悪役令嬢の愚痴と嘘⑥
「親方、奥の部屋の壁、壊します」
「おう」
「そこに隠してるもの、持ってきます」
僕が言うと、黙々と槌を振るっていたドワーフの親方は「おう」と言った。
横で石炭を選別していた僕も負けじと寡黙に応酬した。
「すみません、この間直したばっかりの壁なのに」
親方は火ばさみで挟んだ鉄塊を水に突き入れ、額の汗を拭った。
「半人前が生意気言うんじゃねぇ。ドワーフがレンガ積みくらいどうってことあるか、アホ」
じゅぼぼぼぼ……と、鉄塊は物凄い音を立てて水の中で沸騰した。
鉄塊は水の中で急激に冷やされ、無意味な鉄塊から、形ある道具へと変化してゆく。
鉄塊が冷えるにつれて、真っ赤に照らされていた親方の顔も、だんだん闇に沈んでゆく。
僕はひときわ大きな石炭の塊をハンマーで砕いた。
「親方」
「なんだ」
「親父、ってどんなもんです?」
親方は僕に言った。
「何を藪から棒に訊くんだ、おめぇは。まさかおめぇだって木の又から生まれたわけじゃあるめぇに」
当たらずとも遠からず、だった。
僕は0歳の時点で女神の国とやらから召喚された人間だった。
木の又から生まれてたほうがまだ有機物的な温かみがあってよかったのに。
「似たようなもんスよ、僕」
「ケッ、面倒だな。そうさなぁ――よく俺を殴る。よく俺を怒鳴る。よく俺と喧嘩する。頑固、無口、わからず屋、偏屈、そんな人間だったなぁ」
「親方と一緒ですね」
「違いねぇ」
ぼやかれると思ったのに、親方はあっさりと肯定してみた。
「似てるってのは厄介なもんだぜ。嬉しいこともあるけどな」
親方は僕の考えてることを見透かしたように言った。
更に親方は言った。
「妙なマネすんなよ。もうお前は勇者じゃねぇんだ。魔王軍でもねぇ人間をぶった斬っても誰も褒めちゃくれねぇぞ」
「わかってます」
「お互いまだ若ぇし、過去のことは過去のことだ。わかるな?」
「わかってます」
「それでもな、もし万が一、あの娘がおめぇにそういうことを望むんならな――」
親方は僕の目を見つめて言った。
「そのときは、おめぇが責任持ってやられろ。これはケジメってやつだ。誰がどう言おうと、この決着は男にしか出来ねぇもんだ。堂々と、誰にも文句は言わせねぇようにやられてこい。意地張って張って張り通して、絶対に女に手はあげるな。わかったな?」
「はい」
僕は力強く答えた。
親父ってのはこういうものなのかも知れない。
僕は頭の片隅でそう思った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
一応また、各キャラの年齢について追記しておきます。
タヌキがシェヘラより二回り歳下、と書いてる箇所がありましたが全くの間違いです。
タヌキは20~1歳ぐらい、ダニエラ姉さんは22~3歳ぐらい、シェヘラは16歳です。
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