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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第21話「五人の弟子たち」


 雲に隠れていた月が綺麗に見え始めた頃、師匠と弟子の五人は、王国の東側にある師匠の家を目指した。


 王国の門を抜ける時に、門番が彼らを見て驚いていたのがチェリードにとって印象的だった。


 門を抜けると、だだっ広い草原の中に、草の剥げた一本道が遠くまで続いていた。


 月明かりがあるとはいえ、街灯の一つもないような道を歩くのは初めてだったチェリードとリーナは、その薄気味悪さに多少の恐怖感を覚えた。


 師匠や他の三人が平然としながら歩いてるのを見るに、「四人はいつもこの道を歩いているのだろうか」と推測した。


 夜の暗がりに震えている二人の様子を見た師匠が、


「なんだい、そんなオドオドして。ほら、明かりを付けてやるから」


 と気を効かせて、炎の魔法で手のひらに明かりを灯してくれた。二人は感謝を述べると、前を方を向いたまま「いいからさっさと行くよ」と言って、先程より早足で、師匠の家へと向かった。



 オルタール王国を出てからおおよそ一時間、暗い夜道を歩き続け、師匠の家に着いた。


 一キロ以上にも及ぶ長い道をずっと歩いていて…………正確にはほぼ小走りしていたので、チェリードとリーナは着いた瞬間に息を切らしながら地面に寝転がった。



 師匠の家は一階建てのコテージのような木造の家だった。家の周りには石と木でできた頑丈そうな柵が立てられている。


 そして何よりも広い。


 玄関の左側にはテラスがあり、ドアの横に掛けてあるランタンの光のおかげで、高級そうな金属製のオシャレなテーブルとイスが一つずつ置かれていたのが見えた。


「さあ、中に入りな」


 そう言われて中に入ると、何もしていないのに部屋の照明がパッと光った。


 二人はそれを見てポカンとしているのを誰も気にも止めず、三人の弟子はそれぞれ自分の部屋へと向かった。


「さて、お前たちの部屋をどうするか……」


「あ、部屋はまだなんですね」


 リーナがそう聞くと、師匠は少し考えるような素振りを見せてから、


「まあいいや、明日考えるとするかね。二人はそこのソファーで寝なさい」


 と呟いて、ソファーに指を指した。


 リビングに置かれている朱色のソファーは頑張れば四人同時に座れそうな程幅が広い。しかし、置かれているのはたった一つだけだ。


「わかりました――――ソファ一つだけ!?」


 チェリードがソファーが一つしかない事実に驚いていると、師匠はソファーに掛け布団を置きながら

 

「それが何か問題でもあるのかい?」


 と疑問に思っていない様子。


「だってほら! いくら大きいとはいえ二人であそこで寝るのは狭すぎると思うんですよ!!」


「お黙り! ……それとも何だい、もしかして外で野宿でもするかい?」


「い、いやぁ…………それは…………」


「わかったらさっさと寝る! いいね!」


 バタンッ


「あ…………」


 師匠は最後にそう告げて自分の部屋へ入っていってしまった。扉の閉まる音を最後に、しばらくの静寂が訪れた。


「――――どうする? リド」


「狭いけど、まあしょうがない。一緒に…………寝ようか」


 少し恥ずかしいと思いながら、チェリードはとリーナは一緒のソファーで一緒に寝た。ソファーの肘掛けに頭を乗せ、それぞれ用意された布団を体にかけ。


(今日はいろんなことが起きた日だったな)


 今日のことを振り返りながら、その日はぐっすりと眠ることができた。





         ~次の日~



『アサァァアアア!! アサァァアアア!!』


「「うわあぁあぁあ!!!」」


 二人が弟子となって初めて迎える朝は、この耳が痛くなる奇声を聞いて始まった。


「え! 何! ビックリした~~」


「全く……朝からなんだ――――ってうわ!」


 朝から不快な音を聞いてひとたまりもないチェリードは、いつの間にかソファーの傍にオウムのような鳥がいることに気づいた。


『アサァァアアア!! アサァァアアア!!』


 この鳥、まず見た目からうるさかった。全身を赤に染め、頭のアホ毛と羽が七色、目も黄緑色で朝日でキラキラと輝いている。


「うわうっさ!! 何だこいつ!!」


「あ、師匠おはようございまーす!」


 チェリードがこの鳥の鳴き声にイラついていると、師匠が階段から下りてきたことに気づいたリーナは挨拶した。


「朝飯は作ってあるから、さっさとお食べ」


「はーい!」


 ダイニングの方へ目を向けると、三人は黙々と朝食を食べていた。


 リーナは返事をするなり、すぐさまダイニングにあるイスに座って朝食を食べ始めた。


「あのー師匠、この鳥って…………」


「あぁ、どうせお前たちは早く起きないと思ってねぇ、早朝に捕まえたんだよ」


「え? 『捕まえた』って――――」


「いいからさっさと朝飯食べな!」


「は、はい!」


 師匠に急かされてチェリードは急いで席に着く。


 一つだけ空いていた席に座ると、右隣でジェイルが黙々と朝食を食べている。彼の視線に気づいたジェイルがチェリードの方をチラッと見たが、すぐ視線を戻して朝食を食べ始めた。


 あの時のことをまだ根に持っている彼を見て、チェリードは少し悲しい気持ちになったが、とりあえず今はただ朝食を食べよう、と思い、目の前に置かれたクロワッサンと黄色いサラダを食べた。



 今日は学校が休み。朝食が食べ終わった一同は師匠に「庭に来い」と言われ、玄関を出て左側にある庭に来た。


 弟子五人を一列に並ばせた後、師匠は五人の弟子を見回しながら言った。


「まあ二人が来たことだし、お前たちには自己紹介をしてもらおうかね」


 というわけで、師匠含めた計六人の自己紹介が始まった。


(そういえば、俺らってまだ師匠の名前知らないな……………)


 思い出してみると、師匠と会ったあの時から師匠は「師匠」だった。名前も知らずにここまできてしまった彼は、少し失礼だなと思いつつも師匠の名前が気になっていた。


「アタシはキーラ、『キーラ・ドッペン』って名前だよ。これからよろしくね、お前たち」


「「はい(!)、よろしくお願いします!」」


 師匠の「キーラ」という名前が今ここで明かされた。


(最初に名前を教えるのが普通じゃないのか?)


 とチェリードは思ったが、今さらそんなことを言うべきじゃないと思い、ただ「よろしくお願いします」とだけ言った。



 そして師匠は、チェリードに指を指してこう聞いた。


「で、少年の方、お前の名前は『チェリード』だったっけ?」


「あ、はいそうですけど…………」


「そうだよな。で、固有能力は?」


「『活命の盾(バイタルシールド)』です」


「『活名』……そうか、わかった」


 彼が自分の固有能力名を答えると、師匠は顔を曇らせたが、「わかった」と言って、今度はリーナの方を指を指した。


「じゃあ次、少女の方! お前さんは『リーナ』でいいんだよな?」


「そうです。リーナ・ドブライです」


「よろしい。じゃあ固有能力は?」


「『天翔神(ジークリーゼ)聖俄(ホロジスト)』です」


「ん?『天翔神・聖俄』? なんだいそれは?」


 リーナの固有能力は「天翔神(ジークリーゼ)聖俄(ホロジスト)」。チェリードは今初めて聞いた。


「いえ、それが自分でも使ったことないんです…………効果もわからないし…………両親は『それは本当に危ない時に使うんだ』って言われました」


(俺の知らないところでそんな会話してたのか……)


 リーナの固有能力はかなり特殊なものだった。


 固有能力には既存に存在する能力と新たに作られる能力の二つが存在する。彼女は後者だった。


 もし後者だった場合、儀式を行う天使から能力の効果に説明があるはずだが、彼女にはその説明が無かった。


「そうかそうか、それなら使うのはやめときな」


「はい、わかりました…………」


 そして師匠は、深い溜め息をついた。


「――――全く、ここは『異常な奴らの集まり』なのかね?」


「『異常な奴らの集まり』ってことは……他の三人もそうなんですか?」


 チェリードが尋ねると、師匠は大きく頷いて言った。


「ああ、そうだな。全員どこかしら異常だよ」


 そう言って、師匠はまずジェイルを指指した。


「こいつは『ジェイル・チェーンゾナー』。固有能力は〈鎖操者(チェーンゾナー)〉。こいつは家から追い出された放浪者だよ」


「え!? この年で!? すごいね~!」


 リーナが彼の経歴を聞いて凄いと驚いている。師匠は話を続ける。


「まあ、各地を放浪してたようだけど、私が保護したんだよ。さすがに可哀想だったからね~」


「………………」


 ジェイルは多少睨みの効かせた目付きでただ黙って話を聞いている。


「んで、こいつ『デセリン・ワーグナー』。彼はなんでもできる。それ故に異常だ。」


「え? なんでもできるのに?」


「いや、正確には『なんでもできすぎる』だ。」


「ん? どういうことだ?」


 チェリードとリーナが不思議がっていると、デセリンが、


「それはね、二人とも」


 と口を開いた。


「デセリン、説明しな」


「はい。僕はね、運動も、勉強も、魔法も、戦闘も、性格も、あまねく全てがあまりに優れているんだ」


 デセリンは、特に自慢気に言うわけでもなく、謙遜しているわけでもなく、それがまるで普遍的な事実かのように話した。


「え? それは嫌味か?」


「いやいやとんでもない! 実際そうだからね」


「そうか……(なんかこいつウザイな)」


「なんか僕の悪口でも言ったかい?」


「い、いや?」


 どうやら彼は耳も良いようだ。チェリードの呟きはしっかりと聞き取れていたようだった。


「話を続けるとね、例えば、僕は全ての魔法が使えるんだ、もれなく全てね。でも、ただ使えるだけで、一つの魔法だけを極めてる人の魔法にはさすがに勝てない。僕は全ての武器を使えるけど、一つの武器だけを練習した人の方が圧倒的に強い。そういう、『異常性』。『全て』できるけど、逆にこれといった特筆すべきものは無いとも言えるね」


 デセリンは二人にわかりやすく説明した。その喋り方はどこか知性を感じるものだった。


「はいどうも。じゃあ最後」


 と言って指を指したのは、メロだ。彼女は指を指された瞬間、ビクッと少しだけ肩が上がっていた。彼女は常にオドオドしている。


「彼女は『メロ・ブロッド』。固有能力は〈上級復活魔法(リザレクション)〉。まあこの子はアタシの一番弟子なんだけど、何せ臆病でね。だからアタシが根性鍛えてやるっつって七歳からここにいるよ」


「へぇ~。じゃあメロちゃんは異常じゃない…………?」


 リーナは言ったことに対して、師匠は、「それは違うよ」と首を横に振った。


「この子の固有能力は本来、仮に固有能力として持っていても、それを使うには恐ろしいほどの努力を積まなきゃいけないんだ。でも、この子は違う」


 と言って、師匠はメロの頭に手を乗せ撫でた。メロは少しだけ顔を赤らめて照れている。


「この子は普通習得するのに五年も要する魔法を、一年で習得できた。しかも同じような魔法を三つ」


「「三つも!?」」


「まあこの子の臆病が直らないのも、もしかしたら異常かもねぇ~」


 二人が目を丸くして驚いていると、メロが恥ずかしがりながら、


「もぅ~余計なことまで言わないで下さいよ師匠~」


 と師匠に言った。


「ハッハッハ! それは悪かったね」


 と師匠もしゃがれた声で笑って返している辺り、師匠とメロは長い付き合いなだけあって仲が良いんだなと、チェリードは二人を見ながら思った。



「――――よし! これで自己紹介は終わりかね?」


 一通り皆の自己紹介が終わり、師匠は確認のためにデセリンに聞いた。


「はい、全員終わりました」


 と返事をすると、


「わかった!」


 と言った。そして、


「よく聞けお前たち!」


 とひときわ大きい声で五人の弟子に言い放った。


「改めて言おう! ここに来た弟子たちの目標はただ一つ! 強くなること、それだけだ!」


 今、彼らの目の前に立っているのは、先程まで笑っていた師匠とは全く違う、「師匠」と呼ぶに相応しい風格を持った人だった。


 「個々の才能や固有能力の強さを伸ばし、より強くなってもらう! 己を理解し、己の取るべき行動を己で考え、己に勝つ! 友と共に高め合い、競い合い、そして、誰にも屈しぬ冒険者となること、それがここに弟子入りした者の目標だ! お前たちわかったかね!」


「「「「「(は、)はいッ!!!」」」」」


 今まで現れていなかった威厳と風格を前に、二人は自然と返事をしていた。


「よろしい! ならいつも通り、走っておいで」


「「「(わ、)わかりました!」」」


 ジェイル、デセリン、メロの三人は返事をした後、師匠の真横を通りすぎて、家の柵を超え、そのままどこかへと走り去ってしまった。


「さあお前たちもお行き、置いてかれるよ、あの子達は速いから」


 と師匠が後ろを指差すと、あの三人が蟻のように小さく見えるほど、先の方で走っていた。


「行けるのか……? これ……?」


 チェリードは明らかな次元の違いさに驚いていると、


「行こ! まだ間に合うよ!」


 とリーナが背中をポンッと叩いてくれた。


「――――よし! じゃあ行くか!!」


「おー!!」


 二人もまた、師匠の真横を過ぎ去り、柵を飛び越え、あの三人の元へと走り出した。




 こうして、チェリードとリーナの特訓生活が始まった。師匠と、弟子のジェイル、デセリン、メロの三人と共に、一緒に住み、一緒に特訓する。そんな生活が今、始まったのだ。

 師匠、及び五人の弟子の概要については、次回投稿される「番外編」にて明かされます。

 お楽しみに。

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