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魔獣騒動


戦いも終わり、平和な日々が戻って来た。


私は魔法学院三年生になり、卒業まであと一年となった。


毎日勉強や魔法訓練に忙しくて、授業以外でフランソワに会う機会は少ない。


学院ではあくまで一生徒に過ぎないから、仕方がないけどさ・・・。


卒業したらすぐに結婚したいってフランソワは言ってたけど、本当かな?


お父さまもお母さまも全然そんな話はしないし・・・。


学院でフランソワは相変わらず『氷の貴公子』の態度を崩さず、授業中でも休み時間に偶然会っても、私に対して特別な感情を持っているような仕草も表情も決して示さない。


フランソワは大人だから恋愛感情を隠すのが上手なんだろうな・・・。


私は感情を隠すのが下手だし・・・多分、私ばかりがフランソワを好きだからって言うのもあると思う。


長年片思いを続けていたせいか、私は愛されている自信が持てなくて、すぐに不安になってしまう。


そんなある夜、寮の部屋の窓をコツコツと叩く音がした。


ハッと振り返ると、バルコニーにフランソワが立っていた。


走ってバルコニーのドアを開ける。


「・・・すまない。こんな夜に・・・」


と後ろめたそうなフランソワ。


「ううん。何かあったの?」


「ジルベールから伝言があって。話があるから修道院に来て欲しいそうなんだ」


と言われて、私は慌てて靴を履いた。


二人でバルコニーから飛び降りる。


月を見ながら二人で手を繋いで歩いていると、昔もこんなことがあったような気がした。


「ん?どうした?」


とフランソワが甘い声で聞いてくる。


「・・・なんか、こうやって二人きりになるの久しぶりだなって」


「そうだな・・・」


「私は寂しかったけど、フランソワは平気そうだなって・・・」


と私が言うと、フランソワがつんのめった。


「・・・いや、俺の方が絶対に辛かった!」


疑いの目で彼を見ると


「本当だ!スズがクラスメートに笑いかける度に腹が立ったし、お前を見かける度に可愛くて抱きしめたかった。俺がどれだけ我慢していたか・・・」


と拳を握り締めるフランソワを見て、私だけじゃなかったのかな、って分かって嬉しい。


「・・・キスしてくれる?」


と聞くと、フランソワが頭を掻きむしった。


「・・・リュカとの男と男の約束だから・・・」


と苦悩しているのを見ると申し訳なくなる。


「大丈夫。ごめんね。気にしないで」


と言うとフランソワは深く溜息をついて


「卒業したらすぐに結婚しよう・・・絶対に結婚するからな!」


と私の手を強く握った。


嬉しい・・・はっきり言って貰えて、私もようやく安心することが出来た。




ジルベールは昔のように修道院で待っていた。懐かしさが胸にこみ上げてくる。


しかし、ジルベールの表情には憂いがあって、私は不安を覚えた。


三人でお茶を飲みながらテーブルを囲む。


「・・・実は魔獣が現れたんです」


とジルベールが話し始めた。


ジルベールによると、魔王の森近辺で魔獣が大量発生しているという。魔王の森には多くの優秀な騎士が配備されているので、魔獣が現れてもこれまでのところ人的被害は出ていない。


しかし、どこから魔獣が発生しているのか分からず、宮廷魔術師達がどこかに魔獣が現れる時空間の穴が開いていないか探索している最中らしい。


そして、魔獣が増えているということは魔王復活の可能性も示唆されるため、現在王宮でも魔王の森対策が最重要課題になっているそうだ。


・・・お母さまは忙しそうだな。


「以前、フィリップとミシェルが魔法学院で魔獣騒ぎを起こしたことがありましたね?」


とジルベールに問いかけられて、そういえば・・・と思い出す。ジゼルが奴等に利用されちゃったんだよね。


「時空間に穴を開けて魔獣を引き入れるのは、誰にでもできる訳ではありません。ただ、力の強い精霊や・・勿論、魔王にも出来ることですから、フィリップにも可能でしょう。今回の魔獣騒ぎも背後にフィリップがいると考えた方が、筋が通ります」


とジルベールは言う。


「確かにその通りだが、フィリップとミシェルはまだタム皇国にいる可能性はないか?フィリップは、セルジュを救出した時以来行方が知れないし、ミシェルも戦争になる直前に姿を消したと聞いた。しかし、フィリップは魔王の剣に執着していた。魔王の剣はユーリ皇帝が所有しているから、奴らはまだ剣を狙ってタム皇国に居るのではないかと思ったんだが・・・」


というフランソワの言葉に


「確かにその可能性もありますが、あの二人以外にリシャール王国で魔獣騒動を引き起こせる人間がいるでしょうか?」


とジルベールが答える。


「あの二人に協力者がいるとか・・?」


ちょっと言ってみただけだが、ジルベールからもフランソワからも首を振られてしまった。くすん。


いずれにしても、魔獣が増えれば人々の生活が脅かされる。今度も国王は魔王の森の警備を強化していく予定らしい。


「ただ、一度この学院でも魔獣が現れたことがありましたから、スズ様たちにもご報告した方が良いと思ったのです。どうか、お気をつけて」


と私達を見送りながら、ジルベールが言った。


しかし、幸い学院では特に大きな問題もなく平和な日々が続き、長期休暇が始まった。


私は自邸に戻ったが、お父さまから公爵邸に行くことを止められフランソワに会えないまま悶々と毎日を送っていた。


「結婚前にあいつに手でも出されたら」


とお父さまがブツブツ言うので


「私は手を出して欲しいんだけど」


と言ったら、


「お前がそんなだから心配で公爵邸に送れないんだ!」


と叱られた。


退屈だなぁ、と思っていたら、パトリック、ジェレミー、クラリス、ジゼルが遊びに来てくれた。


やっぱり仲の良い友達同士が集まると楽しい。


珍しくお父さまとお母さまも在宅していて、みんなを歓迎してくれた。


弟たちも大勢のお客さんに大興奮している。


ジゼルはお母さまにずっとついて回って料理の話をしている。


お母さまは昔サットン先生から日本食と呼ばれる料理を数多く習ったらしく、ジゼルの質問に軽々と答えていく。


「・・・うん。タム皇国からお米を輸入すれば、あなたが言うカレーライスっていうのも作れると思うわ。私達が普段作るカレーと少し違うのよね。とろみがついているからもっちりしたご飯とからみ易くて・・・」


ジゼルは目に涙を浮かべながら、祈るようにお母さまの話を聞いている。


・・・仲良さそうで良かった。


家族と友人達で和気藹々と昼食を取り、食後のお茶を飲みながらリラックスしていた時、突然王宮からの早馬が到着した。


執事が慌てて部屋に入って来るとお父さまとお母さまに何かを耳打ちして、文書を渡す。


それを読んで、二人の顔色が変わった。


「・・・どうしたの?」


と尋ねると、お母さまがお父さまの制止を振り切って


「三日前にタム皇国で魔王の剣が盗まれたらしいの」


と告げた。


私達は全員立ち上がる。


「私は今から王宮に行かなくてはいけないの。でも、誰かが魔王の森を守らないと・・・」


というお母さまの言葉をお父さまが遮った。


「俺が行くから大丈夫だ。フランソワも来るはずだし・・・子供を巻き込むな!」


「お父さま!私も魔王の森に連れて行ってください。危険なのは分かっていますし、無茶はしないと約束します!」


と私が言うと、お父さまは逡巡した。


「・・・ぷくがね。総力を挙げて戦わないと国が滅びるかもしれないって言うの。スズは戦力になるわ。ジルベールもついているし、私も王宮に行った後みんなに追いつくから」


お母さまの言葉を聞いたパトリック達も全員森に行くことを希望した。


さすがに彼らまで危険な地に送るのはと躊躇っていたが、パトリックが


「国の危機に自分が行かなかったら、後で父上に叱られます。お願いします。どうか行かせて下さい」


と強く主張したので、お父さまもお母さまも折れた。


お母さまが急ぎ王宮に行って、国王たちの意向を確認し許可が下りたら行ってもいいが、決して危ない真似や無茶はしないと誓わされた。


王宮からの許可を待つまでの間、全員で戦いやすい服装に着替え(伝統的なニンジャ服だ)武器を準備する。


その後王宮からの急ぎの使者が、国王だけでなくベルナール公爵、ロジェ伯爵も戦いの許可を出したと伝えた。みんな剛毅だな。クラリスは保護者がいないので、自己判断で問題ないと言い切った。


お父さまは危険が迫ったら迷わず逃げるよう私達に指示しながら、馬車に飛び乗った。


転移魔法と馬車を組み合わせて、急ぎ魔王の森に向かった私たちが見たものは・・・


・・・劫火に燃え盛る森だった。


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