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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第20話「必然は偶然の昇華」


「なあ、この後商店街へ寄ってかないか?」


 オルタール王国内に着いたチェリードはリーナに問いかけた。


「え? でも先生は『寄り道しないように』って…………」


「いいじゃん? 別に帰るのがちょっと遅くなるだけだし」


「えぇ~? 私結構疲れたんだけど~」


 チェリードは復活したばかりなので体力が有り余っているようだが、リーナ含めた生徒達は朝からずっと戦っている。当然、疲れるに決まっている。


 だが、チェリードはどうしてもそこに行かなければいけなかった。それが彼の今やるべき事なのだから。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 遡ること数時間前、森の番人と戦っていた時、チェリード・ドブライは三度目の死を迎えた。そして勿論、()()()()へも行った。


『お~チェリード! よく来たのう!』


 神様は相も変わらず緊張感の無い歓迎をしてくれた。


『あぁ、どうも……』


 複雑な思いを胸にしまいながら返事をした。


『あれ? なんか元気がないの~う…………何かあったのか?』


『まあな……』


『まあ聞かずとも儂は全部知ってるけどな』


『へっ、じゃあ聞かなくてもいいじゃないか』


 鼻で笑いながらちゃぶ台の前に座り、目の前のお茶を啜った。喉の潤いが自分の心を満たしてくれるような気分になった。


『プハァ……! じゃあ早速質問しようかな』


『さあて、君は何を聞くのかな~?』


『そうだな…………あ、森の番人ってどれくらい強かったのか教えてくれ』


『ほ~うなるほどな。ちと待ってておくれ』


 一つ目の質問は、「森の番人の強さ」について聞くことにした。回答は……『中堅の冒険者が仲間と一緒に戦ってギリギリ倒せるぐらい』だった。


 だが、本当に聞きたいのはこれじゃない。すぐに二つ目の質問に移った。


『俺はこの後どうすればいい?』


 そうだ。聞きたいのはこれだ。


 ゲフンと咳払いをしてから神様は言った。


『森林実習が終わったら、王国の中心にある商店街へ行け。そこで、新しい出会いが待っている』



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 王国の商店街に行く。その行動自体に何の意味があるのかわからなかった。だが、行けば新しい出会いが待っているというのはきっと確実なことなのだろう。


 嫌がるリーナを引っ張っていきながら、チェリードは王国の中心部に位置する商店街へと向かった。


「うわああああ!! すごい! 人がいっぱいいる!」


 いざ商店街に着いてみると、もう日が落ちかけているというのに人混みで溢れていた。黒に染まり出した空も相まって、まるで屋台がずらりと並んだ夏祭りのようだった。


「夜中だってのにこんなに人がいるのか……」


「ねえねえ! 早く行こ!!」


「え、うわちょっと待ってよ!」


 感情が昂っているリーナは、あまりの人の多さに驚いているチェリードの手を引っ張って人混みの中へ潜り込んだ。



「安いよ安いよ~! 今日はギンギラの肉が安いよ~!」

「すみませーん、これ一つください」

「なあそこのお兄さん! このお守り一つ買っていかない?」

「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今から見世物ビックリショーが始まるよ~!」


 あちらこちらから色んな声が聞こえてくる。接客の声や値切りを求める声、品物を見てビックリしている声に笑い声。人の隙間を掻い潜りながら、二人はこのお祭り騒ぎを楽しみながら歩いていた。


「リーナ、何か買いたいものとかあるか?」


「え!? リドもしかしてお金持ってるの!?」


「あ」


(肝心のお金を持っていないじゃないか! 何言ってるんだ俺は……)


「ごめん、さすがに持ってるわけがなかった……」


「だよね……アハハ…………」


 ……話を切り出したは良いが、それ以降言葉が続かず、ただただ歩き回る時間がしばらく続いた。



 人混みを抜けた先には、ちょっとした広場になっていた。中心には噴水があり、優しい街灯が辺りを照らしている。



 傍らには木製のベンチがいくつかあったので、「あそこで一休みしよう」とリーナに言い、ベンチに座ろうとした。


 しかし、


 ドン。


 通りかかった誰かとリーナの肩がぶつかってしまった。


「あ、すみません」


 そう言って振り返った先には……


「あぁ?」


 なんとも柄の悪そうなお兄さんが偉そうに立っていた。


「なんだぁお前? 今わざとぶつかっただろ?」


「え、いや、そんなわけじゃ」


「お前女だからって許されると思ってんのか! あぁ!?」


 男は荒々しい声でリーナに怒鳴り付けた。自分よりも年上の男性に責められている状況にリーナは思わず萎縮してしまい、涙目になっている。


「おいお前! 肩がぶつかったぐらいで言いすぎだろ!」


 すかさずチェリードがリーナを庇う形で会話に入ったが、


「うっせーなぁ小僧!!」


 ブォンッ!


 男の手から爆弾が放たれたのが一瞬見えた。


「ぐわっ!」


 チェリードはその爆発によって吹き飛ばされ、近くの建物の壁にめり込んだ。


「うがぁっ! くっそ痛え! 」


 爆発による熱で、顔全体が焼けるように痛い。もはや目も開けることができない。


 吹き飛ばされる彼を片目にニヤリと笑いながら、男はリーナの方を見ながら、


「ハッ! お前の彼氏はクソ雑魚だなぁ~!」


 と言い放った。


(くそ! いくらムカついてるからって……ッ!この仕打ちはねえだろ…………ッ!)


 爆発による顔の痛みと壁に衝突した時の体全身の痛みは彼に動く気力すらも与えなかった。


「言っとくが俺は男女平等主義だからよぉ……ムカついたからには女でも容赦しねえ……」


「え、嘘? そんな……」


 リーナは怖くなって後ずさりするも、偶然後ろにあったベンチに気づかず、よろけてそのベンチに座ってしまった。もう後がない。


「オラァ!! 歯ァくいしばれぇぇ!!」


「キャーー!!」


 男が拳を振りかぶった次の瞬間!



「〈衝撃波(クレッシャート)〉!」 



 どこかで聞き覚えのある声だ。


「うわっ!!」


 そしてその直後に、男の断末魔。


 重くのし掛かった(まぶた)を少しずつ開けると、そこには森林実習の時にチェリードを助けてくれたメロが立っていた。そしてその後ろにはジェイルとデセリン…………更に後ろには仁王立ちをしたおばさんがいた。


「お前たち、やっちまいな」


「「はい!」」


 二人は返事をすると、デセリンは男の真正面、ジェイルは男の真後ろに立ち、


「〈束縛(バインダ)〉!」


「〈速度低下(スピーダウン)〉!」


 と、二人同時に魔法を唱えた。


「ぐっ……! おいお前ら何のつもりだ!」


 男は怒鳴っているのを見ておばさんはニヤリと笑っていた。


「まあたまには慈善活動しないとねぇ~」


「師匠、こいつどうします?」


 ジェイルはそのおばさんのことを「師匠」と呼んでいた。彼の質問に対しおばさんは、


「まあそうだねぇ、しばらく縛っておき」


 と言い放った。


「わかりました」と彼が答えると、魔法で縛り上げられているその上から鎖で男を拘束した。



「よし上出来だ。メロ、あの小僧を助け出してきな」


「は、はい!」


 壁に寄りかかって気絶しかけているチェリードに、おばさんに指示を受けたメロが颯爽と近づいてきた。


「あ、あの! 大丈夫……ですか?」


「あぁ……――――って君はあの時の…………」


「?…………あー! あなたはあの時の!」


 二人はお互いに気づいた。森林実習の時、チェリードが死んだ時に復活していたのはメロだった。


「いやー……二回もありがとね…………」


「い、いえ! いいんです! ただ言われた通りにやってるだけですから……」


 メロの透き通った優しい声に、チェリードは安心感を覚えた。


 

 チェリードの回復が終わると、リーナが彼の元に駆けつけて心配してくれた。


「リド! 大丈夫?」


「ああ、全然。リーナこそ大丈夫か?」


「うん……でも結構怖かった」


 二人が話していると、いつの間に傍まで来ていた師匠と呼ばれるおばさんが聞き耳を立てながら、


「ん? もしかしてお前たちはあのドブライ家の?」


 と聞いてきた。


「え? なぜそれを?」


 とリーナが問い返すと、


「いや~! まさかこんなところで会うとはね~! 『必然は偶然の昇華』っちゅう言葉はこういう時のために使うのかもね~」


 と答えた。


「必然は偶然の昇華」という諺のような言葉がこの世界にあるのか、とチェリードが感心していると、おばさんは突然大きな声を出しながらこう言った。


「よし、お前たち!!! 二人を弟子にしてやる!」


「え? 弟子? それってどういう――――」


「もう既にあの夫婦には話はつけてんだ、安心しな」


「え? でもおばさん、私たちまだ――――」


「アタシのことは『師匠』とお呼びッ!!!」


「「は、はい~~!!」」


(一体どうしたらこんな流れになるんだ……)



 こうして、言われるがままにチェリードとリーナはおばさ…………師匠の弟子となった。


「よし! お前たち! 行くよ!」


「「「(は、)はい!」」」


 そして二人はいまいち状況を飲み込めないまま、師匠とデセリン、ジェイル、メロの三人の弟子と共に、これからしばらくお世話になるであろう師匠の家へと向かうことになる…………

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