MSREの正体
写真の話よりMSREさんの話が先です
4話です
それは突然のことだった。PCで小説を投稿した後にいつものように感想チェックしていると、『MSRE』さんからDMが来ていた。
『こんにちは。いつも雅ちゃんのヒロイン力が可愛すぎて心打たれる私ですが、夏目さんにとって雅ちゃんの魅力は何だと思いますか?』
うーん、僕にとっての雅の魅力かぁ。僕は彼女の魅力について書ける範囲で詳細に書いてみた。
『やはり第一に幼馴染であることが重要なファクターですね。主人公とヒロインは長い年月を共に共有しており、お互いのことを知り尽くしている。それが恋愛の物語においてかなり重要な点であるということです。次に彼女は優司に対してツンデレする割に、なんだかんだ気にかけているところです。普段は小言を言うけれど、優司のピンチの時は味方になって助言をしてあげる。彼女なりの優しさですね三番目に……』
とこれ以上は長くなりそうなので割愛するが、僕はそれについてつらつらと書く。我ながら“幼馴染愛”を感じる内容だった。
しばらくしてスマホから投稿サイトを見てみると、僕なりの魅力が伝わったのかお礼のDMが届いていた。
「ねぇ、龍君。小学3年生の時に龍君が公園でお漏らししたこと覚えてる?」
「……え?」
登校した早々に梨江っちがかつて僕と宮森とでよく遊んだ時の思い出を語り始める。
「鬼ごっこしている時に龍君が鬼になってさっ、脚が遅いからなかなかタッチ出来なくて、タッチするまで真面目にトイレに行かなかったから我慢できずに漏らしたの」
「…あぁ、覚えているよ。あれ以来駆けっこでのトイレの我慢は止めることにしたんだっ」
「他にもさ、お化け屋敷で龍君がミヤモーに横から驚かされて漏らした時とか」
「…あぁ、あったね、そういうのも。やっぱりあの年頃のお化け屋敷って怖いからさ」
「他にも小学2年生の時に私と離れるのが嫌で泣いたこととか」
「…なんかやたら僕の恥ずかしい話ばかり言ってないか?」
「え? そう? 小さい頃は龍君達とよく一緒に遊んだから沢山のこと覚えているわっ」
「そ、そっか……。でも例えば他に……ほら僕の自慢出来る内容とかなんかあるだろ?」
え? という顔をした後、はっとした表情になり、いつものようなツンデレ発言をして去っていくだけだった。
なんか恥をかいた感じのまま、家に帰りPCを開いて魅力ある幼馴染ヒロインになるような小説を投稿した。
『ど、どうしたんだ雅!? いきなり弁当なんか作ってっ』
『べ、別に幼馴染のよしみなだけよっ』
「幼馴染と言えばやっぱり愛情たっぷりの弁当作りだよな~」
僕はそれを書きながら一人部屋でニヤニヤする。そしたら翌日になると、梨江っちが僕のために弁当を作ってくれていた。
「……え? これは……」
「ただの幼馴染のよしみなだけよっ」
「僕、普通に今日弁当あるんだけど……」
「え? 食べて……くれないの……?」
彼女はかなり悲しそうな顔になり、運が尽きたかのようにシュンとなる。
「食べるっ! もちろん食べるよーーっ」
「そう!? それは良かったわーっ♪」
そして二人分の食べたため、お腹いっぱいで午後の授業は大変だった。そしてPCを開くと『MSRE』さんからお褒めの感想が届いていた。
『やっぱり幼馴染は弁当必須ですよね』
確かにそれはそうだが、幼馴染との意思疎通も必須だと思った。そしていつものように小説をwebサイトに投稿した。今日の内容は少し珍しい雅の優しい一面を書いた。
『ねぇ優司』
『ん? どうした?』
『貴方のそういうしっかりしたところ私は好きよ』
翌日。
「りゅ、龍君!」
「ん? どした~?」
「あの、あのねっ……」
「?」
「わ、私は龍君のそういう優しいとこす、す……」
「す?」
「す、す…………わーーーんっっ」
なんだか訳の分からないまま去った。
「梨江ちゃん、この前から龍に一体何がしたいんだ?」
「……さ、さぁ」
それから数日後、僕は珍しく学校の図書館に向かうと、梨江っちがスマホを集中していじっていた。驚かしてやろうと彼女の後ろに回り込み、驚かす準備をする。
「わっ!」
「きゃっ!」
彼女は想像通りに驚いてくれて僕はとても満足した。
「な、なに龍君、ビックリするじゃないっ!?」
「いや、ゴメンゴメン。つい出来心で」
「あら、スマホが……?」
「え? スマホ? あぁ、ここに落ちているよ」
僕側に彼女のスマホが転がっていたので拾ってあげたら、偶々画面が視界に入った。その画面には僕がよく使う小説投稿サイトで、それにMSREの名前が……。
「あっ……」
「これって……」
『MSRE』 → 『水島梨江』
「も、もしかしていつも応援してくれた『MSRE』って……梨江っちのこと……?」
彼女は恥ずかしそうにしながら何も言わず俯く。
そ、そうか。今まで彼女の様子がなにか変だなと思っていたら、今までの彼女の行動はずっと『雅』の真似をしていたんだっ! 確かに思い当たる節は沢山ある。
「そ、そうか。つまり梨江っちは僕の小説を読んでそのヒロインの真似をするほどに僕のことを……」
「~~~っ!」
「……熱烈に応援してくているのかっ!」
「…………ほえっ?」
「ありがとう梨江っち。これからも僕の小説を読んで応援を頼むっ」
「…………え? うん、まぁ別にいいけど……。………………もう龍君のバーカ……」
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