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魔王復活


炎が立ち上る森を見て、パトリックがすぐに水を出す。


しかし、焼石に水の状態だ。水は炎の勢いに押されてあっという間に蒸発してしまう。


その時、大きな唸り声と共に魔獣らが襲ってきた。


私たちは互いに背中を預けながら、落ち着いて魔獣を討ち果たす。


お父さまはジルベールに「子供達を頼む!」と叫んで、どこかに走って行った。


「・・・恐らく魔王の封印を確認しに行かれたのでしょう」


とジルベールは言いながら、片手で襲ってきた魔獣を切り伏せた。


次々と魔獣が押し寄せて来るが、これ位なら何とかなる。私達は協力して、魔獣を退治していった。


やがて王宮の近衛騎士団の援軍も到着し、周辺の魔獣の数も少なくなってきたような気がする、と辺りを見回した。


その時、轟音が空に響き渡り地面が大きく震えた。


大気が渦を巻くように熱気を孕む。私は全身に鳥肌が立つのを感じた。


炎が激しさを増し黒煙が森全体を包んでいるのではっきりとは見えないが、何か禍々しい巨大な影が森の中心から天に向かって聳え立った。


炎の熱気が頬を炙る中、パトリックたちも呆然とその影を見つめている。


ジルベールが


「・・・魔王が復活した」


と呟いた。


・・・あれが?魔王?


ヒヒのような巨大生物は耳を塞ぎたくなるような恐ろしい咆哮を放った。


同時に口から炎を吐き、次々と森を焼き払っていく。


森の中から大勢の騎士達が逃げて来る。その中にお父さまとフランソワの姿も見えた。


私達が慌てて駆け寄ると、フランソワは血と泥だらけで全身ぶるぶると震えている。


「フランソワ!・・・大丈夫?怪我は?」


と尋ねると、フランソワは震える手で私の手を握った。


「スズ。みんなを連れて今すぐ逃げろ!俺達の手に負える相手じゃない!」


と叫ぶ。その間も背後では魔王の咆哮と炎の攻撃が続いている。


その時後ろから


「みんな、無事ね!?」


というお母さまの声がした。


振り返るとそこにはお母さまと確かダミアンという名前の宮廷魔術師が並んで立っていた。


「王宮に神龍のお告げが下ったの。神龍の神子を召喚するようにというお告げだわ」


そう話すお母さまの手首には紋章の形をした痣が浮かび上がっている。


あんな痣あったっけ・・?と考えていたら、お父さまが


「異世界との扉は森の中心だ。・・・無理だ・・・あの化け物の懐に飛び込むようなものだ!」


と叫んだ。


「うん。でも、サットン先生を呼ばないとこの魔王は封印できないよ。この大陸が破壊し尽くされてしまう」


お母さまは落ち着いた様子だが、額に汗をかいているのが見えた。


すごく緊張している証拠だ。


「異世界の扉に近づこうとしたら、すぐに魔王が攻撃してくるだろう。オデット達が神子召喚のための魔法陣を描いている間に魔王を引き付けておかないといけない。俺が囮になるから、その間にオデットとダミアンは魔法陣を描けるか?」


とフランソワが言い出した。


「だっ、ダメだよ。そんな危険なこと・・・」


と私が言いかけると、


「誰かがやらないといけないんだ。リュカ、一緒に来てくれるか?」


とお父さまに声を掛ける。


「最初からそのつもりだ」


と短く返事をするお父さま。


私は不安で仕方がない・・・でも、二人の真剣な顔を見ていたら、何も言えなくなった。


「・・・どうか・・・無事で・・・」


としか言えない自分が情けない。


「でも、途中まで一緒に行きたい。二人の体力を温存するために道中の魔獣を倒すくらいはできるから」


とお願いすると


「途中までだ。相手にするのは魔獣だけだぞ」


と念を押される。


「俺達も手伝うから」


とパトリック達も一緒に来てくれることになった。


長い布を水魔法で濡らして貰ってそれぞれ口を覆う。


全員で黒煙渦巻く森の中に突進すると、あまりの熱さに体が上手く動かない。それでも襲ってくる魔獣を一頭一頭倒していく。


お父さまとフランソワは先頭を走り、その後をお母さまとダミアンが追いかける。


そしてある程度進んだところでお母さまが私達を振り返り


「貴方たちはここまでよ。引き返しなさい!」


と指示される。


私達は「分かりました!」と叫び、引き返そうと思ったが襲ってくる魔獣の数が半端ない。


お母さま達の魔法陣の邪魔にならないようにせめて魔獣の数だけでも減らしておこうと必死で魔獣と戦い続けた。


それにしても黒煙が辛い。呼吸が苦しくなり、体も疲れで動きが鈍って来る。魔獣だけでなく、上から燃えている木が落ちて来ることもあるので油断出来ない。


ああもう煙で空も見えない!と天を見上げた時、ふと思い出した。


「・・・精霊王様。聞こえていますか?スズです。魔王が復活しました。どうか力を貸して頂けないでしょうか?!」


と叫んだ。


すると天から幾つもの光の筒が降りてきた。


私の目の前に降り立った光の筒からはマーリンが現れた。


「・・・良く頑張ったな。スズ」


と頭を撫でてくれる。


気づいたら精霊王も隣にいて、


「煙が辛いな。ちょっと待ってろ」


と天に向かって手を広げた。


すると、雷の音と共に雨雲が空を覆う。次の瞬間、大雨が森一面に降り注いだ。


バケツをひっくり返したような勢いの雨に、さすがの炎も降参したらしい。


徐々に炎が消えていく。


私達もようやく息がつけるようになって、大きく深呼吸した。ああ、気持ちいい。


しかし、魔王は全く意に介さず全身を震わせ咆哮する。驚くべきことに魔王の咆哮と共に雨雲があとかたもなく消えてなくなった。


精霊王が舌打ちして


「・・・さすが魔王の面目躍如というところか。雷まで封じられた!」


と悔しそうに呟いた。


イカヅチオロチ、我ら三人で力を合わせれば大丈夫だ!」


と精霊王の近くに立っていた男性が力強く声を掛けると、


「兄上!」


と精霊王が応じる。


・・・兄弟、なんだろうなと頭の片隅で思いながら


「お母さまが神子を召喚するための魔法陣を描いているの。その間、フランソワとお父さまが囮になって魔王を引き付けているはずなの」


と私が泣きそうな声で言うと、マーリンは「大丈夫だ」と微笑んだ。


精霊王とマーリン、(多分)王の兄弟+側近たちは森の中心にいる魔王に向かって走って行った。


私達は戻るべき・・・なんだけど・・・お父さまとお母さまと・・・フランソワが心配だ・・・と逡巡していると、パトリックが


「俺達も行こう!炎も無くなったし、俺達に出来ることがあるかもしれない!」


と叫び、ジルベールも同意してくれたので、私たちは森の中心に向かって走り続けた。


相変わらず地響きが凄いし、魔獣はひっきりなしに襲ってくる。私たちはチームワークで魔獣を退け、森の中心にある開けた場所に辿り着いた。


そこには魔王と戦うお父さま、フランソワ、マーリン、精霊王たちの姿があった。


良かった・・・みんな無事だ。


私は彼らがどれだけ強いか知っているが、総がかりでも魔王には敵わないようだ。


でも、なんとか魔王がお母さまに近づかないように足止めしてくれている。


驚くべき魔王の力だが、お母さまから神子姫は一人で魔王と互角に戦っていたと聞いている。


神子姫、どんだけ強いんだ!?


一方、お母さまとダミアンは森の一隅で魔法陣を描こうとする度に、魔獣達が襲ってくるので、なかなか進まない様子なのが見てとれた。


「魔法陣の邪魔にならないように、私たちは魔獣を退けよう!」


と声を掛けると、みんなも賛同してお母さまたちに駆け寄った。


お母さまは私の顔を見て非難めいた表情を見せたが、すぐに気を取り直し


「・・・魔獣の相手をしてくれると助かるわ」


と言って、魔法陣に集中し始めた。


私たちは次々と襲ってくる魔獣と戦い続けた。


それがどれくらい続いただろうか・・・?


私の背後から「出来た!」というお母さまの声が聞こえ、眩しい光が辺り一帯に広がった。


魔法陣の中に一際強い光の筒が現れ、その中に人影が見えてきた。


光が消えると、そこには私と同じ年くらいのスラリとした可愛らしい女性が立っていた。


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