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精霊王登場!


セルジュと別れた後、部屋に戻ってセドリックに手紙を書く。彼は今長い航海中だ。この手紙だっていつ彼の手元に届くか分からないけど、今の気持ちを正直に書くことにした。


セドリックは今どの辺りを航海しているんだろう?


去年のクリスマスもセドリックの家族と一緒に過ごして楽しかったな、と思い出す。


・・・ああ、いかんいかん。現実逃避してしまいそうだった。



クラリスのことは心配だけど、私に何が出来るだろうと考えると何も思いつかない。


フランソワが呪いの元を追ってくれているなら、きっとすぐに問題も解決するだろう、と信じるしかない。


・・・しかし予想に反して、数か月が過ぎてもクラリスの周辺で呪いに掛けられる生徒の数は増える一方で、誰がどんな形で呪いをかけているのかは全く不明のままだった。


学院全体が疑心暗鬼の影に包まれているようだった。不穏な雰囲気が教室中に溢れ、明るい笑い声が聞こえることもほとんどなくなった。


そんなある日、学校で授業を受けていると


ズド―――ン!


と物凄い衝撃音がした。


音がした学校のグラウンドの方角を見ると、天から光の柱が何本も地上に降り立った。


光のあまりの眩しさに教室の中にいても、目を開けていられないほどだった。


しばらくして光が消えたので、グラウンドに目を向けると中心に鮮やかな明るい青い髪をした美丈夫が立っていた。


完璧に整った顔の造形にふとセルジュの顔を思い出した。


真っ白い輝くような肌に、瞳の色も髪と同じ明るい空色だ。真っ白なローブを羽織った姿は神々しく清浄に見える。


中心の美丈夫を取り囲むように立つ男達も全員美男子で、凛々しい顔立ちをしている。髪の色は黄色とか藤色とか明るい色ばかりだ。


生徒全員が授業そっちのけで窓辺に集まった。生徒だけじゃない。先生も窓辺に張り付いている。


美丈夫の声は涼やかで美しく、それほど大きい声ではないのに全員の耳に明確に届いた。


「我は精霊王である。最近この学院で我が保護する精霊たちを犠牲にし、呪いの儀式を行う不届きな者たちがいる。その者たちを差し出せば、許そう。さもなくばこの学院全体を即刻破壊する」


精霊王の言葉を聞いた時、何人かの生徒たちがクラリスの顔を振り返った。


クラリスは無表情で精霊王の言葉を聞いている。


その時、学院長と何人かの教師らがグラウンドの精霊王に駆け寄って行くのが見えた。


学院長が必死で汗を拭きながら何かを話しかけている。


精霊王はただ首を横に振るだけだ。


「精霊を使った呪いの儀式がこの学院で行われていることは確実だ。言い逃れは出来ぬ」


学院長が頭を下げて何かお願いしているが、精霊王は冷たく首を横に振る。


「犯人を差し出さぬのであれば、今すぐこの学院を破壊する」


「ま、まままま、待って下さい!」


私は思わず叫んで、そのまま窓からグラウンドに飛び降りた。


私の教室は二階なので、それくらいなら問題ない。


タン、と着地した後、猛ダッシュで精霊王のところまで走って行った。


「・・・ほぅ」


と精霊王が面白そうに私を見る。


「お前は何者だ?」


私はお母さま直伝のカーテシーで礼をした後


「恐れ多くも精霊王様に拝謁の機会を賜り、恭悦至極に存じます」


と挨拶をした。


「良い。話せ。何用だ?」


「恐れながら、当学院でも精霊を使い、呪いの儀式を行う犯人を全力で捜しております。私どもは決して犯人を庇っている訳ではございません。しかし、これまでのところ、見つけられませんでした。もし、精霊王様のお力を拝借できれば、より早く見つけることが可能かと思います。私どもも犯人の捕獲を心から望んでおります。どうか、お力を貸して頂く訳にはいかないでしょうか?」


「・・・なるほど。学院を破壊するのではなく犯人を捜すのを手伝え、と言うことだな。それで我に何の得がある?」


「それでしたら、当学院を破壊しても何も得るものはないのではないでしょうか?」


「少なくとも犯人を葬り去ることは出来るだろう。何か学院を破壊しない方が良い理由を聞かせてもらおうか?」


・・・うぅ、私はこういった頭を使う交渉術は苦手だ・・・。


えーと、えーと、確かゲームだと料理対決になったんだっけ・・・と思い出し、


「・・・例えば・・・料理とか・・・?」


と私が言うと精霊王は何故か笑い出した。


「料理と来たか!?面白い。精霊は大気から力を得て生きる。生きるために食べる必要はないのだ。食べる時は真にその味が気に入った時のみ。純粋な嗜好の問題だ。これまで人間で我の舌を満足させたものはいない」


精霊王はニヤリと笑った。


「良かろう。明日お前達が考える我が好きであろう料理をありったけここに並べよ。その中で一つでも我が気に入った料理があった場合、学院の破壊はせず、呪いの儀式を行った犯人を特定するために力を貸そう。それで良いな?学院長?」


と精霊王が言うと、学院長はコクコクと頷いた。


今すぐ破壊されるよりは多少時間が稼げたと思ったんだろう。学院長は安堵した様子だった。


「分かった。明日夕刻に再びこちらに来よう。それまでにせいぜい準備しておくのだな」


と笑いながら精霊王と側近たちは再び光の柱の中に消えていった。

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