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神龍の探し物


初めて牧場に行った日の夜。


私はお父さまとお母さまに、これからも定期的に牧場に行かせて欲しいとお願いした。


「・・・フランソワはまた来てもいいって言ったの?」


「うん!」


と力一杯頷くとお母さまの猫のような緑色の瞳がまん丸に見開かれた。


「あいつも丸くなったんだな」


とお父さまも驚いたように言う。


「フランソワが来ても良いと言ったんならいいけど。ご迷惑を掛けないようにね。あと・・・」


「はい!勉強も訓練もちゃんとやります!」


と大きな声でハキハキと約束した。


お母さまは、ふふっと笑いながら私の頭を撫でる。


「あなたには大きな夢があるものね?」


「うん!冒険家になりたいの」


「お前ならなれるさ」


とお父さまも微笑ましそうに応える。


でも、私には分かる。きっとすぐに忘れるだろう幼い子供の夢、くらいに二人が思っていることを。


三歳児の野望舐めんな、と思ったけど、言葉には出さなかった。


いずれお金を貯めて本当に冒険の旅に出てやる。


私の話が終わると、お父さまとお母さまは難しい仕事の話を始めた。


いつものように私は暖炉の前に陣取って本を読み始める。


『神龍の探し物』というタイトルの本は私のお気に入りの一冊だ。


主人公は神龍の神子と聖女の二人。その二人が神龍の赤子と一緒に旅をする冒険譚だ。


ある時二人と一匹は精霊の森深くに迷いこむ。そこで捨てられて死にかけている赤ん坊を見つけた。


明らかに精霊族の血を引く赤ん坊の髪の毛は黒く、瞳の色は茶色だった。恐らく人間の血が混じっているのだろう。それに精霊は暗い色を忌む。きっと、この赤ん坊は捨てられたのだ。


赤ん坊は瀕死で、泣くことも出来ない状態だった。


神龍の赤子は神龍を呼び出す。神龍は甘露を赤ん坊に与え、生命を回復させることが出来た。


甘露を与えることで神龍は生命力だけでなく、自らの能力の一部を分け与えることになる。


その後、神子と聖女は赤ん坊を連れて旅を続けるが、赤ん坊は成長するにつれて、神龍から貰った様々な能力を発揮するようになった。


中でも私が死ぬほど羨ましかった能力が動物の言葉が分かるという能力だ。


なんて素晴らしい能力!羨ましすぎる。ジェラシーが止まらない。


くぅう~。楽しそう!


と心の中で盛り上がっていたら、お母さま達の会話がふと耳に入ってきた。


二人だけの時、お父さまは領地経営について、お母さまは宮廷魔術師の仕事についてお互いに相談することが多い。


お互いの仕事に理解があって、相談し合える関係性って素敵だなって思いながら、本のページを捲る。


「・・・それでね。私が宮廷筆頭魔術師のマーリン様を見かけたのは一度きりなの。しかも、もう4年くらい前よ。話をしたこともないの」


「へえ、それはすごいな。他の同僚たちはどうなんだ?」


「ダミアンはいつも仕事で一緒だけど、顔を見たことはないって言ってたわ。同僚の宮廷魔術師に聞いても、見かけたことすらないっていう人がほとんどよ。マーリン様は人間嫌いなんだって」


「顔を見たことある奴はいるのか?」


「それがね・・・私が知る限りは一人もいないの」


「仕事で支障が出たりしないのか?」


「ダミアンによると、いつも顔を黒いマスクで覆っているけど、それで特に問題視されたことはないみたい。仕事上は会わなくても書面のやり取りで済むことが多いし。マーリン様が得意なのはポーションだから、出来上がったものが朝机の上に置いてあったりして・・・」


「ん?・・・ポーションは魔術師の仕事なのか?」


「ポーションについては別に調合師がいるんだけど、マーリン様のポーションはイレギュラーというか魔法を付与したものが多いのよね。特殊なんだって」


「そいつは魔法もすげーんだろ?宮廷筆頭魔術師なんだから」


「うん。それは間違いないみたい。闇以外は全属性みたいだしね」


「俺の奥さんの方がすげーな」


とお父さまが得意げな顔になる。お母さまは顔を赤らめながら


「でもね、マーリン様は動物の言葉が分かるらしいのよ」


と続けた。


「・・・嘘だろ?」


嘘でしょ!?私の耳がぴくぴくと動き、二人の会話に全神経を傾けた。そんな人、現実にいるの?!


でも、お母さまの返事にはそれ以上の有用な情報は含まれていなかった。残念!


「私も実際に確かめたわけじゃないけど・・・。そういう噂よ」


「幾つくらいなんだ?結婚してんのか?」


「全然知らないわ。宮廷魔術師として働き始めたのが30年近く前らしいから多分50歳近いなのかな・・・?最初の頃から顔を隠していたらしいわよ」


「・・・筋金入りだな」


「そうね」


「サットン先生が王宮にいた頃も筆頭魔術師だったんだろ?サットン先生は何か言ってなかったのか?」


「サットン先生は何も言ってなかったわ。ダミアンの話だと、マーリン様は人間と仕事が嫌いで全部サットン先生に任せて宮廷に来ない時期があったんだって。筆頭魔術師は姿を見せないし、サットン先生がすごすぎて宮廷魔術師の存在意義が無かったって同僚が言ってた。だから、新国王になって宮廷魔術師にテコ入れしてくれて助かったって」


お母さまの話には『サットン先生』がしょっちゅう登場する。私がスズと呼ばれているのもその先生にちなんでのことらしい。


すごい人だったのは話の端々から伝わって来る。


「そういえば、あの森は魔王が封じられているからって王国の警戒地域になったじゃない?それなのに昨日不審者が侵入したんですって?」


「ああ、お前が森に強い結界を張ってくれたし、王宮からも伯爵家からも優秀な騎士が派遣されて、常に森を見回るようにしている。警備は万全だったはずなんだが・・・」


「私の担当にはあの森が含まれているから、王宮で大変だったの。ダミアンと一緒に結界を張りなおして、魔王の結界に緩みがないことを確認したわ。異常はなかったけど、警護を強化するようにアランに奏上したわ」


「ああ、その連絡は受けて、もう対応しているから大丈夫だと思うんだが・・・」


私はお父さまとお母さまの会話を聞いているのが好きだ。


お母さまは王宮魔術師で、お父さまは伯爵で、違う立場だけど協力しあっているのが分かる。対等なパートナーっていいな。


暖炉の火は暖かくて薪がパチパチ言う音が心地よく耳をくすぐる。二人の声を聞きながら私は眠ってしまったらしい。


翌朝目が覚めたら自分の部屋のベッドの中だった。


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