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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第13話「森林実習 Ⅰ 」


          ~次の日~


 太陽がまだ昇り始めて間もない頃、チェリードは目を覚ました。


 今日は待ちに待った「遠足」。それを思う度、胸が高鳴っていく。


 ベッドから起き上がると、机に一冊本が置いてあった。一瞬、その本が何か調べようとしたが、それどころではなかった彼はそのまま部屋を出た。



「「いってきまーす(!)」」


 二人の快活な声は夫婦を元気にしてくれる。ローディとケネルの「いってらっしゃい」の声を聞きながら、チェリードとリーナは身支度を済まして、学校へ向かった。



 普段は出ることのないこの学校を出て、更には国をも出て、近くの森林に行き、森に出没する魔物と戦う。


 今日の「遠足」は、言わば「森林実習」である。



 森林実習は、生徒は一度学校に向かい、クラスごとに集合し、全員集合したら、Ⅰ組から順に森林の方へ向かうとのことだ。


 チェリードとリーナは別のクラスで、更にチェリードのクラスは一番最初に出発、リーナのクラスは一番最後に出発するため、本来であれば別々に行くべきなのだが……


『リド。明日、一緒に行かない?』


 昨日、眠ろうとしていたチェリードに、リーナはそう提案してくれた。


「ん? あぁ、いいよ」


 彼は快くそれを了解した一方、心の中ではどうして誘ってくれたのか引っ掛かっていた。



「――――なあ、なんで昨日『一緒に行こう』って言ったんだ? どうせあっちに着いても暇だろ?」


 学校へ向かう道の真ん中、特に話すことがなかったチェリード、昨晩のことについて尋ねた。


「…………実はね、聞きたいことがあるんだ」


 彼の言葉を聞いたリーナはふと立ち止まり、神妙そうな顔をしながら少し下を向いた。


 チェリードもまた不思議そうに立ち止まると、リーナは俯いたまま、少し悲しそうに言った。


「なんでリドは、虐められてた時私たちに相談しなかったの?」


「なんでって…………」


「なんで誰にも相談しなかったの……?」


 声を少し震わせながら喋る彼女から感じたのは悲しさと、そして「怒り」。頑なに誰にも相談しようとしなかったチェリードに対する怒りだった。


「……なんで……あんなに虐められてたのに、あんなに怪我をしてたのに、あんなに暗い顔をしてたのに……!」


「ッ…………」


「なんであんなに追い詰められたのに、相談してくれなかったの……? ねえ、なんで……? 何がいけなかっの!?」


「それは…………」


 チェリードはやっと気づいた、辛かったのが自分だけでなかったことを。リーナもまた、傷ついていく彼を見て心を傷めていたことを。


「私! 怖かったんだよ!? 昨日、部屋を見てみたらリドが首を吊ってて! 何がなんだかわからなくって、もう怖くて……私……!!」


「ッ…………!!」


 自分の愚かさをここに来てやっと理解した彼は、もうリーナにかける言葉がなかった。彼は今の今まで、自分が虐められているのに何もできない家族の辛さや虚しさを考えたこともなかった。


 それを知らなかった彼にとって、彼女の涙はひどく心に刺さった。


(そっか…………俺……)


 思い返してみれば、母のケネルやリーナは、彼が帰る度、「今日は大丈夫だった?」や「辛いことあったら相談してね」と声をかけていたことに気がついた。


 あの時は、ただ初めて異世界の学校に行くことに対する心配の言葉だと思っていた彼は、適当な返事ばかりをしていた。


 もしあの言葉を真摯に受け止めていれば…………後悔だけが彼の頭をぐるぐると回っている。


「――――本当、ごめん。リーナの気持ちもわからないで…………」


 リーナの前に立ち、チェリードは心から謝った。自分は愚か、他人までも傷つけていたことに対する謝罪である。


「うんうん、いいの。私もごめん。辛いのはリドの方なんだから」


 リーナもまた、申し訳なさそうに謝った。本当に辛かったのは自分ではなく、虐められていたあなただったということへの謝罪である。



 お互いに謝りあった二人は気まずい雰囲気になり、しばらくの間二人は黙ったまま歩き始めた。


「――――でも」


 沈黙が続いた後、優しそうな顔をしながら彼は口を開いた。


「ありがとな、リーナ」


「え?」


「俺のこと、本当に心配してくれてたんだなって思えたから」


 彼が次に彼女に伝えた言葉は感謝だった。母やリーナの気遣いに気づいていればと後悔する気持ちもあるが、それ以前に、自分のことを思ってくれるリーナ達に感謝しなければと思う方が先だと思ったチェリードは優しく微笑んだ。


「だから、本当……ありがとな。リーナ」


 少し照れ臭そうに言うチェリードは、さながらお年頃の男子のようだ。 


「…………フフッ」


 そんな様子を見て、リーナは嬉しそうな表情をしつつ、どこかおかしい感じがして笑い始めた。


「前のリドと今のリド、全然違うな」


「な、なにが……?」


「だって、前はおどおどしてたのに、なんか急に強がっちゃって……かわいいところあるんだなーって」


「ッ! や、やめてくれよ……恥ずかしい」


 ニヤニヤとチェリードの顔を見つめるリーナに、恥ずかしくなった彼には顔を合わせることができない。


 追い討ちをかけるかのように記憶が戻る前の言動を思い出すと、更に恥ずかしくなった彼は顔を赤らめた。


「でもね、リド」


 リーナが立ち止まると、チェリードの方に体を向けた。


「ん? なんだよ……」


「リドは笑顔が一番似合ってるよ!」


 満点の笑みでリーナは彼に伝えた。恥ずかしくて顔を俯けてしまいそうだったが、その笑みに釣られチェリードも自然と笑みが溢れていた。



――――――――――――――――――――――――



 学校に着くと、もうとっくにクラスメートは彼以外揃っていたらしかった。


(ついに始まるのか……楽しみだな)


 淡い期待を持ちつつ、皆のいる所へ駆けて行った。


「みんな、おはよう」


 手を振りながら、チェリードは自分のクラスの所まで駆け足で向かった。すると、彼の姿を見た生徒は皆驚いていた。

 

 いや、「驚いていた」なんて生半可な言葉で表すのは難しいほどに、まるで死者が蘇ったかのような反応を見せていた。


「(ねえ、あの子死んだんじゃないの?)」

「(知らねえよ、てか死んだのは嘘じゃねえの?)」

「(でも先生は()()したって…………)」


 生き返った彼を見てヒソヒソと話をしているが、チェリードの耳には届かない。事情を知らない彼はクラスメートに近づくが、それを避けるように皆は離れていく。


「ねえ、リド……本当に大丈夫?」


 改めて虐められている様子を見たリーナはたちまちに不安になる。それを見たチェリードは「大丈夫」と言い聞かせるが、それでも不安は消えない。 


「とりあえず……先生に挨拶してくれば」


「ああー……そうだな、そうしよう。うん」


 チェリードは彼女に気まずそうに答えた。


(まあ……その先生に俺は殺られたんだけどな)


 とりあえず、このまま動かないのも良くないと思った彼は、先生を探すことにした。が、その先生はまもなく見つかる。


「みんな~どうしたの? 何かトラブルでも――――」


 生徒の様子がおかしいことに気づいた先生が奥の方からやってくるのと同時に、チェリードは群衆を掻き分けて先生と対面した。


「先生……おはようございます」


 先生の顔を見た瞬間に一昨日のトラウマが頭の中を埋め尽くしていくのを我慢し、「やられっぱなしじゃない」という意思表示のためか、チェリードは精一杯睨み付けながら先生と挨拶を交わそうとした。


 先生は、これでもかというほどの驚きの表情を見せた。


「エッ…………!! は、う、嘘でしょ!?」


 いや、それにしては驚き方がおかしかった。チェリード含め、生徒が見たこともないような表情をしていた。手に持っていた名簿がするりと手元から落とし、全身を震わせていた。


 驚きはいずれ、恐怖へと変わっていく。


「な、ななななんであなたが生き返ってるのよ!!」


「え? そりゃあ、父さんに復活させ――――」


 チェリードは先生から向けられる恐怖の念に怯んでしまい、何か嫌味を言ってやろうという企んでいたことが無に帰ろうとしていたが、次に先生が言った台詞で全てが吹き飛んだ。


「おかしいじゃない!! なんで()()()が生き返ってるのって聞いてるの!!!」


(自殺者が、生き返る…………?)


「は? それってどういう」


「自殺したら……普通生き返らないのに…………成功したと思ったのに…………」


 先生の言ってる意味が理解できない彼は、腰を抜かして座り込み、自分から逃げるように後ずさりをする先生を見るしかできなかった。


 彼はてっきり、この異世界では死んだ者は誰でも復活できるものだと信じ込んでいた。だが、先生の反応を見る限り、その考えは間違っているようだが……


「あなた、何者なの……? もしかして、人じゃないの……?」


「あの、せんせ――――」


 だんだん混乱していき状況が掴めなくなった彼は先生に近づこうとするが、


「こないで!!! お願いだから……来ないで!」


 先生は必死の形相でこちらを睨み、一向に彼を近づかせないように手を振り暴れた。


 まるで彼が人でないかのように扱う先生の目には大量の涙が溢れていた。


「先生、大丈夫?」

「おい! 何先生泣かしてんだよ!」

「ホンっト最低!」


 泣き崩れた先生に駆け寄る生徒たち。大半が先生を慰めていたが、その中にはチェリードを非難する者もいた。


 チェリードはそれが気に入らずすぐに言い返した!


「おいみんな、聞いてくれ! 俺を殺したのは先生なんだ! 先生の固有能力で自殺させたんだよ!!」


 しかし、彼は忘れていた、先生には生徒からの絶大な信頼があることを。


「先生がそんなことするわけないじゃん!!」

「お前何言ってんだよ」

「自殺させる固有能力を先生が持ってるなんて誰がそんなこと信じるの!?」


 もはや、この時のための「演技」だったのかとさえ思えた。今までの振る舞いは、いざ自分が不利になった時の保険にすぎない……


 ライナー先生がチェリードが思っている以上に狡猾な女だったことを、改めて実感させられる。


(まじかよ……こんなのおかしいだろ……………)



 結局、どれだけの理由、根拠を伝えようと信じてはもらえず、「先生を貶めるクラスの屑」というレッテルを張られてしまった。


「リド…………」


 少し離れた場所で傍観することしかできなかったリーナは、自分が何もしてやれなかったことに対する悔しさを感じつつ、クラスメートに呼ばれ自分のクラスの所へ行かざるを得なかった。




 その後、ライナー先生は他の先生に連れられ事情を話すことになり、そこに彼も同行することになった。


 チェリードは一昨日までに起こったことを他の先生に事細かに説明したが、「子供の戯れ言だ」と切り捨てられ、結局先生の行った悪事は隠蔽され、何の処罰も行われない方針になった。


 この時ばかりは、先生を殴りたくて仕方がなかった。


 理不尽に対して沸き上がる怒りを、彼はこの先忘れないだろう。



 出発する直前、落ち着きを取り戻した先生から道具の支給や実習を行う上での注意を聞き、チェリードのクラスは学校から森林へと出発した。


 森林へと向かう道中、常に先生を泣かせたチェリードに対する罵倒や侮蔑の言葉が止むことはなかった。


「お前なんか死ね!」

「嘘つき野郎がついてくるな!」

「もう先生に近づかないで!!」


 時折、道端の石ころも投げられることもあった。先生にバレないように殴ったり蹴ったりする者もいた。


「………………」


 だが、チェリードがそれに対し反撃することはなかった。反撃すれば、更なる不運が待っている。そう考えた彼は、ただ黙って報復を受け入れることにした。


 こんな状況が、あと数十分続いたことは言うまでもない。

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