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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第17話「森林実習 Ⅴ 」


「さあ! 次は! 次はどうする!」


『ウガアアアゥゥ!!』


 心が高鳴りが体全身を鼓舞しているのを感じる。かつての己を着々と思い出しているようだ。


「こんなものでッ! 森の番人が務まるわけがないだろう!」


(これだ。この全身から沸き立つ血の感覚。求めていたのはこれだ)


 森の番人との戦いを通じ、■■は感覚を取り戻していく。それがいかに幸福であったか、それは彼自身にしかわからない。


「オラァ!」


『ウガァァァ!!』


 動きもだんだんと速くなっている。己の拳も、脚も、心臓でさえも、己の中に存在する魂によって順応していくのが嬉しくてたまらなかった。


「ヒャハハハハハハハ!! 最っ高の気分だ!」



 やがて魔獣を瀕死寸前まで追い込んだ時には、■■の精神はチェリードの体と完全に一体化するところまで来ていた。


『………………』


「………………」


 しかし、これっぽっちの戦いで彼が満足するわけがなかった。


「もっと…………もっとオレに闘いをーー!!」


 そしてここから、■■による暴走が始まった。


 叫び声と共に、体を刻み込まれた紅黒い線は血の色に近づくようにより一層赤く染まり始める。目も物凄い速さで充血していき、そこにチェリード・ドブライの面影は微塵も残っていなかった。


 足元には血液でできた炎が円上に取り囲み、激しさを増しながら彼の復活を祝福している。


血に飢え、血に愛されし■■は更なる鮮血を求め、ゆっくりと前に歩き始めた。



 暴走はやがて身体に留まらず、閉じ込められたチェリードの精神までも蝕んでいく…………



――――――――――――――――――――――――



「――――っが!!!」


 暴走が始まった瞬間、胸の奥の方が痛んだ。


 まるで心臓を食い破られているような激痛と気持ち悪さに加え、心の中に何かが入ってくるような感覚が手足の力を奪っていく。


「もしかして……ッ! 本気で体を奪いにきたってことか…………ッ!? グハッ……!」


 体が衰弱していくのを感じる。立つことはおろか、今は手を地面に付けて必死に倒れないようにするだけで精一杯だった。


 額から吹き出る汗がポタポタと落ちてゆくのを見ながら、ただ痛みを噛み締め、悶えることしかできない。


『ヒャーハッハッハッハ!!!』


 一方、チェリードから体を奪い取った彼は、戦えることへの嬉しさを爆発させながら暴れていた。


 目に入った森の木々を薙ぎ倒し、若々しく生えている草花を血に濡らし、彼の通った場所はまもなく戦場跡に変わっていった。


 やがて瀕死の森の番人に近づくが、本能的に危険を察知したのか、森の番人は後ずさりしながら急いで森の最奥へと逃げ出してしまった。


(あいつ……マジでなんなんだよ……!!)


 彼のあまりに狂気的すぎる行動の数々に、チェリードは頭を悩ませている。さながら戦闘狂のようだとさえ思っていた。


(…………ッ! あいつまさか…………)

 

 嫌な予感が突然、彼の脳裏をよぎった。


(頼む…………あいつらだけは…………三人だけは……)


 チェリードは必死に画面に向かって訴えた。森の番人が逃げ去った今、次の標的があの三人になる可能性が拭いきれなかったからだ。



 そうして願い続けた結果、彼の望みが叶うことはなかった。


『ヒャハハハハハ!!』


「マルーーサアアア!」


 画面が次に映したのは、マルーサの死体がタコ殴りにされている映像だった。痛みに耐えながらチェリードは必死にマルーサの名を叫んだ。


「おいやめろ! 今すぐやめろ! やめろって……! なに……やってんだよ!!」


 泣きじゃくりながら嘆くチェリードの声は、今マルーサを殴っている■■に届いていない。それをわかってなお、チェリードは叫び続ける。


 原型を留めなくなったマルーサの死体を放り捨てた後、次に映し出されたのは二人の体がぐちゃぐちゃになっていく映像だった。


「おいやめろっっ!! やめろっっ! やめろおおおお!!」 


 目の前の光景が自分の想像だったら、と思ってしまうほど、彼は目の前の惨状に絶望していた。


 彼らに、救いはあるのだろうか。


(あぁダメだ……俺のせいで…………俺のせいで三人が…………!)


 自身が生んだ結果に罪悪感を感じているチェリードは、涙で目の前が見えなくなってなお、画面を見続けていた。そして、三人が自分の体によってボロボロになっているのを見て、また絶望にうちひしがれた。


(ちくしょう…………このままじゃ全滅だ…………俺のせいで……絶望)



 もはや諦め半ばだったチェリードだったが、その時、ある一つの言葉を思い出した。


『大事なのは、目の前の困難に立ち向かうことなんだ』


 思い出したのは、かつて三人に虐められていた時にジェイルに言われた言葉だった。


(ジェイル…………)


 かつて絶望の淵に立たされていたチェリードを救った言葉が、また、彼を救おうとしているのだ。


(そうか…………まだ、やれるんだな!)


 繰り広げられる惨状をただ傍観するだけだったチェリードに、ジェイルは行動する勇気を与えてくれた。



「――――よし」


 頬を叩いて気合いを入れ直した彼は、今度は画面を見ずに、自分が今いる空間をぐるりと見渡した。


 一見してただ何も無いただの空間に見えるこの場所を見て、彼の一つの確信を得た。


 突如聞こえてきた謎の声、その後飛ばされてきた謎の空間、同時に奪われた自分の体。ここから導き出した一つの確信…………それは、


ドゴォォォォォォンン!!


 ここが、自分に存在する魂の中だということだ。


『うぐッ!』


「へへ…………やっぱりここは俺の体の中だったんだな…………」


 チェリードが、さっき木を倒したように地面に向かって「反射壁(リフレクター)」を当てると、画面の向こうにいる自分の体は痛がっている身振りをしながら声をあげた。


『なんだ……? オレの邪魔をするやつは誰だ!』


「俺だ!!」


『!?』


 暴走を一時的に止めたことで、ついに■■がチェリードの声を聞き取ることに成功した。チェリードは追い撃ちをかけるように言い放った。


「聞いてるか! 俺の体を奪った奴! お前が体を返すまで、俺は攻撃を止めないからな!」


『フン、知ったことか。さっきは突然のことでびっくりしただけ――――』


 彼が本気に思っていないのを確認したチェリードは、より強く、より素早く「反射壁」を地面にぶつけた。


『ぐはぁ!』


 当然■■は内部からの衝撃に強く悶え、拍子に体のバランスを崩し膝を付いた。


 それから、チェリードは何回も何回も殴り続けた。一発一発に怒りと憎しみを込めながら、徐々に深くなっていく地面に「反射壁」を()じ込ませていく。


『うぐ……! お前……!!』


「さあ勝負だッ! どっちが先に折れるかなぁ!」


『…………舐めやがってえぇ!!』



 それから、体力が底を尽きるまで彼は地面を殴り続けた。チェリードの全霊をかけた猛攻に、■■も必死に雄叫びをあげて耐え凌いでいたが、その声もやがて掠れていった。



 そして、十分に渡る攻防の末、ついに決着の時が来た。


『――――クソッ! もう惨めなことは止めろ! オレが負けてやる』


 ついに痺れを切らした■■は自分の負けを認めた。


「本当か……?」


『あぁ。だが忘れるな! オレはいつでもお前の背後を取っていることを』


 ■■は意味深な捨て台詞を残し、それと同時に目の前の画面がプツンと切れた。


 そして次の瞬間、チェリードの目の前に真っ白な光が溢れだし、意識が途切れていく…………




「――――ハッ!」


 意識が戻ったチェリードは、ぼやける視界を擦って周りを見渡した。


 しっかりと、そこが自分の視界ということがわかった。どこを見ても木、木、木。


 そして、地面に転がった、三人の変わり果てた死体。


 ついに、彼は体を取り戻すことができたのだ。


「よっしゃあ!! 体を取り戻し――――」


 喜びに震えたのも束の間、次なる敵が彼を襲った。


『ウガアアァァ!!』


「え?」


 背後にいたのは、逃げたはずの森の番人だった。


 ドゴォォ……!


 渾身の一撃を食らった腹の骨は粉々に砕かれ、体を地面を転がりながら致命傷を負った。


「あ…………ぁ…………」


 薄れゆく意識の中、三人の死体に手を伸ばそうとしたが、力が入らず体を動かすことさえできなくなってしまった。


(まさか……これを想定して……)


 体を返した本当の理由を知りながら、三人の元へと向かおうとするチェリードであった。

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