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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第19話「森林実習 Ⅶ 」


 そして、空が夕焼けに染まりだした頃。


「というわけで! みんな! お疲れさまでした~!!」


 まるで何事も無かったかのように、ライナー先生の機嫌はすっかり戻っていた。心なしか以前の先生より生き生きとしているように感じられる。


「ちょ~っとだけハプニングがあったみたいだけど、皆無事に終われて良かった~!!」


 という発言に対し、


「ハハハ…………」


スパラは苦笑いをし、


「…………チッ」


ラハークは舌打ち、


「………………」


マルーサはただただ俯いていた。



「――――さて! それではみんなが気になっている、集めた魔力が多い人を発表しまーすっ!!」


 先生のその一言に、クラスメート全員が「イエーイ!」と、歓喜の声を上げていた。皆が誰が一番かを話合っているなか、四人は肩身が狭いことを感じながらヒッソリと後ろの方で棒立ちになっていた。


「ではまず第三位! 三番目に多く魔力を集めたのは、リーナ・ドブライさんでーす!!」


「わーい! やった~」


「え!?」


 自分の耳を疑った。まさかあのリーナが知らない間にそんなに魔力を集めていたとは。


 予想外だったリーナの三位という結果は、彼を吃驚させた。



「続いて第二位! 二番目に多く集めたのは、デセリン・ワーグナー君です!!」


「よっしゃ!!」


 二位になったのは、デセリン・ワーグナーという男子だった。しかし、この「デセリン・ワーグナー」という名前、教室に居た時にで度々名前を聞いていたので、たった今、その名前と顔が合致した。


「まあどうせトップ3には入るだろうな……」


「あの人ってそんなに強いのか?」


 チェリードがマルーサに尋ねると、嫌そうな顔をしながら答えてくれた。


「あいつは成績優秀で運動神経抜群、性格もめちゃくちゃ良いし皆の人気物だ。武器も全部扱えるし魔法もたくさん使える。更に言うとあいつは貴族の生まれだ。全く、どうしてあんなに恵まれていやがるんだ畜生……」


 「天は二物を与えず」という言葉とはかけ離れた存在のようだ。このデセリンという男は才能と家柄、どちらにも恵まれており、その上性格も良いとなると完璧超人と言わざるを得ない……



「そして! 堂々の第一位は!? ジェイル・チェーンゾナー君でしたー!!」


「………………」


「「「おおおおお!!!」」」


パチパチパチパチ


 魔力を一番集めたのは、勿論ジェイルだった。クラスメートが大きく手を叩いて拍手をしているなか、彼はただ黙って遠くの方を眺めていた。


「ジェイル君おめでと~!」


「……………どうも」


「後で一位になった賞品あげるから、ちょっと待っててね~!」


「………………」


 ジェイルはまるで自分とは関係ないみたいな素振りをしていた。チェリードは思わず腹が立ってきたようだ。


「なあ……ジェイルって普段からああだったのか?  ちょっとムカついてきたんだけど」


「ああそうだ。普段はクールに振る舞ってるんだ、あいつは。それなのに悪事とか事件にはすぐ気づいて正義のヒーロー気取りっつーか……」


「へえー。どおりであの時は声張ってマルーサ達を注意してたわけだ」


「おいおいその話はやめてくれよ……」


 二人が後ろの方で談笑していると、ジェイルが突然こちらを睨み付けてきた。それに気づいた二人は顔を近づけコソコソと話し始めた。


「(おい、なんか睨み付けてきてるぞ! チェリードお前なんかやったのか!?)」


「(なんかあの時俺がマルーサ達に攻撃したみたいに誤解されてるんだよ)」


「(はぁ!? お前まじかよ俺らのこと攻撃してたのか!?)」


「(違――――うとは言い切れないけど! 俺じゃない奴がやったことで、俺自身はやってないの!)」


「(何言ってんだお前――――)ってあああ!! 思い出した! おいチェリード俺のこと見殺しにしただろ!」


「違うんだって! それは俺のもう一つの人格がやったことで……」


「ああもう二人とも! 話すのやめて――――」


 スパラが仲裁に入ったところで、今日の実習について話していた先生が二人に気づいた。


「こら~! 二人とも何喋ってんの!!」


「あ、先生!!」


「今は私が話してたでしょ!! 私が喋ってる時は黙って聞きなさい!!」


「「はい…………ごめんなさい…………」」


 二人はしゅん……となりながら謝った。前の生徒達の視線が後ろの一点に痛々しく刺さる。


「――――はい! ということで! これにて『遠足』は終了でーす! 皆さん、気を付けて帰って下さいね~!」


「「「はーい!!!」」」


 「寄り道しないように!」という言葉を添えながら、これが「遠足」だったことを思い出し、長かった今日の森林実習が終わった。


「それから、今から名前を呼ぶ人は私の所に集まってください!! チェリード君と、マルーサ君、スパラ君、あとそれから…………」



 …………どうやらまだ終わらないらしい。



―――――――――――――――――――――――



 案の定呼び出されたのは、チェリード達のグループ四人とジェイルだった。先生は五人全員揃ったのを確認してから、あることを彼らに向けて質問した。


「ねえ、君たちがあの森の番人と戦ってた時、赤黒い竜巻を見なかった?」


 先生は先程のような元気な様子は見せず、真剣な表情で質問した。


「「!」」


「竜巻……ですか?」


 ジェイルとマルーサは何かに気づいたような表情をしているが、チェリードは全くわからない。チェリードが聞き返すと、先生は次のように説明した。


「お昼を過ぎた頃にね、急に森の奥の方から赤色と黒色が交ざり合った竜巻が一瞬見えたの。あの竜巻が見えてからしばらくして、私がジェイル君に奥の方へ行ってきてって言ったんだけど…………マルーサ君は何か知ってるかな?」


 先生はマルーサの方を見ながら問いかけた。するとマルーサは目を泳がせながら、


「いやぁ……特に何も…………」


と、わざわざ隠す必要の無い見え見えな嘘を付いた。先生も勿論それを見抜いて、


「どうせ早く終わって帰りたいからって、嘘ついてるでしょ! 正直に話なさい!!」


と、マルーサを叱った。そして、マルーサは正直にその時の状況を語り始めた。


「俺達は森の番人と戦ってたんだが、スパラが死んだ後、チェリードはどっかに吹っ飛ばされちまったんだ。そのあと、ラハークと二人で頑張ってたんだけど、ラハークも死んじゃって…………それで一人で戦ってた時に見えたんだ、丁度チェリードが飛ばされた方向から、あの竜巻が……」


 ということは、竜巻の正体はもしかして俺なのか…………?


 チェリード自身も薄々感付いていた。もし体が乗っ取られた時と竜巻が現れた時が同時だったら、間違いなく竜巻を生み出したのは彼だ。


 そして、その推測が明確になるような発言をした。


「そのあとに、こいつが現れたんだが…………あんまり良く見えなかったけど、やけに赤黒い色してたような気がすんだよなぁ…………」


「やっぱり……じゃあ俺が体を乗っ取られた時、あの竜巻が発生してたんだな」


「ちょっと待って、『体を乗っ取られた』って何?」


 赤黒い竜巻の正体がわかったところで、次は体を乗っ取られた話に移るようだ。


 そういえば、まだ先生やジェイルには話してないよな、なんて思いながら、マルーサ同様、チェリードはあの時の話を丁寧に話した。




「…………なるほどね~まさかそんなことが起きてたなんて」


 一通り話し終わると、先生は怪訝な表情をしながら納得したような口調で言った。一方ジェイルはずっと黙っている。


「だからマルーサ、ジェイル。二人は誤解してたんだよ! 俺がマルーサ達を攻撃するわけないし、マルーサを見殺しにしちゃったのも、別の人格に乗っ取られてたから何もできなかっただけなんだ!」


 思えばこうやって謎の人格のことについての話ができたラッキーだったかもしれない。こうして二人の誤解を解くことができるからだ。



 彼の話を聞いたマルーサは納得したような表情をしながら、


「そっか…………あの時チェリードはそんな状態だったのか……なんかわりいな」


と謝ってくれた。


 きっとジェイルも誤解を解いている頃だろうと、今度は顔を彼の方に向けてみた。


 まだ、チェリードを睨んでいた。


 先程と一切表情を変えようとしない。寧ろ話を聞いた後の方が顔が険しいように感じる……



「――――まあとりあえず話は終わりにしましょ? みんな帰っていいわよ~」


 気だるげに話す先生の一言で、ひとまずこの話は終わった。いろいろと疑問や謎が残ったままだが、今のままでは解決しようのないものだろう……チェリードはそう考えながら、このフォーリッジ大森林を後にした。



 チェリードが森林から少し歩いていると、後ろ姿のリーナを見つけた。「おーい!」と声をかけると、リーナは万年の笑みで手を振ってくれた。


「なんでこんなところにリーナがいるんだ?」


「だって、一人で帰るのは寂しいかなって思ったから……一緒に帰ろ! リド!」


 花のように綺麗な笑顔に見とれながら「うん」と答えると、二人で一緒に学校がある王国の方へと向かった。


 道中では、今日の実習であった出来事を共有しあった。あの三人と仲良くしたことや、森の番人のこと、そして、ジェイルのこと…………


 森林から王国までの道のりは短かったけれど、今

リーナと喋っているこの時間は、とても、とても長く感じた。



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