訳あって、今日のご飯はバナナとプロテイン
第二話 鬼指導者
「「?!」」
無音で背後に現れた長身の男に、オレと碧は驚いた。
「だ、誰、この人…」
「馬鹿っ、この人が神来社さんだよ!」
「やあ、こんにちは。僕が四帝の神来社です。今日から清秀君に基本の戦い方を教えることになったから、よろしくね。」
碧とは違って神来社さんからは、優しくて穏やかそうな雰囲気が感じとれた。
「はい!よろしくお願いします!」
「清秀、お前いま失礼なこと考えたろ?」
「碧、ここまでありがとう!」
「お、おう。神来社さん、この馬鹿をよろしくお願いします。って、話聞けよ!」
「うん。碧君、ご苦労様。じゃあ行こうか。花びんは係の者を呼ぶから安心して。」
神来社さんの笑顔は温かく、まるで紳士のだ。
「さぁ、ここが訓練室だ。清秀君には、剣技という刀を使う戦い方を教えるよ。」
訓練室の中は草原が広がっていて、かなり広い。訓練室というより、一つの草原のようだ。
「今日から教えるのは、剣技を使うために必要な基本である、素振り、反射訓練、肉体訓練だ。」
「けんぎ?」
「あ、すまない、説明が足りなかったね。合神獣と戦う時は、能力か剣技を使うんだよ。僕の場合は、僕自身が剣技で戦っているから、剣技を教えることにしてるんだ。とゆうわけで…はい。」
めちゃくちゃでかい木刀を渡された。
「わっ!重っ!こ、これ、木、刀です、よね?な、んでこ、んなに、重いん、です、か!?」
「それを振り回せるようになれればいいからね。訓練が終わるまで、ずっとそれを使ってもらうから。」
「こ、れは、一体、どれ、くらいの、重さ、なんです、か?」
「う~ん、大体、二十キログラムで一メートルかな。」
「な、なるほど…。」
先ほどまでの紳士のような笑顔から一変し、オレには鬼のように見えた。
「メニューを言うから覚えてね。
①木刀を持って素振り千回。一回も休まずに。
②上から落とされる石を全てよける。
③この訓練室の入り口から約十キロメートル先に一年中咲いているパンジーがあるから必ず一つ摘むこと。そして制限時間内に戻る。
具体的にこの三つだけだよ。もし、一つでもクリア出来なかったら、その日のご飯は全て抜き。代わりに、プロテインとバナナだけだからね。余裕でこなせるようになったら、剣技を教えよう。」
(何、これ。クリアできなかったらプロテインとバナナだけ?鬼畜っ…)
「じゃっ、今から始めようか!もう十一時だし、早くやらないと昼ご飯に間に合わなくなっちゃうからね!」
最早、言葉すらでない。
「んじゃ、素振り開始!」
突然のかけ声に慌てて木刀を持つ。
「ふんぎぃぃぃぃ。お、もぉいぃぃ。」
持ち上げるのがやっとなのに、素振りなど出来るわけがない。よそから見たら、木の塊を上げ下げしているようにしか見えないだろう。
「ご、ごじゅっかい!まだまだぁ‼」
百回を過ぎたあたりから肘と二の腕が重くなってきた。
「くっそ、まだ半分もいってねぇのに…父さんに会うためだ!動け、オレの腕ぇぇ!」
根性で何とか千回までいくことができた。
「おっ終わりましたぁっ。」
「ん?お、やっとか。じゃあ次は、僕の仲間の能力で頭上から、石ころを落としてもらうから、全部よけて。」
「ちょ、ちょっと、休憩ください…」
「え?休憩?冗談きっついよ清秀君」
笑いながら返答される。どうやらオレが冗談で言ってると本気で思ってるみたいだ。
「いやっ、あのっ…」
「だよね!よゆーだから平気だよねっ!」
(そんなこと一言も言ってないのにぃぃ…)
「じゃっ!スタート!」
声と同時に何もない頭上から、直径三センチほどの石ころが落ちてくる。
頭を手で覆いながらよける。
「これくらいなら、確かによゆーだっ!」
オレはこの時、神来社さんの顔が段々とにこやかになっていくのを見た。
「っ‼いって!急に速くなってきた…」
よけていくにつれて、石の量、スピードが増していく。先ほどの素振りの疲れが溜まっているのか、あまり動けず、どんどん体に石ころが当たる。さっきのにやけはそういうことか。
「あーあっ、これでもう、今日のご飯はプロテインとバナナだけだね。残念!」
「⁉そんなぁ…せめて竹の子だけでも‼」
「竹の子?そんなの無い無い」
この人の笑顔がトラウマになりそうだ。
「さ、気を取り直して、今日の最後のメニュー!パンジーを摘んで来い。今が十二時だから…十七時までに達成できれば良いかな。はいっ、はじめっ!」
「いや、だから急ですって…」
「ん?なんか言った?」
「いっ、いえ!何でもないです!」
ダッシュで取りに行く。
ーー三時間後。
「取ってきましたぁ。」
最初から最後まで全力ダッシュをしたお陰で、間に合いはしたが、今にも口から何かが出てきそうだ。
「どれどれ」
疲れているオレをよそにパンジーを観察している。
「あ、花びらが一枚取れているね。失格。」
「(そこまで見るのか…)は、はい…」
もう何を言われても動じなくなった。
「今日はこれで終わり。これからは、メニューが余裕でできるようになるまで頑張ってね!」
目の前に皿と紙パックが置かれる。
「今日の部分のバナナとプロテインだよ。水なら飲んで良いからね。後、できるまで訓練室から出るの禁止ね。」
この最後の一言が、オレの胸に深く突き刺さった。
「んなっ⁉ここからでるの禁止ぃ⁉正気ですか?」
「もちろん‼」
爽やかな笑顔がまぶしい。
「ぅう…分かりました…」
「じゃ、また明日も頑張ろうね!」
---こんな生活が始まって二年と九か月がたった。
九か月の間に剣技を習得し、この生活にも慣れた。
「長い訓練お疲れ様。剣技を使う際に伴うリスクは覚えているかい?」
「だんだん疲れる!」
「まあ、そんな感じだね。主に自分の意志で動かせる骨格筋。自分の意志では動かせない平滑筋が徐々に衰えていく。もし、仮に剣技を使いすぎて体に限界が迫り、それでもなお使い続けた場合…」
「ばあい?」
いつもとは違う、重たい空気が漂った。
「
「全身が硬直し、体に一切の自由が許されなくなる。だから、使う時は、常に自分のコンディションを気にかけながら、使ってね。」
「はい!今まで、ありがとうございました!」
「いやいや、僕は基礎を教えただけ。強くなれるかは清秀君次第さ。これは餞別だよ。受け取ってくれ。」
一本の刀が渡された。
「刀、なんですか?」
「うん、普通は刀じゃなくて剣なんだけど、清秀君にはこっちが合うと思って。嫌だったかな?」
「いっ、いえっ、むしろ嬉しいです!」
「ならよかった。合神獣の弱点である核をしっかりと狙うんだよ?だいたいヘソの奥のほうだって、もう知ってるよね?」
「もちろんです!さんざん練習でやりましたから!では、竹の子がオレを待っているので!さようならっ!」
オレはそう言い残し、猛スピードで本拠地の中にある食堂へ向かった。
「おばちゃんっ‼竹の子ご飯を超大盛で!あと味噌汁も!」
「ごめんなぁ、今月は竹の子の消費が多くて、完売なのよ…。あ、でも、外の『ひいらぎ』っていう私の友達がやってる定食屋になら、あるかも…」
おばちゃんが言い終わる前に本拠地をでて、町のほうへ向かった。
「たっけのこ♪たっけのこ♪ごっはん♪お、これか!」
外にいても竹の子の香ばしい匂いが漂ってくる。
「竹の子ご飯超大盛で一つ!」
勢いよくドアを開けた先に居たのは、人の体をもてあそんでいる合神獣だった。
「なんでだよぉぉ!おい合神獣!オレはな、今猛烈に腹が減っているんだ。そして、竹の子ご飯が食べたい。なのに、なのに…そこで何やっとるんじゃボケェェッ!」
「・・・」
反応がない。突っ込んでも来ない。以前、村を襲った合神獣はうるさく、血気だっていたのに、今回は静かだ。
「変な奴だな。こねーなら、こっちからいくぜっ!」
上段から刀を振り下ろし、まずは頭を狙う。攻撃されていることに気づいた合神獣が後ろに退く。
「竹の子ぉぉぉぉぉ‼」
「・・・ウルサイ」
反撃してきたかと思えば、次の瞬間オレは壁まで吹き飛ばされていた。
「がはっ、いってぇ…」
動きが早い。見えなかった。
「くっそ、もう一回!」
立ち上がり、遠心力を利用しながら、精一杯、刀に力を籠める。
「うおぉぉ!竹の子の仇ぃ!氷剣技、劉氷!」
流れるように、核がある腹部まで刀を持っていく。
「まずは、一匹ぃぃ!」
倒せた。そう確信した。しかし、
「こんなザコ、要らヌ。」
声とともに、目の前に居た合神獣に雷が落ち、一瞬で灰と化した。
「…⁉お前は誰だっ!」
「和が名はトール。七禍神、六凶のトールである。」
禍神!そういえば、以前聞いたことがある。合神獣にも組織があり、その中で幹部的な役割を担っているのが禍神。禍神は神の力を所有しており、超強いらしい。
今の合神獣への攻撃で分かった。
次元が違う。勝てる気がしない。空気が重い。体が動かない。けど…
「氷剣技、氷槍!」
刀を振り下ろすのと同時に、オレを中心に槍状の様なものが円を描く。
「我とその、つらら(・・・)の様なもので戦おうとしているのか?ふっ、笑わせるな。ミュルユルの雷鎚。」
トールの持っていた鎚(ハンマーみたいなもの)がオレの攻撃を弾き、そのままオレの方へ飛んでくる。刀でいなすが、勢いが弱まることなく向かってくる。
「うっ…」
刀を再び振り下ろし、鎚を抑えつける。
「それで終わりか?」
抑えつけていた鎚が勝手に動き、オレの右肩へ直撃する。
「がっ…!かたな、が…」
続いて、左ひざをかすめる。立つことすらままならないが、
(根性と気合でなんとかするっ!)
「その程度か。所詮人間。ハートクリスタル以外興味ない。死ね。」
トールの鎚が腹部に食い込む。
「むぅ?悪あがきか?」
後ろに体重移動をさせたことで、かろうじて致命傷は避けられた。
「一瞬、内臓が破裂した音が聞こえなくもなくもない…あっぶねー」
だが、出血が止まらず、頭がくらくらしてきた。そのうえ、地面にはうつぶせの状態。攻撃できない。
「むぅ、まだ生きているのか。」
「オレはまだ、死ぬわけにはいかないんだ…。父さんを、見つけるまでっ…」
「もういい、喋るな。弱者よ。さらば。」
鎚が頭めがけて振り下ろされる。
(あぁ、終わったな。竹の子一回も食べれなかったな。てかなんで定食屋に合神獣いるんだよ…。偶然にもほどがあんだろ。せめて、死ぬまでに竹の子をもう一回食べたかったな…)
「おいおい、諦めるのはまだ早すぎねぇか?少年。」