表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/98

告白


ミシェルについては、王宮で大きな騒動になったそうだ。


大人たちはみんな忙しそうに動き回っていたけど、私は詳しい話を聞かせてもらえない。


フランソワは事情が判明したら、絶対に教えると約束してくれたので、私は辛抱強く待つことにした。


そして、セルジュが公爵邸に来てから数週間後、ようやく私は詳細を教えて貰えることになった。


フランソワが憂鬱そうな面持ちで説明してくれる。


ミシェルが公式上処刑されてから、既に10年以上経過していて、何が起こったのかを調べるのは難航したらしい。


記録ではミシェルの処刑は確かに執行されている。


ミシェルは絞首刑か毒杯を仰ぐかの選択が出来た。


彼女は毒杯の刑を選び、毒の入った杯を飲み干した。


そこには当時王太子であった現国王陛下も立ち会ったという。


毒杯を仰いだ後、王宮医師がミシェルの呼吸が止まったことを確認し、死を宣告した。


その後、ルロワ子爵が遺体の引き取りを希望し、それは叶えられた。


今回ミシェルが生きているかもしれないと知り、アラン国王は激怒したという。


ルロワ子爵を王宮に呼び出し厳しく取り調べた結果、彼はミシェルが実は生きていたことを認めた。


ミシェルの処刑が確定した後、嘆き悲しむ子爵夫妻の前に見知らぬ男が現れたという。


男は名前も名乗らず、常にフードを深く被って顔を見られたくないようだった。


その男は王宮に伝手があり、ミシェルが飲むはずの毒を一時的に仮死状態になる薬に入れ替えることが出来ると言った。


だから処刑後すぐにミシェルの遺体を引き取るように、と指示を出した。


娘可愛さにルロワ子爵夫妻は怪しげな男の言う通りにしたのだ。


王宮から遺体を引き取った翌日に、ミシェルは目を覚ました。


子爵夫妻は泣いて喜んだが、ミシェルはオデット(お母さま)とアラン(国王)への復讐のことしか口にしなかったそうだ。


子爵夫妻は復讐などという愚かな行為は止めるよう諫めたらしいがミシェルは言うことを聞かず、行先も言わずに見知らぬ男と一緒に去ったという。


その後一度も連絡がないと泣きながら詫びるルロワ子爵夫妻は廃爵という後味の悪い結末になった。


ミシェルと謎の男のその後の足取りは全く掴めていない。


王宮ではルロワ夫妻から情報を得て、ミシェルや男の風体を絵に描き、お尋ね者として手配する予定だという。


説明を終えた後、フランソワはふぅ――っと長い溜息をついた。


そのまま遠くを見て何かを考えている。


「・・・何を考えているの?」


と私が訊ねると、彼はきまり悪そうに


「いや、オデットの気持ちが分かったなと思って」


と頭を掻いた。


「なんのこと?」


「敵の気持ちになって考えると、復讐のためにはそいつの一番大切で弱い部分を突くだろう」


「うん?」


「ミシェルの復讐の矛先はオデットで間違いない。そしてオデットにとって一番大切で弱い部分は家族だろうな。特に子供達だ。」


「私もジェラールもウィリアムも鍛えてるよ」


「それは分かっている。でも、やっぱり子供は狙いやすいんだ」


言っていることは分かるけど、面白くない。


「おい、そんな顔するな」


と私の膨れたほっぺたを苦笑いのフランソワがつつく。つついた後、フランソワは優しく私の頬を撫でた。


こんなことで機嫌が直ってしまう自分が情けない。


「・・・お前が狙われる可能性もある。もしかしたらそれがゲームの呪いである可能性もあるだろう」


「呪いの?」


「ああ、ミシェルは調合した媚薬を更に強力にするために自分の魅了チャームの魔法を掛けた。薬に魔法を掛け合わせるのは簡単そうに聞こえるが、誰にでも出来るものではない。俺はあいつが作った薬の解毒剤を作るのにエライ苦労したんだ。あの頃の俺は既にポーションの技術で師匠を超えてると、師匠自身から言われてたんだぞ」


「そうなの?じゃあミシェルは調合も魔法もすごいの?」


「・・・ああ。特化した分野だけだけどな。媚薬、毒薬・・・恐らく呪いの薬も得意分野だと思う。お前が狙われるかもしれない・・・。ゲームの強制力とやらが敵の助けになる可能性もある。そう考えるとオデットがお前と攻略対象が恋に落ちてくれたら安心だ、と思った気持ちが少し分かる」


それを聞いた途端、私の胸にド――――ンと100万トン級の石が落ちてきたように感じた。


あまりのショックで言葉が出て来ない。


・・・私が他の人と恋に落ちてもいいんだ。


ずっと分かっていたことだけど、改めてフランソワは私に関心がないんだと思い知らされる。


あ・・・ダメだ。どう我慢しても眼の表面に涙の膜が出来るのを止められない。


フランソワは私を見てぎょっとした。


「ど、どうした?!俺が何かしたか?」


私はただ首を振ってその場から逃げようとしたが、フランソワが咄嗟に私の手首を掴んで放してくれない。


「おい。泣き逃げは狡いぞ。ちゃんと説明しろ」


言葉は出て来ないのにポロポロと涙だけは溢れて来る。


フランソワがハンカチを渡してくれて、私はひたすら涙を拭っていた。


「・・・その・・・悪かった。オデットの気持ちが分かると言ったのは、お前が大切過ぎて悪いことが起こって欲しくないってことだ。無理に好きでもない相手を好きになれって言ってる訳じゃなかったんだ」


フランソワが言い訳がましく続ける。


「でも、お前の気持ちを無視した発言だった。悪かった。謝る」


と頭を下げた。


私は謝って欲しいわけじゃない。この気持ちをどう扱えばいいのか分からない。


涙はとめどなく出て来るし、私は首を振るくらいしか出来なかった。


フランソワは弱りはてた様子で私を見る。


「・・・すまない。滅多に泣かないお前に泣かれると俺はどうしていいか分からない。どうやったら泣き止んでくれる?」


珍しくフランソワが本気で困っているようだった。


困り顔のフランソワを見ていたら、もっと困らせてやりたいと思った。


それに胸の中の想いが溢れて、自分でも止められなかった。


「・・・わ、わ、私は・・・ふ、フランソワが好きなの!れ・・恋愛的な意味で!」


と、ひっくひっく嗚咽しながら叫ぶとフランソワがその場で固まった。


驚愕で顔も蒼褪めている。


ああ、分かってたけど・・・。やっぱり、私なんて全然眼中になかったんだな。


益々悲しくなって、再びわぁ―――っと号泣した。


フランソワはどうしていいのか分からないと言った風情で恐る恐る私の背中を撫でる。


「・・・すまない。俺は正直お前をそういう対象として見たことはないし、これからも見られないと思う」


・・・分かったよ。これ以上傷つけないで!と思ったけど、言葉が出て来ない。


「俺にはずっと好きな人がいるんだ。その人以外好きになることはないと思う」


「知ってるよ!お母さまでしょ!」


というとフランソワが真っ赤になる。


くぅぅ。こんな反応も腹が立つ!


「知っていたのか・・・」


とフランソワは溜息をついた。


「・・・だから、余計にお前は無理だ。すまない」


という言葉を聞いた瞬間に私は堪らなくなって逃げ出した。


今度は彼も私を止めようとはしなかった。




その日の夜、フランソワが私の寝室を訪ねて来た。


「・・・すまない。夜、令嬢の寝室に入るなんて非常識だとは分かってるんだが・・・」


私は目をパンパンに腫らした顔で頷いた。


フランソワが思わず


「ひどい顔だな」


と言う。


いつものフランソワに安心してつい笑ってしまった。


「やっと笑った」


とフランソワが安堵したように微笑む。


でも、すぐに表情を真面目なものに変えてフランソワは話し出した。


「・・・お前の気持ちは正直、嬉しいと思った。お前は可愛いし、性格もいい。根性もある。でも、恋愛感情は抱けない。お前は俺にとって大切な存在だ。それはお前がオデットの娘だからじゃない。俺はお前という人間が好きだし、お前の人間性を尊敬している。俺にとって数少ない貴重な友人だと思っている。それじゃダメか?」


フランソワの口調は真摯で、本気でそう思っていることが分かった。


でも、それじゃダメなの。


そう思ったけど、口には出さなかった。


代わりに冗談っぽく


「分かったよ。でも、10年後どうなるか分からないよね?私がすっごい綺麗になって、胸だってボーンと大きくなったら、フランソワだってふらふらっとよろめくかも知れないよね?」


と言う。


フランソワは苦笑した。


「今だってお前はすごく魅力的だよ。本気でお前に惚れてる男がいるのも知ってる。10年の間にお前に年相応のいい恋人が出来ている可能性の方に俺は賭けるけどな。今は憧れと恋を混同しているだけなんだ」


「そうね。超絶イケメンの彼氏が出来て、もうフランソワなんて眼中になくなっているかもね。その時に後悔したって遅いんだから」


「そうだな・・・。そうなったら、きっと後悔するだろうな・・・」


そう独り言ちるフランソワの口調には苦さが混じっているようで少し戸惑う。


「でも、俺にとってお前は可愛い姪っ子で、恋愛の対象じゃないんだ。それに俺はまだ初恋を拗らせてるからな。こんな面倒くさいおじさんより、お前にはずっと相応しい男がいる」


そんなことない!って叫びたかったけど、ぐっと我慢した。


今はきっと何を言っても無駄だと分かってる。


私は無理に笑顔を作った。引きつっているのが自分でも分かる。


「分かった。ちゃんと話してくれてありがとう」


涙が零れそうで慌てて両手の甲で目を擦る。


それを見ていたフランソワが不意に私を強く抱きしめた。


いつも薬草を調合しているからだろう。爽やかなコロンと一緒に薬草の匂いもする。


ああ・・・大好きな匂いだな。逞しい腕に抱き寄せられ、硬い胸に押し付けられる。


この人の腕の中はこんなに心地良い。


「・・・こんな俺を好きになってくれて・・・ありがとう」


私の肩に顔を埋めるようにして囁くと、フランソワはパッと私を離して去って行った。


彼がどんな表情をしていたのかを見ることは出来なかった。



私は翌日伯爵邸に戻るとお祖父さま達に告げた。


一部ネタバレになりますが、フランソワは隠しキャラではありません。


でも、ハッピーエンドはお約束します!


私の悪い癖で前フリが長いです。話が動くのは後半で、前半はスズの生活を軸にしたまったり進行となります。


長い目で読んで頂けたら有難いです<m(__)m>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ