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セドリックの事情


セドリック達が帰った後、私はお母さまと二人でお茶を飲んでいた。


「お母さまがあんな風にニヤニヤするから」


と文句を言うと


「あら、ごめんなさい。二人があまりに可愛くて・・・。セドリックはいい子ね。・・・そういえば、シモン商会からお土産として山ほどチリパウダーという香辛料を頂いたわ。あなた達マーケットでチリビーンズを作って売りたいんですって?」


「そうなの!この国に今まで無かった味でしょ?それにトルティーヤに包んで売れば歩きながら食べやすいし、売れるんじゃないかと思うの」


お母さまは愛おしそうに私を見て


「分かったわ。マーケットで販売する許可証や衛生面での審査は私が手配するから心配しないで。公爵邸やうちの厨房は基準を十分に満たしているから問題ないと思うし、プロの料理人が監督していれば許可は取れるはずだから」


と応援してくれる。


やっぱり、お母さま大好き!


そう言うとお母さまは嬉しそうに微笑んだ。


「シモン商会は信頼できる商会だから材料を購入するのもシモン商会にお願いしたらいいわ」


「お母さまはどうしてシモン商会のことに詳しいの?セドリックのご両親のことも知っていたよね?」


「・・・ああ、それは長い話になるんだけど・・・」


「聞きたい!」


と言うと、お母さまは微笑んだ。


「シモン商会はそもそも前ルソー公爵の庇護の元で頭角を現したのよ。今のルソー公爵と違って前公爵は倫理感の高いしっかりとした方だったわ。シモン商会は一般庶民にも手が届くような価格で良質な品を提供していたの。経営陣も皆働き者で不正なんて起こりっこない清廉な経営だったわ」


「・・・過去形なの?」


「幸い今は元に戻ったけどね。一時期、大変だったのよ。前ルソー公爵が急死して、現ルソー公爵になってからね・・・。現ルソー公爵っていうのはバチストっていうろくでもない輩でね」


「聞いたことある」


「あなたはこっそりと私とリュカの会話を聞いているものね」


とお母さまが苦笑した。てへっ。


「バチストはシモン商会に非合法なビジネスを行うように命じたわ。人身売買とか違法薬物の取引とか。勿論、そんな仕事を受けるシモン商会ではないから、のらりくらりと躱していたんだけどね。ついに言うことを聞かないとシモン商会を潰すと脅されたの。でも、エミール、セドリックのお父さまはそんな脅しに屈する人じゃなかった。だったら、シモン商会を解散して一から別な場所でやり直すと言ってね」


さすがセドパパ!カッコいい!


「でもね・・・」


とお母さまの顔が曇る。


「バチストは次にエミールの家族を人質にしたの。子供達を誘拐・監禁して脅したのよ。しかも、公爵家の権威を恐れて、誰も助けてくれない状況だった」


・・・なんて酷い。


「一方で、子供達には両親とシモン商会を潰されたくなかったら、言うことを聞けと脅してね。セドリックにマルタン伯爵家に使用人として入りこんで伯爵家の弱点を探って来いと命じたの。妹と弟も人質だしセドリックは辛かったと思う。バチストは私達に恨みがあってしつこいのよねぇ・・・」


「セドリックは当時9歳とか10歳だった。もっともらしい紹介状を持って屋敷に来たんだけど、リュカがすぐに何か裏があると見破ってね。セドリックを問い詰めたけど、彼は家族が危険に晒されるんじゃないかって最初は黙っていたの。最終的に私達は敵じゃないって分かってもらえて、事情が分かったのよ」


そんなことがあったなんて。それにしてもバチスト。頭悪すぎない?子供一人送り込んだだけでスパイになるとか・・・。短絡的過ぎて・・・。


「そうなの。残念なことにバチストはとても頭が悪いのよ」


お母さまが腕を組みながらしんみりと言う。


「でもね。公爵としての権力はあるの。自分が賢いと思っている愚か者に力がある場合、とんでもない被害が広がる可能性があるのよ・・・。狡猾な者に簡単に利用されそうだしね。アンジェリックがタム皇国に嫁いでいるし、不安は尽きないわ。アランとお父さまが上手く抑えてくれるといいんだけど」


とお母さまは嘆息した。


「それで?セドリックやシモン商会はどうなったの?」


「お父さまとリュカが手を打ってね。家族も商会も無事に助けたわ。今ではシモン商会はモロー公爵家とマルタン伯爵家の庇護の下で公正なビジネスを行っている。バチストは怒り狂ったみたいだけど。セドリックは辛いこともあったでしょうに、泣き言一つ言わずに家族のために頑張ってくれたわ。それ以来、私達もシモン商会を頼りにしているし、シモン商会も私達に恩義を感じてくれているみたい」


「・・・そうだったんだ。全然知らなかった。どうして裕福な商家の息子が厩番をしてるんだろうって思ってたんだ」


「最初はね。セドリックは恩返ししたいからマルタン伯爵家で働きたいって言ってたんだけど、ほら、セドリックの名前はゲームの攻略対象に入っていたでしょ?リュカがあなたの傍に置きたくないって言ってね。今日もあなたをセドリックに取られるんじゃないかって必死になって牽制していたじゃない?」


「牽制・・・?それでお祖父さまの屋敷の厩番になったの?」


「うん。それは私が推薦したの。実はね。私はセドリックに何度も会ううちに、この子はとても誠実で家族を大切にしてるから、攻略対象だったら彼が推しかなって思っちゃったのよ。だから、あなたと接点があってもいいかなって」


お母さまがペロッと舌を出す。可愛すぎて三人の子持ちとはとても思えない。


「推し?」


「お気に入りってこと。でも、私が一人で先走っちゃって、スズを傷つけるようなことを言っちゃってごめんね。本当に悪かったと思ってるわ」


お母さまは心から反省しているようだ。


「私も意固地になっちゃって、ちゃんと話を聞かないでごめんね。お母さま達が私のことを心配してくれるのは分かってるから・・・」


と言うとお母さまは感極まったように私を抱きしめた。


「素敵なクリスマス休暇を過ごしてね。初めての外国旅行に、初めての船旅でしょ?羨ましいわ。私だって行ったことないのに」


と言われて、私もはっと気が付いた。そうだ。初めての外国!初めての船旅!


興奮して顔が紅潮した。


「うん!ありがとう!楽しんでくるね!」


と言うとお母さまが愛おしそうに私の頬に手を当てた。


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