クリスマス・イヴ
セドパパにこってり絞られた私達は夜遅くに自分の船室に戻って行った。
気が付いたら、日付はもう12月24日になっていた。
「あれ?もう明日はクリスマスなんだね」
と驚くとセドリックに
「何言ってんだ?今更?」
呆れられた。
去年まではクリスマスはずっと家族で過ごしていて、その家族の中には必ずフランソワがいた。
今年は違うんだな・・・。何だか不思議な気持ちになる。
どことなくしんみりしつつ「おやすみ」とお互いに言い合って、それぞれの船室に戻った。
翌朝。習慣というのは恐ろしい。いつも通りの時間に目が醒めたので、着替えて甲板に出るとちょうど日の出が昇る頃だった。
眩しい太陽の光が水平線の方角から船の甲板を照らす。
水面が赤とオレンジに輝く様子があまりに美しくて、ただ見惚れるしか出来なかった。
離れた海面に小さな水しぶきが飛んでいるなと見ていたら、イルカがジャンプして遊んでいた。
ああ、もう感動しかない。こんな光景が見られただけでも来た甲斐があった。
こんな素晴らしい体験をさせてくれるセドリック達に心から感謝の念が湧く。
シモン家の皆さん、船長さん、船員の皆さん、ありがとう!と叫びたくなった。
・・・勿論、叫ばなかったよ。まだ寝てる人もいるからね。
その日はリズボアという港町に寄港することになった。
大きなマーケットが立つらしい。
私とセドリックとジルベールの三人で港に降り立つ。活気のある大きな港湾都市に圧倒された。
マーケットも私達が出店したマーケットの五倍の規模はある。すごいな!ワクワクする。
酪農市や農業市の側面もあるようで、生きている豚とか牛なんかも売られている。
食べ物だけでなく、花とか植木とか手作りの洋服とかアクセサリーも売っていて、しかも種類も豊富だ。
私はお世話になっているセドママ達にもクリスマスプレゼントを探そうと思った。
そんなに高いものは買えないけど、チリビーンズで稼いだお金は持ってきたから、みんなの喜ぶプレゼントを選べたらいいな。
目的が出来ると買い物も俄然気合が入る。あーでもないこーでもないとセドリックやジルベールにも相談して、みんなへのクリスマスプレゼントを購入した。
ジルベールは去年手編みのセーターをプレゼントした時に、これは一生分のクリスマスプレゼントの価値があるものだから、決してこれ以上プレゼントを与えないで下さいと厳命されている。
本当は何かプレゼントしたいんだけど、ジルベールは受け取ってくれないだろう。
マーケットでジルベールが気に入りそうなものを手に取る度に、彼は厳しい顔つきで首を横に振る。仕方ない・・・。
それでも、三人で丸一日クタクタになるまで遊び回った。
珍しい食べ物も沢山あった。チリビーンズをトルティーヤで巻いて耐熱皿に敷き詰めた後、唐辛子のソースとチーズをかけて、オーブンで焼く料理もあった。
エンチラーダというらしいが、これもマーケットで売れるかもしれない。勉強になるわ。
もっと遠い異国から伝わったらしいムタバクという料理も美味しかった。薄い皮で香辛料を効かせた野菜や肉の具を巻いて揚げ焼きにするもので、表面はサクサクで中身はジューシー。いくらでも食べられる味だった。
胃袋が三つくらい欲しかったと思う一日だったなぁ。
船に戻った後は家族みんなでクリスマスディナーを楽しんだ。
夕食の後にみんなにプレゼントを渡す。
セドママにはアロエの果肉をたっぷり配合した保湿クリームを買った。お母さまが似たようなものを愛用していたな、と思ったんだ。
ポールには瞳の色に合わせた緑色のクラバットを、メラニーには小さなネックレスを、ダニエルにはコンパスをそれぞれクリスマスプレゼントとして渡すと、みんなとても喜んでくれた。
セドパパは私が選んだ靴下を抱きしめて、一生履かないで取っておくという(苦笑)。
船長とミレーユにもプレゼントを渡した。
船長は嬉しそうに受け取ってくれたが、ミレーユは私が選んだ髪飾りを
「こんなつまらないもの!」
と床に投げつけたので、船長が慌てて拾い上げて彼女を叱りつけた。
私は辛くなって
「船長、大丈夫です。気にしないで下さい」
と言ったのだが、結局船長はミレーユを連れて部屋から出て行ってしまった。
セドママは
「どうか気にしないで。大丈夫だから。ありがとうね」
と私を抱きしめてくれた。
夕食の後、私はセドリックを甲板に呼び出した。
皆の前では照れくさくてとても渡せなかった手編みのセーターをプレゼントするためだ。
私が暗くなっていく海を眺めながら待っていると、セドリックは嬉しそうに駆け寄ってきた。
とても照れくさくてセドリックの顔を見られそうにない。
私は黙って丁寧に包装したセーターの包みをセドリックに押し付けた。
セドリックは顔を紅潮させて包みを受け取ると
「開けてもいい?」
と耳元で囁く。
私がコクリと頷くと丁寧に包装を解いていく。
中から落ち着いた赤い色のセーターが現れると、セドリックが溜息をついた。
今回は複数の紋様を組み合わせて編み込んでみたんだ。
時間と手間がかかったけど、その甲斐があったくらい今回の出来は良いと思う。
・・・でも、セドリックは気に入ってくれるかな?とそっと横顔を盗み見る。
セドリックは優しくセーターを撫でていたが、
「・・・すごい。綺麗だ。こんな綺麗なセーター見たことない」
と私の手を握り締めた。
「着てみていい?」と聞かれて「もちろん!」と言うと嬉しそうに上着を脱いで、シャツの上からセーターを着る。
髪の色と良く似合っている。
「素敵!良く似合うよ!」
というとセドリックが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう!一生大事にするから」
そして、ポケットから小さな箱を取り出した。
「あの・・・これ、気に入るか分からないけど」
と渡された箱を開けると香水の小瓶が入っていた。
「これは・・・?」
「クリスマスプレゼントなんだけど、この香りが好きだって前にマーケットで言ってたから・・・」
小瓶の蓋を開けて香りを嗅ぐと、爽やかな花のような香りがする。
確かに以前一緒にマーケットに行った時にこの香りが好きって言った気がするな。
嬉しくて「ありがとう!」とセドリックの手を握り返す。
「嬉しい。この香り、大好きよ」
というとセドリックは安心したようにほっと息を吐いた。
セドリックは真っ直ぐ私の瞳を見て
「スズ。俺はスズに言いたいことがあるんだ」
と言う。
「なに?」
大きな深呼吸を一回するとセドリックは
「俺はお前が好きだ。大人になったら俺と結婚して欲しい」
と一気に言った。
私はびっくりして言葉が出て来ない。
「・・・えと・・あの・・・」
と口籠ると
「返事は今じゃなくていい。俺に10年くれないか?絶対にお前に相応しいイイ男になるから」
と微笑む。
「・・・あの・・・ご、ごめ」
「俺はお前の気持ちを知ってる。だけど、10年後の俺にチャンスをくれないか?今は無理でも10年後お互いにどうなっているか分からないだろう?今じゃなくて10年後の俺を見た後に返事をして欲しい」
と言われて、私は何も言えなくなってしまった。
そして、思う。私は同じことをフランソワに言いたかった。
それを言うことも許してくれなかったフランソワのことを想うと胸が切ない。
私はセドリックの気持ちが痛いほど分かるから、コクリと頷いて
「分かった。私もセドリックをがっかりさせないように努力するから」
と返事をした。
セドリックは満面の笑みを浮かべて
「やった!ありがとう。まず第一関門通過だ!」
とガッツポーズを取った。
「実はさ。俺、シモン商会の仕事を本格的に学ぶように両親から言われているんだ。だから来月には公爵邸を辞める。その前にスズに告白したかった。俺一生懸命修行して、スズに相応しい男になるよう頑張るよ。船長になるのが俺の夢だからさ。自分で船を買って船長になれるくらいまで努力するよ。そしたら、一緒に冒険の旅に出よう!」
と言われて嬉しくない訳ない。
でも・・・っていうことはもう公爵邸では会えないんだな、と思ったら寂しくなった。
「俺も寂しいけど、立派な商人になるためには仕方ないから・・・。良かったら来年のクリスマス休暇も一緒に過ごそうよ」
と言ってくれた。
「セドリックはきっと国一番、いや大陸一の商人になると思うよ。応援してるから。手紙も書くね」
「俺も」
と言うとセドリックは私の額にそっと口付けをした。




