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動物たち

フランソワは紅茶を入れるのが上手い。


「まぁ、フランソワーズ、良い香りね」


ナターリヤ姫が微笑み、フランソワは軽く会釈をしながら姫に紅茶を差し出す。


堂に入ったその仕草に私は呆れるばかりだった。


均整の取れたスラリとしたフランソワの体躯に、ドレスはぴったり似合っている。


皇宮に到着した日、ジャックがフランソワの胸にタオルを入れたり、化粧をしたり、奮闘しているのを、私はただぼーっと眺めているだけだった。


髪は姫が直々に結ってくれてサラサラした金髪が綺麗なシニョンになり、化粧をしたフランソワは完璧な美女だった。


ナターリヤ姫が感銘を受けたように


「なんて妖艶な・・・」


と溜息をつく。


ジャックですら


「ふるいつきたくなる美女だな。男なのが本当に残念だ」


とコメントした。


「光栄ですわ」


と言ったフランソワの声が、女性にしては低い声だが、男性の声にも聞こえたかったことにも驚いた。


「お前、声色も変えられるのか?すげーな」


というジャックに


「器用貧乏なんでね」


と地声に戻って返事をした。


「まぁ、背がでかいから、万が一ここに人が訪ねてきた時には、座ったままの方がいいかもな。幸い、お前さんは侍女じゃなくて調薬師ってことになっているから、侍女のように立ち働かなくていい」


とジャック。


「ナターリヤ姫の侍女はいないのか?」


とフランソワが訊くと、ナターリヤ姫が言いにくそうに眉間に皺を寄せた。


ジャックが代わりに


「これまで姫についていた侍女は、毒殺されるか、姫を毒殺しようとするかの二種類しかいなかったからな。だったら、誰もいない方がいいってことになったんだ。姫は自分のことは自分で出来る。必要があったら俺が手伝うし」


と答える。


フランソワは姫に同情したのかもしれない。


二人きりの時には、こうしてお茶を淹れてあげるようになった。



皇宮に来てから三日が過ぎた。


その間に色々なことがあった。


フランソワは夜になるとニンジャ服に着替えて隠し通路を使って、城の中を歩き回り情報収集をしている。


ナターリヤ姫が隠し通路のことをあまりに包み隠さず教えてくれるので、フランソワ自身が戸惑うくらいだった。


「あなたは私がここで何をやっているか知らない。そんなに簡単に城の秘密を教えてしまって宜しいのですか?」


というフランソワの質問に


「私は幼い頃から、ずっと騙されたり、攫われたり、暗殺されかけたりして参りました。悪意ある人を見る目はあるつもりですわ」


とナターリヤ姫は笑顔で応えた。



ナターリヤ姫が新しい調薬師を迎えたという噂はあっという間に広がったらしく、皇子皇女や貴族たちが噂の調薬師の顔を見ようと代わる代わる姫の私室を訪れた。


皆一様にその美しさに感銘を受けたようで


「是非うちにも」


とフランソワ改めフランソワーズを誘おうとするが


「私はナターリヤ姫専属でございますので」


と落ち着いた声できっぱりと拒絶された。


第二皇子ルドルフの妻アンジェリックも登場して緊張が走ったが、彼女は面白くなさそうにフランソワーズを一瞥しただけで、帰って行った。


そうした騒ぎも1-2日で収まり、物珍しさもなくなったのだろう。誰も訪れることがなくなり、ようやく落ち着いたところだ。



そして、この三日間で私は姫の部屋のペットと仲良くなった。


この部屋には、大きなオウムとスタンダードプードルとバーミーズという種類の猫が住んでいる。


三人(人じゃないけど)とも、とても頭が良くて親切だ。


姫のことを心から慕っている忠義者ばかりだし、私の境遇にとても同情してくれた。


私は自分が猫になった理由や、何故ここに来たかを正直に彼らに話した。


長年セルジュと一緒に過ごして、動物たちがどれだけ情に厚く、また情報収集に長けているかを知っているので、彼らに協力を頼めないかと思ったのだ。


彼らは身じろぎもせず、私の長い話を聞いてくれた。


余りに長い時間そうしていたので、姫がフランソワに


「見て下さい。動物たちの会議が行われていますわ」


と言いながら、クスクス笑った。


フランソワは私達を見ながら


「彼らは雄ですか?」


と尋ねた。


「いいえ、皆雌ですわ」


と言う姫の答えを聞いて


「ならいいです」


とフランソワは安心したように微笑んだ。


え!?動物界でも私は雄に対して警戒心がないと思われてるの?ショック!


オウムのセミ、プードルのアリ、猫のトンボは、ミシェルとフィリップの悪役二人組とセルジュについて夫々の情報網を使い調べてくれるそうだ。


「本当にありがとう!」


と御礼を言ったところで、フランソワに抱き上げられた。


フランソワは愛おしそうに私を膝に載せて、背中を撫でる。


「フランソワーズは本当に猫のスズちゃんが大好きなのですね。可愛い姪御さんと同じ名前をつけるくらいですものね。恋人を見つめるような眼差しですわ」


と姫が揶揄うと


「そうですね。大人になったら恋人にしたいと思っています」


と蕩けそうな眼差しでフランソワが答える。


・・・なんと!


冗談だと分かっていても、嬉しいかも。


人間だったら絶対に言われない台詞だからなぁ。


だんだん猫のままで居たくなって困ってしまう。


ああ、撫でられると気持ちいいなぁ。喉をゴロゴロ言わせながら、私はそのまま眠ってしまった。


*スズが良い動物たちに会えたのは、ちょっとした幸運のおかげだったりします。

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