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解呪


目を醒ました時、目の前に完璧な美少年のかんばせがあった。


セルジュはまだ眠っている。私は彼の顔をウットリと見つめた。


素敵・・・。セルジュの顔を見るだけで胸がドキドキする。


こんな気持ち初めてだわ。


セルジュの瞼が震えて、長い睫毛の向こうから美しい瞳が見えた。


透き通った茶色の瞳が私を捉えて、優しい弧を描く。


「よく眠れた?」


と言う彼の声を聞くとゾクゾクする。


「うん」


と言いながら、セルジュに体を擦り付けて丸くなった。


セルジュに体を撫でられると、びびびと痺れるような感覚がある。


「夕べ惚れ薬を飲んだのを覚えている?」


とセルジュに質問されて


「うん。誰のことを好きだったのかは覚えてないけど。でも、辛い思いは無くなったから良かったよ」


と答えると、セルジュは少し哀しそうに俯いた。


私は船旅の間中ずっとセルジュにべったりとくっついていた。


セドリックが呆れたように


「お前は本当に動物に好かれるな」


と言っていたけど、セルジュは曖昧に微笑むだけだった。



セドリックは私達が公爵邸に戻るまでに必要な書類も馬車も全て手配してくれていた。


有難い。


無事に公爵邸に戻った私達を、お祖母さまは温かく迎えてくれた。


お祖父さまはずっと王宮に泊まりこんで結界修復と国防の対策を行っているらしい。


セルジュは呪いに使われた神龍の鱗が手に入ったことをお祖母さまに知らせ、今から解呪薬を作ると説明した。


セルジュがフランソワを置いて帰国した経緯を説明すると、お祖母さまの目が吊り上がり


「全くフランソワは!本当にバカなんだから!」


とぷんぷん怒り出した。


私が「フランソワって誰?」とセルジュに尋ねると


「君が忘れたいと思っていた一番好きな人だよ」


と説明される。


「そっか・・・。全然覚えてない。でも、忘れたいと思っていたんだから、これで良かったのよね・・・」


と言うとセルジュが複雑な眼差しで私を見る。


私がフランソワを忘れたことも説明されてお祖母さまは驚いたようだが、惚れ薬の事情を聞くと


「いいのよ。スズに忘れられていい気味だわ。それだけあなたを傷つけてきたってことなんだから」


と私の頭を優しく撫でてくれた。



帰邸以来、セルジュは調薬室に籠って神龍の呪いの解呪薬を作っている。


私は彼の近くに居たいので、邪魔にならないように余っている椅子の上で丸くなっていた。


セルジュは寝食も忘れて調薬室に籠っていた。


たまに侍女がサンドイッチや飲み物を差し入れしてくれるが、それすら食べずにひたすら作業に没頭しているセルジュの端整な横顔を私は飽きずに見つめていた。


どれくらい待っただろうか。


「出来た!」


というセルジュの声を聞いた時、私はまだウトウトしているところだった。


「スズ!出来たよ!これで元に戻れると思う」


と興奮したセルジュの声を聞くと、私も嬉しくなる。


また女の子に戻れて、セルジュの隣に居られるのね。


早く飲ませて!と大きく口を開くと、セルジュが愛おしそうに私を見て


「・・・最初に僕が毒見するから待っていて。スズに何かあったら困るし、僕には何の効き目もない薬のはずだから」


と二つの容器に入った薬の一つを飲み干した。


しばらく待った後、自分の体に異常がないことを確認する。


「うん。大丈夫そうだね。じゃあ、今度はスズに」


ともう一つの容器に入った薬を私の口に流し込んだ。


特に何も起こらない?と思っていたら、突然セルジュの体が白い光に包まれた。


余りの眩しさに目を開けていられない。


何が起こったの!?セルジュ!


光が消えて、ようやく目を開けられるようになると、目の前に大人の男の人がいた。


でも、大人になっても顔はセルジュの面影があるし、流れてくる癒しの波動は間違いなくセルジュだ。


セルジュが突然大人になった!?


体が大きくなったせいでシャツのボタンは全て弾け飛び、均整の取れた筋肉質な体が丸見えだ。お腹は完璧に六つに割れている。


「セルジュ?」


と声を掛けるとセルジュは、私に甘く蕩けた視線を向けた。


「スズ。俺は記憶を全て思い出した。それでも、俺の気持ちは変わらない。スズ。愛している」


そう言って、セルジュは猫の私に口付けをした。


「私も!私も愛してるわ!」


そう言った瞬間、私の周囲も白い光に包まれた。


体中が微妙に振動しながら、私の体が再び変化しているのを感じた。


全身がピリピリして皮膚から毛がなくなり、体がどんどん大きくなる。


気がつくと、私の体は元に戻っていた。但し、服は着ていない。


セルジュが顔を真っ赤にして


「す、スズ。見てない。見てないから」


とボタンが弾け飛んだシャツを脱いで手渡してくれる。


私は慌ててそのシャツを羽織って、体を隠す。


「ちょ、ちょっと着替えを・・・探してくる」


と立ち上がったセルジュのパンツは半ズボンのようになっていたが、上半身裸のセルジュは神々しいくらい美しかった。


扉の向こうから


「きゃっ!」とか「誰だ!」とか色々な声が聞こえたけど、最終的にお祖母さまは彼がセルジュだと分かってくれたらしい。


お祖母さまが調薬室にやって来て、目に涙を浮かべながら


「スズ!良かった!元に戻ったのね!」


と抱きしめてくれる。


その後、私の体に大きなブランケットを巻きつけると


「セルジュ。もう大丈夫だから入って来て」


と声を掛けると、相変わらず上半身裸のセルジュが恥ずかしそうに入ってきた。


「スズを部屋に運んであげてくれる?その間にあなたの服も探しておくから。ヴィクトルの服で着られそうなものはあるかしら・・・?」


とお祖母さまは忙しそうに調薬室から出て行った。


セルジュはそっと私を抱き起す。


「あ、あの、自分で歩いて行けるから」


と言うと


「ダメだ。俺に頼ってよ」


と甘い眼差しでお姫様抱っこされた。


・・・なんか、夢みたいだな。好きな人にこうやって抱っこして貰えるなんて。


夢心地の私はセルジュの胸に顔を摺り寄せた。


「セルジュ・・・好き」


と言うとセルジュは気まずそうに


「スズ、・・・実は・・・俺の本当の名前はマーリンなんだ」


と告白した。


*隠しキャラはマーリンでした!マーリンの事情は次回です。


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