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チリビーンズ


毛糸の準備が出来たので、その日私はセドリックの採寸をしていた。


やっぱり厩舎で力仕事を毎日しているせいか、12歳と言ってもがっしりとした体形のセドリックはほとんど大人とサイズが変わらないくらいだ。


背も高いしね。それに、これからもっと伸びる気がする。


セドリックの凛々しい眉や精悍な横顔を見ていたら、こいつは大人になったら沢山の女の人を泣かせるに違いない、なんて考えていた。


セドリックは


「どうせなら成人用の大き目サイズで作ってよ。そしたら大人になっても着られるし」


と言う。


「でも、今はぶかぶかになっちゃうよ。それに大人になって、それほど育たなかったらどうするの?」


「俺は絶対に大きく成長する自信がある。親父も大柄なんだ」


「・・・了解。じゃあ、最初は袖を折り曲げて着られるくらいにするね。丈も長めにして。でも、セーターは消耗品だから、そんなに長持ちさせる必要ないんだよ?」


と言うとセドリックはやれやれと肩をすくめ


「お前、男にとっては手編みのセーターは浪漫なんだぞ。俺は一生着続けるくらいの心づもりでいるからな」


と言い切る。


・・・おお。そこまで大切にしてくれるんだ。ちょっと感動した。その心意気に私も応えよう!と気合を入れる。


「ところでお前が欲しいものはなんだ?」


とセドリックに聞かれて、私は考えていた答えを伝えた。


「外国に唐辛子っていう辛い植物があるの知ってる?」


「・・・ああ、聞いたことあるよ。香辛料になるんだろう?チリペッパーっていう粉末とか」


さすが商家の息子!知識が広い。


「それ!そのチリペッパーが欲しいの。他にも面白そうな香辛料があったら嬉しい」


「何に使うんだ?」


とセドリックの目が好奇心で輝く。


「私が前にマーケットで料理を売り出したいって言ったの覚えてる?」


「ああ、お前の畑で収穫した野菜を使ってだろう?今何を作ってるんだっけ?大豆とインゲンマメ?」


「それとキドニービーンズもあるよ。マーケットでチリビーンズを作って売ったらいいんじゃないかと思うの」


「チリビーンズ!お前なんでそんな料理知ってるんだ?」


とセドリックは驚いた。ということは、セドリックはチリビーンズを知っているんだね。流石博識だ。


「ジルベールに教えて貰ったの。彼は外国の料理にも詳しいのよ」


異世界の料理も含めてね・・・とほくそ笑む。


以前たまたまお父さまがチリパウダーという香辛料を外国のお土産で頂いたことがあった。


その時、ジルベールから話を聞いて、文献を調べて作ってみたチリビーンズはとても美味しかったんだ。


「それでトルティーヤっていうトウモロコシ粉を使って焼いた薄いパンケーキみたいな生地に包んで食べるから露店でも売り易いわよ。辛い食べ物ってここだと珍しいじゃない?絶対に売れると思うんだけど」


と私が言うとセドリックは考え込んだ。


「それは・・・いい考えだな。俺はチリビーンズを食べたことがある。親父が外国から来た商談相手をもてなすのに用意させたんだ。美味かったよ。ここにはない味だよな。ピリッと香辛料が効いていて」


「・・・ごめん。香辛料はやっぱり高価なの・・よね?難しかったらいいよ。気にしないで」


と言うとセドリックは首を横に振った。


「いやいや、俺は宝石とかアクセサリーとかそういうのを考えてたからさ。それに比べたらすげー安上がり」


「マーケットでの売り上げは山分けでどう?」


「え!?俺にも分け前くれるの?」


「当り前じゃない」


「でも、豆はお前が育てて、料理もお前が作るんだろ?不公平じゃね?」


「香辛料は貴重なのよ。あと、売り子を手伝って貰える?」


「そりゃ、勿論・・・。そしたら、俺がトウモロコシ粉も手配するよ。どれくらい必要かな・・・」


とセドリックは乗り気になってくれたようだ。


豆類は三~四カ月くらいで収穫できるはず。種を撒いたのが一ヶ月前くらいだから、あと二ヶ月くらいか・・・。その前に準備をしないと。もう一度レシピをチェックして、試食会を開いて、材料費を考えて採算が取れる料金設定にしないといけない。メニューは一つか二つって決めてるけど、飲み物も一緒に売った方がいいのかな?


脳みそを忙しく働かせているとセドリックが苦笑しながら


「じゃあ、俺はビジネスパートナーだな。材料は俺の親父の商会で買ってもらえたら割引するよ」


と私に声を掛ける。


「ホント!?嬉しい。料金設定も相談に乗ってくれる?私は商売のこと全然分からないから」


良し!商売のことは商売人に聞け。マーケットでお金を稼いでやる。


「でもさぁ。スズは伯爵令嬢で公爵様の孫、なんだよな?」


「うん」


「お前は既にすげー金持ちじゃん。何でお金を稼ぐ必要あるわけ?」


「家にあるお金は私のお金じゃないから。それに、私はいつか世界中を旅したいの。色んなところに行ってみたい。海が見てみたい。いつか船に乗って旅に出たいんだ。そのためにはやっぱりお金が必要だよね?セドリックは船に乗ったことある?」


セドリックは呆気に取られて私を見ている。口もポカーンと開いている。私、そんなに変なこと言った?


「いや、そりゃ船には乗ったことあるけど・・・あんたはやっぱ変わってんな」


とセドリックは言って


「あ、これ褒め言葉だからな」


と付け加えた。


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