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家出


マルタン伯爵邸はお祖父さまの屋敷ほど広大ではないけれど、それでも広い敷地に森や庭園があったりする。


子供の頃よく遊んだ森の中に私の秘密基地がある。


大きな木のうろがあって、その中に入るとちょっとした空間が広がっているんだ。


体が大きくなったので、もうきつくなってきたけど、なんとかそのうろの中に体をこじ入れた。


木のうろの中で膝を抱えてじっとしていると、ジルベールの穏やかな声が聞こえた。


「スズ様。聞こえますか?ジルベールです。少しお話出来ますか?」


しばらく沈黙した後、私はゆっくりとうろから顔を出した。


ジルベールに手を引っ張られて外に出る。


ドレスが泥だらけだ。まあ、いつものことだけど。


「申し訳ありません」


とジルベールが頭を下げる。


「なんでジルベールが謝るの?」


「私が異世界から持ち込んだ知識のせいで、スズ様を悲しませてしまいました」


「・・・ジルベールのせいじゃないわ」


「オデット様はスズ様のことを心配されておられるのです」


それは分かってる。でも、それを認めるのが癪に触って、私はそっぽを向いた。


ジルベールは少し熟考していたが


「スズ様、しばらくモロー公爵邸に滞在されますか?」


と訊く。


「・・・どうして?」


「あの、リュカ様はオデット様のことになると・・・ちょっと常軌を逸することがあって。今お怒りが最高潮に達しております」


言いにくそうに話すジルベールを見ながら、私は想像が出来ると納得した。


お父さまは私を可愛がって愛してくれるけど、お母さまに勝るものではない、と思う。


お母さまに反抗した私の味方になってくれる者はこの屋敷にはいない。


お父さまは私を叱りつけてお母さまに謝れと言うだろう。


この屋敷ではお母さまが絶対的勝者なんだ。


ジルベールはそれを良く分かっているから、しばらく屋敷から離れた方がいいと言ってくれたんだろう。


「私もお祖父さまの屋敷の方がいいわ」


と言うと、ジルベールはニッコリと頷いて、私とジルベールはそのまま馬車で公爵邸に向かった。


お父さまにもお母さまにも会わなかったけど、ジルベールが上手く話をつけてくれたのだろう。有能だな。


私の荷物は・・・?と考えたけど、公爵邸に入り浸っている私は着替えも全部あちらに揃っていたなと思い出す。


特に持って行きたいものも思いつかないので、大丈夫だろう。


ドレスも泥だらけのままだな・・・。


フランソワに見られるかもしれないのに、としょんぼりする。


彼に見られないうちに着替えようと思っていたのに、公爵邸で私達を出迎えたのはフランソワだった。


彼は私の顔を見て


「ひどい顔だな」


と一言発した。


私は何故だか悔しくなって、下を向いてぐっと唇を噛んだ。


「何があった?」


というフランソワの口調がいつもより若干優しい。


ジルベールが


「お話は後で」


と言って私を部屋に送ってくれた。


自分の部屋の浴室で体を清め、ドレスを着替える。


お祖父さま達にも事情を説明しなくちゃな、と思って、重い足を引きずって階下に降りて行った。


お祖父さまとお祖母さまが心配そうに私を見ている。フランソワの表情はいつもと変わらない。


ソファに座り、メイドが淹れてくれたハーブティーの柔らかな香りが少し気持ちを落ち着かせてくれる。


私はお母さまから言われたことを説明した。


それに納得がいかない自分の気持ちも。


驚くべきことに三人ともその乙女ゲームとやらの話は知っていた。


お祖母さまは


「オデットはあなたのことを心配して・・・」


とまたお母さまを庇う発言を始めたので、私は耳を塞ぎたくなった。


みんなお母さまの味方なんだ!もう聞きたくない!


・・・すると


「そういう問題じゃないでしょう?俺はそもそもスズにそんなことを話すオデットの神経を疑う」


と言う声が聞こえて、しかもそれがフランソワの声で私は耳を疑った。


フランソワは珍しく怒っているようだった。


「人の恋心なんてコントロールできるもんじゃない。こんな小さな女の子にそんなことを押し付けるなんて俺は初めから反対だった」


「・・・そうだな。お前はずっとスズには話さない方がいいと言っていた」


お祖父さまが呟く。


「恋心っていうのは自然に発生するものだ。この人を好きになろうと思って恋に落ちるわけじゃない」


フランソワは眉間に深い皺を寄せながら拳を握り締める。


そして、私の目を見ながら


「お前の気持ちは分かる。お前は間違っていない。オデット達の頭が冷えるまでここに滞在したらいい」


と言ってくれた。


私はその言葉があまりに予想外で、あまりに嬉しくて鼻の奥がツンとした。


また泣きそうだったけど、頑張って堪える。フランソワの前で情けない泣き顔は見せたくない。


「そうだな。好きなだけここに居るといい。ここはお前の家だ」


とお祖父さまも言ってくれて、私は頭を下げて御礼を言った。


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