、師匠は手に持っていた巻物のような筒をおもむろに開けた。


「こいつのことかい?」


 筒を開けると紫色の煙が辺りに充満した。そしてその煙の中から何かが飛び出した。


 師匠がその何かに向かって指を指すと、さっきまで追いかけられていたはずのあのサイクロプスの魔物がそこにいた。その魔物は特に襲おうともせずに、ただおとなしく棒立ちで師匠たちを見下ろしていた。



(――――ああ、ハハ。なるほどね、そういうことかよ…………)


 なぜこうなったかを理解したチェリードは、目眩がした後、力が抜けてその場に倒れてしまった。

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