魔法属性テスト
その日は魔法の属性テストが行われた。
フランソワが講堂に集まった生徒たちの前で面倒くさそうに手順を説明する。
女生徒たちの熱い視線がフランソワに向けられるのを感じると、またむしゃくしゃした気持ちになった。
フランソワは特に私達を特別扱いすることもなく、淡々と教師としての仕事をこなしている。
女生徒たちに言い寄られても冷たくあしらうので、ついたあだ名が「氷の貴公子」。どっかで聞いたような名前だな!
フランソワの人気のせいで、ポーション選択を希望する生徒が急増し、ポーションを選択できるかどうかはくじ引きになった。
私達五人は幸い全員くじ引きで当たり、ポーションを選択できるようになった。
ジゼルはくじに外れ、号泣しながら学院長にまで訴えたが、ルールはルールだと却下されたらしい。
魔法の属性テストに話を戻す。
魔法属性には、土・水・風・火の四大属性の他に希少属性として光と闇がある。
うちのお母さまは全ての魔法を使うことが出来る全属性で、彼女の家庭教師だったサットン先生も全属性だったらしい。さすが神龍の神子と聖女!
私は自分で土だと分かっているので、比較的落ち着いて待っていた。
クラリスは緊張しているようだ。
そっと彼女の手を握ると私の顔を見て「ありがとう」と口パクで伝えてくれる。
ああ・・可愛いなぁ。クラリス、大好き。
教壇の上に大きな黒曜石の石板が置いてある。特殊な魔法がかけられた石板だ。
石板には二つの手形の窪みがあるので、そこに両手を置くだけで自分の属性が何か分かる。
名前を呼ばれて、石板に手を置くとそれぞれの属性に応じた光が発生するので、その光の色で属性を判断するのだ。
土は緑、水は青、風は黄、火は赤、光は金、闇は黒となる。
次々に名前が呼ばれる。
まずジェレミーが呼ばれて、石板に手を置くと緑色の光が輝いた。
ジェレミーは土か。私と同じだな。うんうん。畑仕事に向いている良い属性だ。
次にジゼルが呼ばれた。彼女は赤い光で火の属性だと分かる。
パトリックは青い光。水だ。
クラリスは黄色で風だ。
次に私が呼ばれると周囲の生徒たちがざわついた。
「・・・母親が全属性の・・・試験でもトップで・・・」
「父親も伝説の・・・万能で・・」
ああ、お父さまとお母さまはどちらもこの学院で伝説に残る成果を残したのよね。
私はそこまで頭も良くないし、魔力があるとも思えない。
まぁ、でも仕方がない。トンビが鷹を産む、の逆のことわざってあったっけ?
私は私だ!誰に何を言われても気にしない・・・ように努力しよう。
と石板に手を置くと、予想通り緑色の光が講堂を包んだ。
結構強い光じゃなかった?!と自分では満足していたんだけど、
「・・・やだ・・平凡・・・」
「しょぼいなぁ」
「え・・・土だけ?才能は受け継がなかったのか・・・」
「残念・・・」
などという言葉が聞こえてきて、気にしないと自分に言い聞かせても、正直ちょっと傷つく。
親が偉大すぎると子供は辛いわね。
でも、席に戻った時にセルジュに「良くやったよ、スズ」と笑顔で褒められて嬉しくなる。長い前髪の隙間から彼の優しい瞳が覗く。
セルジュは顔を見せると色々面倒くさいと言って、前髪を思いっ切り長く伸ばしている。
牧場での作業中はずっと頭のてっぺんで結んでいて、とても可愛かった。
学校にはずっと前髪を下ろしているので、セルジュの人間離れした美貌は今のところバレていない。
続いて、セルジュの名前が呼ばれたので、彼が席から立ち上がった。
「何あの子?子供?」
「・・・ちっちゃ。私の半分くらいしかないわ」
「暗いし・・・背も低いし・・・本当に貴族か?なんでこの学院にいるんだ?」
というヒソヒソ声が聞こえる。
そう。実はセルジュは10歳で公爵邸に来て以来、ほとんど身長が伸びていない。でも、体力はあるし、鍛えているので力も強い。
みんな、陰口ばかりで性格悪いな・・・と憂鬱な気持ちになる。
セルジュは意地悪なヒソヒソ話を気に留めることなく、落ち着いた様子で壇上に向かって歩いていく。
フランソワと目を合わせて頷きながら石板の前に立った。
フランソワとセルジュは何だかんだと馬が合う。ポーション好きだし、動物好きだし、人間嫌いだし。共通点が多いのよね。
セルジュが石板に手を置いた瞬間、緑、青、黄、赤、金の光の筋が立ち上った。
しかも、講堂全体が強い光に包まれて眩しくて目を開けていられないほどだった。
周囲が大きく騒めいた。
「・・・何あの子?!・・・あんなに目立たない子が」
「子供みたいな・・・こんなに才能があったなんて・・」
「唾つけとけば・・・でも、小さくて・・顔も隠してるし・・・ブサイクだから・・・?」
「クラスでも地味な・・・」
とみんなの言いたい放題に、私の腹も煮えた。
でも、怒りを抑えてセルジュを見つめる。
先生方が集まって来て、口々にセルジュに向かって何か言っている。
明らかにセルジュは混乱していた。私は我慢できなくなって、立ち上がるとセルジュに向かって駆け出した。
私が近づいて「セルジュ!」と声を掛けるとセルジュはホッとした顔で「スズ!」と声を出した。
教師が物問たげに私達を見るので「私達はいとこです!」と主張する。
「彼が不安そうなので・・・」
と私が言いかけるとフランソワも
「彼女を付き添いにお願いします」
と口添えしてくれる。
教師はセルジュと私を連れて別室に移動する。
別室には学院長が待っていた。
学院長は初老と言ってもいい年齢だったが、今でもダンディで渋い魅力を発している。
学院長は私の顔をみてニッコリすると
「お母さまそっくりですね。瞳の色はお父さま似ですが」
と言われる。
そうか、当然学院長は両親とも知っているもんね。
「さすがオデット様の娘さんですね。全属性まではいかないまでも五属性とは」
と言うのを聞いて、慌てて彼の勘違いを訂正する。
「あの!すみません。それは私ではないんです。私は土属性だけなので!」
学院長は戸惑っていたが一緒に付いてきた教師が耳打ちをすると、気まずそうに私に向き直って
「失礼しました。いとこのセルジュ君の方でしたか」
と微笑んだ。
うぅ、地味に傷つくな・・・。
セルジュは不安そうに私の隣に座っているので、そっと彼の手を握るとちょっとだけ彼の口角が上がったのが見えた。
学院長の説明によると、普通の属性は学院で他の生徒たちと一緒に授業を受けられるが、光属性だけは教えられる教師が居ないのだと言う。
だから、何度か特別授業として宮廷魔術師から個人指導を受けられるように王宮に依頼するつもりだと説明した。
「勿論、オデット様の親戚ですから、直接指導を受ける機会もあるでしょうが、学院としても才能のある生徒には支援を惜しまないつもりです!」
と学院長が力強く話を締めくくると、セルジュがぼそぼそと
「・・・はい。お話は分かりました。ありがとうございます」
と伝えた。
熱量の差がすごい・・・(汗)。




