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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第16話「森林実習 Ⅳ 」


 僅かな希望を見出だしたチェリードに異変が起きている一方、森の番人と対峙した三人は苦戦を強いられていた。



「――――くっ! クッソォォ……!」


『ウガアアア!!』


「ぐはぁっ!!」


(ちくしょう! 〈魔法防御壁(マジプロテクター)〉でも持たないか…………)


 チェリードが投げ飛ばされてから数十分、二人は……否、マルーサは森の番人と戦い続けた。


 チェリードが遠くに飛ばされてからというもの、二人は必死に魔獣(モンスター)の猛攻を凌いでいたが、やがて体力がすり減っていくと、ついにラハークは一瞬の隙を突かれ殺されてしまった。


 そして、最後の一人となったマルーサは、持ち前の戦闘スキルで魔獣の攻撃を、かわし、防ぎ、打ち払い、受け流し…………自分の命を守ること最優先で、どうにか彼は持ちこたえていた。



 魔獣の攻撃を耐え続けたマルーサの元に、一つの衝撃が伝わった。


 ドゴオオォォン…………


「?」

『!』


 突然鳴り響く地響き。両者、共にその音に気づき、音の鳴る方へ目をやった。


(チェリードのいる方向だ……!)


 すぐにチェリードがいることがわかったマルーサは、他の魔物(モンスター)に襲われていないかと不安になり、彼のいる方向へ向かおうとした。


「チェリードッ!!」


『ガウガウッ!』


「うわっ! 危ねえじゃねえか!!」


 しかし、森の番人はそれを許さない。戦いを放り捨てて仲間を助けに行くことなど、この番人を前に不可能なのだ。直ぐに正面を防がれ、危うく一撃を貰いそうになったマルーサは、間一髪で〈魔法防御壁〉を展開し、魔獣の拳を止めた。


(チッ、さすがに……無理か……)


 素早く動く魔獣との交戦で、彼の体は既に憔悴しきっていた。立っているので精一杯らしく、これから彼が攻撃することはないだろう。そして、今出した魔法を最後に、彼の持つ魔力は底をついてしまう。



 とうとう成す術が失くなったマルーサは、バレないように後退を始めた。二人の犠牲を出した今、もう戦う意味などなかった。


 しかし、また、彼にもう一つの衝撃が伝わった。


「!?」


 竜巻だ。血のように赤黒い、畏怖を覚えるような竜巻が現れた。そしてまたも、それはチェリードがいる方向であった。


 天まで昇る竜巻の様相は、まるで何かの誕生を意味してるのではと感じるほどに、血に塗られた竜巻は鮮やかさを醸し出していた。



 そして、謎の竜巻に見惚れていたのも束の間、


「ぐぁはっ!!」


 彼が次に見たのは真正面から食らうアッパーであった。


 上空に浮き上がったマルーサに、更なる蹴りを容赦なく一発、彼の鳩尾(みぞおち)に食らわせた。


 血反吐を撒き散らしながら彼は吹き飛ばされ、そこら中に生えた木のうちの一本に衝突し、そのまま木の表面を擦りながらずり落ちた。


「ここ……まで……か…………」


『ガゥゥ…………』


 もう彼に体を動かすほどの力は残っていなかった。こうなってしまったた彼に待っているのはただ一つ、ゆるやかに訪れる死のみ。


(きっとチェリードも死んだだろ……あんなに意気込んでたのに、バカだなぁ……)


 森に入る前に誓った先生への復讐が、いかに浅はかだったかを考えさせられる。マルーサはそのことが気がかりで、残念に思っていた。



 だが、戦いはまだ終わってなどいなかった。



 地面を蹴る音が微かに聞こえる。薄れていく意識の中、その音が確実にこちらへ向かっていることを彼は確信していた。


 迫り来るのは、ゆっくりと近づいてくる森の番人だけではない。


「オラァ!」


『グァァ!!』


 迫り来るは、もう一人。チェリード・ドブライだった。


「チェリー……ド…………?」


 やけに赤く見える彼に手を伸ばしながら、マルーサの意識は途絶えた。



――――――――――――――――――――――――



 意識を失っていたチェリードが次に目覚めたのは、何も存在しない空間の中だった。


「…………ハッ!」


 飛び起きてみたものの、どこを見渡しても何もない。


 彼はしばらくそこら中を散策したが、埃の一つもなかった。だんだん自分が存在するのか不安になるような気分に陥るチェリードは、遠くの方に見える明かりを目指して走っていった。



 そうして見つけたのは、映画のスクリーン程の大きさの画面だった。


「ん? これって…………」


 画面に映し出されているのは、画面一杯に広がる木々に、草の禿げた地面、更に左側には倒したはずの一本の折れた木。間違いなく彼がさっきまで居た場所だ。これはきっと彼の視点に違いない。


「おい! どうなってんだ!」


 チェリードは画面に向かって叫んだが、当然何も返事は返ってこない。


 恐らく、チェリードに語りかけてきた声の主が彼をこの場所に閉じ込めたのだろう。そう勘づいた彼は何度も声をかけるが、応答する気配がない。


 やがて、画面が前に向かって進んでいくのを映し始めたので、これ以上は無駄だと考えたチェリードは声をかけるのを止めた。


 しかし、速い。到底普通の子供が出せるスピードではなかった。周りの景色がぼやけて見えるほど、視界は加速していく。


 そして、ついに彼らの居る場所へと戻ってきた。


「マルーサ! ……ッ、ラハーク……」


 彼が画面越しに見えたのは、木に寄りかかっているマルーサと、腕と足が引きちぎられていたラハークの酷い死体だった。


『チェリー……ド…………?』


「マルーサ! 俺だ! 聞こえるか!?」


 極僅かに残っていたマルーサの意識は、この言葉を最後に途絶えてしまった。


 チェリードを呼ぶ時の声に疑念を感じるのが、不思議でたまらない。


(――――この体を動かしているのは、一体……)


 死体となったマルーサが映し出された画面を見ながら、チェリードは唖然としていた。



――――――――――――――――――――――――



 マルーサは死んだ。


 一人になりながらも奮闘していたようだったが、油断を突かれ、あっさりと死んでしまった。


 折角だし、と思った■■は、無様にも死んでいくマルーサの姿をしっかりと目に焼き付けた。()にもしっかりと見えるように。


「………………」


(これがアイツの仲間か……)


 まだ血が巡りきっていないのか、まだ頭が冴えない。かろうじてさっき、この死体の名前を思い出したくらいだ。


『ウガッ!!』


 まだ力も入りきっていない。それは多分、久しぶりに体を授かったからだろう。■■は己の今を知り、少し悔やむ。


『ウガァァァ!!』


「ジャマだ」


 何やら後方、三人を襲ったとされる魔獣がこちらに向かってきたので、■■は少し力を入れて、振り向き様の回し蹴りを魔獣に当てた。


『ウガッッ!?』


 それを「蹴り」と呼ぶには、あまりに強力すぎたようだ。誰でもできそうな速さから繰り出される足とは裏腹に、その威力は想定することができないほどであった。


 森の番人は地面と平行に吹き飛ばされ、たまたま吹き飛ばされた直線上にあった木を、一本、二本、三本と薙ぎ倒していき、丁度十本目のところでようやく止まった。


『ウガアアアアアア!!!!』


 怒りに震えた森の番人は咆哮を上げ、遠くに見える彼の姿を狙って一直線に進んだ。持ち前の筋肉のついた太い足による走りは、あっという間に彼の魔獣との距離を一メートルにまで縮めた。


 そして、速度を維持したまま繰り出される超巨体によるタックルは彼の意識ごと吹き飛ばすはずだった。


 ■■は、それを片手、それも利き手ではない左手で止めた。


「フン」


『ウガアアア……!!』


 巨体を受け止めた手の平からどす黒い液体が染みだし、森の番人の体を溶かしていく。咄嗟に離れた魔獣であったが、溶けた箇所はかさぶたのように固まっていた。


「これもダメか…………」


 そんな強敵を前に、■■は何かを試していたようだ。真っ黒に染まった彼の顔からは余裕を感じる。


(攻撃手段が少ないのは少々痛手か?)


 おおよその現状を理解した■■は、今すべきことを理解した。


 久しぶりの地上。久しぶりの空、久しぶりの、体。


 幾度と繰り返した体に終止符を打つべく、彼は()()を始める。


「さあ、血が滾るまでの生け贄になってもらおうか?」


『ウガアアア!!』


 チェリード・ドブライの体を奪った■■は、目の前に見える敵を倒すべく、()()を開始した。




「さて、お前はどこから来るんだ?」


『ウガアァァァ!!』


 圧倒的強さを前に怯んだ森の番人であったが、自身の威厳を守るため、他の魔物を守るため、再度彼に突撃した。


「フン」


『ウガアア!?』


 しかし、番人の繰り出す攻撃の速さでさえ、彼には止まって見えるだろう。スレスレで避けた後に、魔獣の脛を蹴った。


『ウガアアアアオオオオ!!』


 負けじと攻撃を続ける森の番人は飛び上がり、上空からドロップキックを仕掛けるつもりだった。


「随分とワンパターンだな」


『ウガアアアア!!』


 しかし、あっさりとかわされ、反撃の裏拳を食らってしまう。



 あれほどまでに追い込んでいたはずの森の番人が、今度は追い込まれていた。チェリードの体を奪った、謎の人格に。


「おお……これが戦う喜び…………思い出した……思い出してきたぞ…………!」


 戦うことを好む■■の心に火がついてきたようだ。


 彼の攻撃は、まだ始まったばかりである。

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