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戦の足音


フランソワはその後、お父さまとお母さまに私との結婚の許可を貰いに行ったらしい。


言ってくれれば私も一緒に行ったのに、無謀にも一人で行ったためにボコボコにされて戻って来た。


「・・・でも、許可はちゃんと貰ったぞ」


と傷だらけの顔で笑うフランソワが愛おしくて堪らない。


治癒魔法をかけながら、少し泣きそうになった。


お祖父さまとお祖母さまは事情を分かっていたので、素直に祝福してくれた。


マーリンは出勤しやすいという理由で王宮にある元々の自分の住まいに戻って行った。


「公爵邸は居心地が良過ぎて、甘えてしまうから。それにマーリンとしての生活に戻ることも必要だろう。また遊びに来るよ」


と言って、笑顔で公爵邸を去って行くマーリンを見送って、私は目頭が熱くなった。


フランソワは私の肩を抱いて


「マーリンが居なくなって寂しいか?」


と尋ねる。


私が頷くと、拗ねたような表情で背後から私を抱きしめて


「俺がいても?」


と耳元で囁く。


婚約して以来、フランソワはとにかく甘い。溺愛過剰な気がしてならない。


スキンシップだけでなく、私への愛情や独占欲を出し惜しみしなくなった気がするし、恋愛するとこんな人だったんだ、と驚くことばかりだ。


だからと言って嫌という訳じゃなくて・・・嬉しいというか・・・幸せというか・・・そういう感じです。はい(恥)。


私は青いセーターを完成させて、フランソワにプレゼントした。


クリスマスはとっくに過ぎてしまったけど、青いセーターを着たフランソワはとても幸せそうで、私まで胸が一杯になった。


その後フランソワは、自分に私の香水を選ばせて欲しいと言って、一緒に香水のお店にデートした。私がまだセドリックが選んだ香水を使っているのが許せなかったらしい。


フランソワが選んだ香水は百合のように少し甘くて爽やかな香りだ。私もとても気に入ったので、プレゼントされてとても嬉しかった。


何だか幸せ過ぎて怖い・・・を地でいく甘い生活だった。


フランソワは結局魔法学院での教師を続けることにした。私に変な虫がつかないように監視するためと、出来るだけ一緒にいたいからだって。へへ。


勿論、学院ではただの一教師と一生徒として行動するつもりだ。



そして、魔法学院の新学期が始まった。


私は前学期の途中で攫われて猫にされたので、学院側には病気で長期欠席すると両親は伝えていたらしい。


その後、落ち着くまではちゃんと手紙を書くことが出来なかったので、クラリス達は死ぬほど心配していたらしい。ごめんね。


なので、新学期が始まって何が起こったかを説明したら、全員の口がポカンと開いて呆然としていた。


そりゃそうだよね!


ひとしきり私の冒険について話し合った後


「そっか・・・セルジュにはもう会えないのかな?」


とパトリックが寂しそうに言う。


「セルジュはマーリンなのよ。彼は王宮で働いてるから、パトリックは一番会いやすいんじゃない?」


「・・・そ、そうだな。あの小さかったセルジュがマーリンだったっていうのが実感できないが、中身は同じなんだよな?記憶が戻っただけで・・・」


とパトリックは頷いた。


「ねぇねぇ、タム皇国のお米は本当にモチモチしたご飯なの?」


とジゼルの関心は他の人とは別のところにある。彼女の米への執着心は目を瞠るものがある。


「そうなの!すっごい美味しかった。これはジゼルが言っていたお米に近いのかな?と思ったよ。取り寄せられたらいいんだけど、最近は政情不安定でシモン商会もタム皇国との取引はほとんどしていないんだって・・・」


「・・・そか。残念だわ」


とジゼルが肩を落とす。


「スズは、今後本当に戦争になると思いますか?」


とジェレミーに問われて、私も戸惑った。


「・・・分からない。でも、皇太子たちの話を聞いていて可能性はあると思う」


と答えるとクラリスが賛同した。


「私もそう思うわ。休暇中にお父さま達の動向は怪しかったもの。連日変な来客があったわ。外国から来たような人も多かったし、柄が悪い人もいたの。何かあってもおかしくないと思う」


「戦いになったら、私も当然参戦したいんだけど、フランソワが許してくれなくて・・・」


と私が愚痴ると


「だって、大事な恋人で婚約者ですもんね!」


とジゼルたちに揶揄われて、顔が熱くなる。


「でも、本当に良かったわ。スズとフランソワが幸せになって、とても嬉しいの」


とクラリスが言い、みんなが頷く。


婚約について話した時はみんな心から祝福してくれて、とても嬉しかった。


「いや、でも、希望者が居れば魔法学院の学生でも参戦できるようにすると父上が言ってたぞ。俺も参戦したい。俺達でチームを作れないだろうか?」


とのパトリックの言葉にジェレミーは


「確かに我々五人はこの魔法学院でも上位の魔力の持ち主ですし、戦力としては申し分ないかと思います。しかし、戦術の中に我々の戦力が組み込まれるためには王宮との緊密な連携が不可欠です。パトリックには王宮との連絡役をして頂き、いざ戦いが始まった暁には、我々も戦力として計算に入るよう伝達して頂くことが肝要かと思われます」


といつものように述べた。


「結界の修復ってそんなに時間がかかるのかしら?」


というジゼルの質問にジェレミーがいつもの長尺で答える。


途中、意味が良く分からないこともあったが、要は結界を張るのはパズルのような作業だという。大陸の中の小さなパーツとなる結界を沢山繋げていって、最後にようやく大きな大陸全体の結界が完成するのだ。だから、大陸全体への結界の修復は一番時間がかかり、最後に完成するものらしい。最低でもあと数か月、下手すると一年はかかるという。


「一番いいのは戦いが始まらないことなんだけど・・・」


とクラリスが呟いた。



そんな私達の願いもむなしく、その数週間後タム皇国はリシャール王国との友好条約を破棄すると宣言し、リシャール王国・モレル大公・ジラール王国連合に対して宣戦布告を行った。


魔法学院は臨時休校となり、生徒は皆家族の元に帰って行く。


私はフランソワと二人で馬車に揺られて公爵邸に帰ることになった。


馬車に乗って窓のカーテンを引いた途端、フランソワは私を膝の上にのせる。


「・・・あぁ、お前を抱きしめたくて仕方がなかった。自分の忍耐力を褒めてやりたい」


と私の首筋に顔を埋めながら、私をぎゅーっと抱きしめる。


優しく私の頬を撫でてじっと瞳を覗き込むので、口付けされるのかな、と目を閉じると・・・閉じても・・・何も起こらない。


片目を開けてフランソワを見ると、手を口に当てて真っ赤な顔でぷるぷる震えている。


私は恥ずかしくなって


「・・・もう!揶揄ったのね」


と怒ると


「ご、ごめん。あまりに可愛すぎて・・・。それに・・・リュカから、結婚するまで指一本触れるなと釘を刺されたんだ。実はもう口付けしたと言ったら、三発くらい余計に殴られたが・・・それ以上はダメだと言われてるから」


と焦って言い訳する。


・・・お父さま。余計なことを・・・。


フランソワは真面目だから、きっと約束を守ろうとするしなぁ。


「ぁ~ぁ。キスしたかったなぁ」


と呟くと


「・・・頼む。これ以上煽らないでくれ。俺の忍耐力にも限界があるから・・・」


とフランソワが苦悶の表情を浮かべた。


その後はタム皇国との戦いについて真面目な話をした。


「フランソワ。私も国を守るために戦いたい。魔法を使って人々を守れるならそうしたいよ」


と言うと、フランソワは諦めたように溜息をついた。


実は、パトリックがアラン国王に既に奏上していたらしく、パトリック、ジェレミー、クラリス、ジゼルと私はフランソワをリーダーとしたチームとして既に配備されているんだって!


フランソワは最後まで反対したらしいが、驚くことにお母さまが押し切ったらしい。


「リュカも反対してたんだが、オデットはスズも戦いたいはずだと主張したんだ。女親は強いな。リュカからはスズに一筋でも傷をつけたら殺すと脅されているから、頼むから無茶はしないでくれよ」


と泣きそうな顔で言う。


ぎゅーっと全身で私を抱きしめながら


「俺も本当は心配で堪らないんだ。スズに何かあったらと思うと怖い。スズがいないと俺は生きていけない。だから、どうか自分の身を守ることを最優先にしてほしい」


と懇願した。


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