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マーケットでデート?


週末のマーケットは人が多く賑やかだった。


多くの露店や屋台で色々なものを売っている。


実は両親以外とマーケットに来るのは初めてだ。


フランソワははぐれないように、とずっと私の手を握っている。


どんな理由であれ、フランソワと手を繋げるのは嬉しい。二度と洗いたくないと自分の手を見つめる。


目的の薬草の苗はすぐに見つかって、フランソワは私の意見を聞きながら次々と注文して、公爵邸に届けて貰うように手配した。


フランソワが全部まとめて支払ってしまったので、慌てて自分のお財布を出そうとしたら


「俺がお前に出させると思ったか?」


と睨まれたので、大人しく財布を戻した。


フランソワが買うつもりだった薬草も全部そこで買えたらしい。


買い物が早く終わったのでこのまま帰宅するのかな・・・と思っていたから


「何か食ってくか?」


と聞かれると嬉しくて満面の笑みで頷いた。


するとフランソワは私の頬をつねって


「だから、無防備に笑うな。警戒心を持て!」


と叱る。なんでだ!?


食べ物の屋台はマーケットの一角に固まっていて、美味しそうな匂いが漂ってくる。


串に肉や野菜を刺して炙ったもの。パンケーキ。スープ。デニッシュ。煮込み料理。


美味しそうなものが沢山あり過ぎて目移りしてしまう。


キョロキョロしながら何を食べようかと考えていたら


「お前涎垂れそうだぞ」


とフランソワにバカにされた。


「まだ垂れてないもん!」


言いながら口を拭う。


うーん。ここはやっぱり


「牛肉の赤ワイン煮かな」


と言うと、フランソワが


「偶然だな。俺もだ」


と言って二人分買ってくれた。


レモンの酸味が効いた果実水も一緒に買ってくれる。


マーケットの一角にテーブルや椅子が置いてあってそこで食事ができるようになっている。


二席空いたので、そこでフランソワと並んで牛肉の赤ワイン煮を食べた。


美味しい!


フランソワは無言で食べているが、休みなくスプーンが動いているのできっと気に入ったんだと思う。


食事が終わって、二人で今度はどの店に行こうかと話していた時、突然フランソワの目がある一点を見つめて険しくなった。


彼の視線を辿ると私と同年代くらいの痩せこけた黒髪の男の子が立っていた。


絶対に栄養が足りていないと分かるくらい痩せているし、着ている服も薄汚れている。


彼は一人でお菓子を売っているようだ。


一番目立たない奥まったところにある露店で、置いてあるのもお菓子が少しだけ。


そこに立っている痩せた男の子はオドオドしながら客の対応をしている。


飾りも店の名前も商品の名前も何もない殺風景な店にやって来る客は意外なことに裕福そうな貴族たちだった。


「あの店が気になるんでしょ?」


と声を掛けるとフランソワがビクッとした。


私の顔を見て頷くフランソワ。


「あんな店なのに客はお金持ちそうじゃない?」


と私が言うと


「良く気が付いたな」


と褒められた。


フランソワはイヤーカフを触りながら


「ジルベールか。ああ。そうだ。この近くに馬車を回せるか?」


と言う。


え、ジルベール?とポカンとしている私にフランソワが声を掛ける。


「よし、じゃあ、行くぞ」


「・・・どこへ?」


と戸惑う私の手を引いて、フランソワはその男の子の店に行く。


丁度前の客が帰ったところだった。


フランソワは店の男の子に笑顔で話しかける。


「この店の商品を全て購入しよう。いくらだ?」


とフランソワが言うと


「も、申し訳ありません。この店の商品は全て予約販売となっておりまして、予約されていないお客様は購入できない仕組みになっています」


と説明する。


フランソワは


「なるほど」


と言うといきなりその男の子を肩に担いで走り出した。


私に「クッキーを取って来い!」と叫びながら。


何それ!?とパニックになりながらも店にあったクッキーを数枚握り締めて、私もフランソワを追いかけて全力疾走した。


私の足は速いので、すぐにフランソワに追いつくと


「・・・ひどくない?こんなやり方!」


と文句を言う。


男の子は抵抗もせずにフランソワに担がれたままだ。


走って行く方向に公爵家の馬車が見えた。そういえば、この馬車でマーケットまで来たんだっけ、と思い出す。


そして馬車の御者はまさかのジルベールだった。さっきは気づかなかった。


素早く馬車に乗り込む。幸い・・・というか男の子は大人しくてされるがままだ。


いきなり誘拐してきたのだから、大きな騒ぎになっているんじゃないかと後ろを振り返ったけど、そんな様子はない。


フランソワが


「お前、さっきのクッキーは持っているな?」


と聞くので握っていた数枚のクッキーを差し出した。ちょっと形が崩れちゃったけど・・・。


フランソワは気にする様子もなくそれらを容器に入れてポケットにしまうと


「お前、クッキーを触った指を絶対に舐めたりするなよ?家に帰ったらすぐに手を洗うんだ」


と怖い顔で私に指示した。


私は頷きながら


「・・・何があったの?どうしてこの子をあんな風に強引に誘拐してきたの?」


と聞くとフランソワは黙って座っている男の子に


「突然攫ってきてすまなかった。話を聞いたら、ちゃんと家に帰してあげるから心配しなくていい。君の名前は?」


と訊ねる。


男の子は無表情で何にも関心がない様子だったが、ちらっとフランソワを見ると小さな声で


「セルジュ」


と言った。


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