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四すくみ+悪役令嬢


週末のマーケットで私とセドリックは再び屋台を設置する作業をしていた。


前回と違うのは何故かフランソワも一緒になって屋台を設置していることだ。


「マーケットで柄の悪い連中に絡まれたって聞いて、やはり大人が居た方がいいと思ったんだ。・・・それに堂々と交際宣言するなんて最近のガキはませてるな。大事な姪を預けられる男かどうか俺が見極めてやる」


というフランソワの言葉に私はこっそりと溜息をついた。


セドリックが厨房で交際宣言したという噂は疾風のように公爵邸を駆け回り、ついでにマルタン伯爵邸まで届いた。


お母さまにはニコニコと、お父さまには憮然と迎えられて、私は何とも言えない気持ちだった。


セドリックは後で私に謝った。


「ごめん・・・あの時は何とかこの場を収めないと、と必死で・・・。こんな大騒ぎになるなんて思わなかったんだ」


「いいの。結果的にセドリックのおかげで収まったし・・・。それにフランソワに避けられないためにも、誰か好きな人がいると思って貰った方がいいから。私にも都合がいいかも」


ということで、何となく交際宣言を否定できないままでいる。


フランソワはセドリックを気に入っていたはずなのに、今日はやけに彼に厳しい。


セドリックは委縮しているみたいで可哀想だ。


一言いってやろうと思っていたところで、


「おはよう!」


という爽やかな声が聞こえた。


見るとパトリック、ジェレミー、騎士ズが笑顔で手を振っている。


私はまたクラリスがいるのではと恐怖で周囲をキョロキョロと見回した。


「昨日はクラリスが迷惑を掛けてすまなかった!本当に申し訳ない!」


とパトリックが頭を下げる。ジェレミーと騎士ズも一緒に頭を下げた。


「クラリスには良く言って聞かせたから大丈夫だ。もう迷惑は掛けない・・・と思う」


私は曖昧に頷いて


「うん・・・分かったよ。それで今日は何の用?」


と尋ねた。


「俺達にも屋台を手伝わせてくれ」


というパトリックの言葉に


「人手は足りてるんだ。かえって邪魔になる」


とフランソワが冷たく答えると、


「子供二人くらい入れるだろう」


と不敵な笑顔で返すパトリック。


二人はしばらく睨み合っていたが、フランソワが先に白旗をあげた。


「仕方ない。邪魔するなよ」


と言って、狭いスペースに私、セドリック、パトリック、ジェレミー、フランソワがひしめき合うことになった。


騎士ズはちょっと離れたところで護衛してくれるらしい。ジルベールもどこかにいるはずなんだけどね・・・。


私は一挙一動を全員に注視されているような気がして居心地が悪い。


私が物を落とすと全員で一斉に拾おうとしたり、不穏な空気が漂う。


でも、みんなでやると屋台の設置も早い。


全て準備できるとすぐにお客さんが集まり出した。


先週末と違い、今日は既に口コミで評判が広まっていたようで、あっという間に長蛇の列が出来る。


これは販売員の数が多くて良かったかも。


意外なことにパトリックもジェレミーも器用にトルティーヤでチリビーンズを包んでテキパキと動いている。


合間にお客さんとの会話も楽しんでいて、顧客満足度も完璧だ!


フランソワは手早く包むのは上手いがお客さんとの会話が苦手だ。その部分をセドリックが補って二人で良いチームワークを見せている。


私も頑張ろうと、笑顔で接客をしていると、若い男性客の中には顔を赤くして「名前は何ていうの?」と訊く人もいる。


「申し訳ありません。個人情報はお伝え出来ないんです」


とセドリックがすかさず間に入りすまなそうに謝ると、男性客は大人しく離れていった。


「なるほど。如才なさと人当たりの良さは商売人の強みとして評価に値する・・・」


とジェレミーが呟き


パトリックは「お前は客のあしらいが上手いな!」とセドリックの背中を叩いた。


フランソワはそれを面白くなさそうに眺めている。


なんだ?このカオス!?


まあ、いいや。お客さんに集中しよう。


すると


「あたし、先週も食べたんだけど、もっと辛いのはないの?美味しいんだけど、私はもっと辛いのが好きなのよね」


というお客さんに当たった。


辛さは一種類しかないと謝ろうとしたら、パトリックが小声で


「辛さは客が自由に選べるようにしたらどうだ?後からチリパウダーを足せばいいんだろう?辛い方が好きな客が好きにチリパウダーを足せるようにしたらどうだ?」


と囁いた。


それはいい考えだ!


私は慌ててチリパウダーの瓶をお客さんに差し出して、


「これを振りかけるとより辛さが増します。お好みでかけて下さい」


と言うと、彼女は嬉しそうにパッパッと自分が買ったチリビーンスにチリパウダーを振りかけた。


「パトリック、冴えてるね!」と褒めると、顔を赤らめて


「・・・いや、そんな、これくらい」


と照れた。


何となく他の男どもがジト―っとパトリックを睨んでいる気がする。


なんだろう、この包囲網的な感じは?冷や汗がたらーっと垂れる。


まあしかし。販売員の数が多かったおかげで多くの客を捌くことが出来、昼過ぎには私達の屋台は完全に売り切れた。


売り上げも先週より多い!やった!


・・・山分けする人が多くなるから、取り分は減るけども・・・。


でも、フランソワには


「俺がそんな金を受け取ると思うか?」


と鼻で笑われ、


パトリック達には


「牧場でお世話になっている御礼とクラリスが迷惑を掛けたお詫びだから」


と完全拒否されてしまった。


仕方ない。後でまた話し合おうとお金をしまって、屋台の片づけに専念する。


その時、最初にチリビーンズを宣伝してくれたごついベジタリアンのお客さんが現れて


「お嬢ちゃん、悪いがベジタリアン用の料理でアドバイスが欲しいって他の屋台の店主が言っているんだ。一緒に来てもらえるかい?」


と頼まれた。


「私で役に立つなら・・・」


と行こうとすると、大きなテントを畳んでいる最中だったフランソワが


「俺も行くからちょっと待ってろ」


と言う。


「大丈夫だよ。すぐ戻るから」


と言って、私はごついおじさんの後についていった。


「ちょっと離れたところにある屋台でさ」


ごついおじさんは奥まったどんどん人気のない場所に歩いていく。


あれ・・・?変だな・・と思っていたら、前の週に絡んできた柄の悪い連中が待ち構えていた。


「・・・へえ、よく連れて来れたな」


という輩の言葉に、あ、なんか罠だったのかな、と自覚した。


ごついおじさんを信用していたのにな・・・と悲しくなる。


でも、ごついおじさんは無表情で私達を見ているだけだ。


「こいつは高く売れそうだな!」


と言いながら輩たちが襲い掛かってきたが、私だって伊達に鍛えていない。


隠し持ったナイフと鋭い蹴りで応戦する。男の弱点を攻めろとお母さまから教わっている。


あっという間に三人の男が地面に突っ伏した。


「・・・な、なんだ・・・こいつ・・・」


男達の目に恐怖が浮かぶ。


すると背後から聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。


「あなた達!小さな女の子一人を相手に大人数なんて卑怯よ!」


・・・ああ、クラリスだ・・・。


私は絶望的な気持ちになった。私一人なら難なく切り抜けられるのに・・・。


案の定クラリスは簡単に敵の手に捕まった。


「おい、こいつに怪我をさせたくなかったら、武器を捨てろ!」


と言われて、仕方なくナイフを捨てる・・・振りをしてナイフをその男の腿に向かって投げつけた。


狙い違わずグサッと腿にナイフがめり込む。


悲鳴を上げながら男は地面をのたうちまわった。


「早く逃げて!」


と足が竦んでしまったらしいクラリスに叫ぶ。


クラリスは慌てて走り出そうとするが足がもつれたのだろう、派手に地面に転んでしまった。


・・・鈍くさい。


と思った瞬間、ごついおじさんに後ろから羽交い絞めにされて口を塞がれた。ツーンと鋭い刺激臭がして気が遠くなる・・・しまった・・・と思った時には意識を手放していた。


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