表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/98

ジルベールの運命


その日の夜、私とセルジュは鳩からの報告を受けていた。


正確に言うとセルジュに通訳してもらいつつ、ジゼルとお母さまの話の内容を聞いていた。


ジゼルはこの世界でゲームの筋書きを全く無視して行動するヒロインの私に、酷く腹を立てていた。


そのため、物凄い恨みというか敵意というか悪意を私に対して持っていた、らしい。


お母さまは闇の魔法を使って、強い悪意を取り除いたと言う。


でも、考え方を変えない限り、また悪意の種が芽を出すだろう。


ゲームの筋書きにこだわりすぎて不幸になった人を知っているとお母さまは言った。


それが前作のヒロインであるミシェルだと。


神龍の魔女として接触したミシェルが前作のヒロインで、死刑囚だった彼女が脱獄して逃げ回っていると聞いてジゼルは大きな衝撃を受けた。


ジルベールからある程度ミシェルのことは聞いていたが、まさか前作のヒロインとは思いもよらなかったようだ。


「ゲームの筋書きに頼りすぎて自分で努力することを忘れてしまった者の末路ね。あなたも気をつけた方がいいわ。ここは現実なの。未来がどんな風に変わるかを決めるのは生きている人間の行動なのよ。いくらゲームの強制力があっても未来を変えることが出来るのは生きている人間よ。あなたも気をつけてね。転生者の陥りやすい罠だから」


とお母さまは締めくくった。


それにしても優秀過ぎる鳩だ・・・。


ジゼルがお母さまの言葉を受けてどう感じたのかは分からないけど、あまりゲームにこだわり過ぎないでくれるといいな、と思う。


そして、お母さまはきっとジゼルの悪意が強くなりすぎて、私に害を及ぼす前に釘を刺してくれたんだ。


お母さまは私のことを愛してちゃんと考えてくれている。


そして、私が危険な船旅でも乗り切れるだろうと信じてくれた。


その信頼に応えるためにも頑張ろう、と考えていたら、セルジュがしょんぼりとしている。


「どうしたの?」


と聞くと


「スズが危ない目に遭うなら、僕も一緒に船旅に行きたいってフランソワにお願いしたんだ」


と答える。


「え?でも、セルジュは船が苦手なのよね」


「うん。そうなんだけど、スズの危機だったら、そんなことを言っていられないし・・・」


「ありがとう、セルジュ。でも、私セルジュに無理させたくない。危険な船旅だったら余計に・・・。私は大丈夫だから!」


と気を引き立てるように言うと


「フランソワからも似たようなことを言われた。それと、守る対象がスズ一人の方がやりやすいから僕はここで待っていろって」


とセルジュが俯く。


「・・・やっぱり僕は足手まといなんだと思う」


「そんなことないよ!フランソワは自分がいない間、公爵邸をセルジュに守って欲しいんだよ!セドリックの家でも長男で後継ぎのポールはお留守番なんだよ。ちゃんと家を守る人が必要だからって。だから、セルジュも私達が居ない間、公爵邸とお祖父さまとお祖母さまを宜しく頼むね!頼りにしてるから!」


と言うと、セルジュは少しだけ笑顔になった。


「ちゃんと無事に帰ってきてね。僕は・・・スズが居ない世界で生きていける気がしない」


「大丈夫!絶対に帰って来るから。指きりげんまんね。この約束は・・・」


「絶対に破っちゃいけない究極の約束なんだよね」


とセルジュが笑いながら続ける。


二人で指きりげんまんをして、また笑い合った。



翌日学校に行くとジゼルが私に近づいてきた。


おお、珍しい!と思っていると、二人きりで話がしたいと言う。


クラリスは心配そうに見ていたけど、私は休み時間にジゼルと並んで中庭のベンチに腰を掛けた。


話って何だろう・・・と不安になる。


ジゼルは最初躊躇っていたが、私の顔を見ると


「色々・・・ごめんなさい!」


と頭を下げた。


「え・・・?」


「昨日、あの・・・あなたのお母さまと話をして反省したの。凄い方ね。初めて気持ちが晴れたというか・・・。私はずっとあなたを目障りだと思ってたけど、逆恨みだって分かったわ。ゲームの筋書きにこだわっていた自分は間違っていたと思う。だから・・・ごめんなさい」


と再度頭を下げる。


「もういいよ。私もクラリスに対して無神経で悪い部分があったと思うし、ジゼルは自分を守ろうとしてくれたってクラリスが言ってたよ。こちらもごめんね。だから、これで仲直りしよう」


と手を差し出した。


「初めて会った時からやり直そうよ」


と言うと、ジゼルが嬉しそうに私の手を両手でギュッと握り締めた。


その後、色々な話をした。私は異世界の話に興味津々だったので、ジゼルが生きていた日本という国の話を沢山してもらった。


主に食べ物の話だけど。何て豊かな食文化だろうと羨ましくなる。


ジゼルは特に「日本の米が食べたい!」と熱く語った。


この世界にもコメはあるがロンググレインと呼ばれる細長いタイプだ。


日本の米というのはもっと楕円形で、しっとりもっちりしているという。


確かにここのコメはドライな感じだもんね。カレーと一緒に食べると美味しいけど、日本のカレーライスと呼ばれる食事は根本的にこの世界のカレーとは違っているらしい。


非常に興味深い。


しばらく話をした後、ジゼルがためらいがちに


「・・・あのね、スズがゲームの話が嫌いなのは良く知ってるんだけど、一つ言っていい?」


と切り出した。


ジゼルと仲直り出来て上機嫌だった私は何でも来い!という気分だった。


「もちろん。何?」


「スズはセドリックと今年も船旅に出るの・・・?」


「え?う、うん。何で知ってるの?」


「噂で小耳に挟んだの。毎年クリスマス休暇はボーイフレンドと船旅だって生徒の間で噂になってるよ」


え・・・そうなんだ。別に秘密にしている訳じゃないけど、ちょっと複雑な心境だわ。


「ファンクラブの情報網を舐めない方がいいわよ」


とジゼルが苦笑する。


「私はセドリック・ルートはやったことなくて、これは友達からの情報なの。ゲームだと2年生の時のイベントだから、今年は関係ない・・・はず、だけど、言っておいた方がいいかなと思って。ゲームの中で、スズとセドリックは船の旅に出るの。そこでスズに嫌がらせをするのがミレーユという悪役令嬢なのよ」


おお、出た。ミレーユが別の悪役令嬢?


「セドリックとスズは国王の密命を受けて、タム皇国に大切なものを届けるのよ。スズたちはわざと予定とは違う航路を通ってタム皇国に航行するんだけど、その航路を敵にバラしてしまうのが、ミレーユなの。船の結界も解いてしまって。それで敵に襲われるのよ・・・」


「え・・?船の結界も?」


この世界の船は必ず結界を張っている。魔法でいきなり海賊に転移して来られたら大変だしね。


その結界を解くということは、どうかこの船を餌食にして下さいと言っているようなものだ。


結界の解除の仕方を知るのは船長だけで、船長の娘であるミレーユならそのやり方を知っている可能性はある。


ただ、そんな無茶をミレーユがするだろうか?


私が考え込んでいる間にジゼルは話し続ける。


「それで・・・その・・・ジルベールってあなたの護衛なのよね?」


「うん」


「ジルベールはその敵襲でスズを守って死んじゃうの。敵の中に強い呪術師がいてね。呪いのかかった剣で切られて・・・」


ジゼルの話を聞いて、私は顔から血の気が引くのが分かった。


「・・・ジルベールが?!そんなこと一言もあの人・・・」


ジゼルは私を宥めるように私の手を握った。


「勿論、私達はまだ1年生だし、ゲームの筋書きは絶対じゃないのは分かってるから、大丈夫だろうとは思うんだけど、念のため伝えておこうと思って・・・。ジルベールは数少ない転生仲間だからさ・・・」


そう言った後もジゼルは何かを堪えるように俯いていたが、バッと顔を上げて


「それからね。本当にごめん。今の話とか他にも沢山ゲームの話をミシェルにもしちゃったの。彼女は続編のストーリーを知らなかったから、凄く嬉しそうに話を聞いていたわ。勿論、2年生になってからの話だと思うし、心配ないと思うんだけど・・・念のため・・・」


と小さい声で話してくれた。


「それからね・・ミシェルが言ってたの。ミシェルは今までとは全く違う・・・上のレベルの魔法を使えるようになったって。具体的にどんな魔法かは分からないけど、一緒にいる男の人のおかげだって言ってたわ・・・」


と話を続けるジゼルに


「分かったわ。話してくれて、ありがとう。ジゼル」


と言うと、ようやく彼女は安心したように微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ