竹の子好きの少年
第一話 獣狩
真夏の朝、駆け足で不整地を下っていく。
「はあっ、はあっ、はあっ。」
やばい、青葉たちとかくれんぼしてたら、つい寝てしまった。
「おばさんたち、怒るかなぁ。一晩も帰らなかったし…。うわぁっ!こんな所に切り株があるなんて…お!あそこに竹の子発見!って、そんなことしてる場合じゃなかった!」
段差を飛び降り、腕を振る。
そろそろ息が……
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「!?」
村からの突然の悲鳴にオレは驚く。顔が曇る。門をくぐり、村に入った。
「おーい。大丈夫かぁ?」
入ってすぐそこの家には、心細く明かりが灯っていた。
「ヴルルルゥ。」
鋭い眼光がこちらを睨みつけている。
暗くて姿が見えない。
「ライト、ライト、あれぇどこだっけなぁ。」
カバンの中からライトを探していると、暴走する列車の様に突っ込んで来た。
「ウガァァァ。」
「よっ、と。」
ここに引き取って貰ってから、毎日のように鬼ごっこなどをして遊んでいたおかげで、清秀の反射神経はかなり鋭かった。
「く、熊なのか?人間のようにも見えるし、なんだこいつ…?」
「ヴヴヴヴヴヴヴ…。ガァッ!」
「っ!あっぶねぇ…段々と速くなっているな…」
何度も突進をし、スピードが上がっていくため、よけるのにも限度がある。
チッ…。爪が服にかする音がし、持っていたバッグが宙を舞う。
「よけたと思ったのに…、何か反撃しないと…!」
周囲を見渡すが、何もない。
(もう少しで当たる…!足も重い…。)
「ガゥゥゥゥ、ガァッ!」
鋭い爪を出し、清秀めがけて振りかぶる。
(あっ…!)
目をぎゅっと瞑り、死を覚悟した。次の瞬間、
「炎能力、火炎刃。」
何者かが一瞬で倒した。それぐらいのことはわかった。
視界が徐々に明るくなっていく。
「うおっ!」
背の小さい少年が、急に話し始めた。
「真宮清秀。九月三日生まれ、十五歳。二歳のころに父は行方不明、三歳のころに母は病死。その後、この村の心優しい綺華おばさんに引き取られ、今に至る。更に右手には誕生石である、ラピスラズリをつけている。売ったらいい金になりそうだな。」
手帳を見ながらペラペラと喋る。
「え、オレの個人情報どうなってんの…。」
「本日の用件は大きく分けて二つ。一つ目は、対合神獣組織である、獣狩に入れ。」
「ちょっ、ちょっと待って、あんた誰?」
「僕?あぁ、自己紹介が遅れた。僕は天曇紅輝。十四歳だ。よろしく。そっちより一つ年下だけど、僕のほうが強いから敬え。」
年下とは思えないような口ぶりにオレはしばらく驚いていた。
「………」
「おい、入るかどうかはっきりしろ。」
「え?あっ、きめらって何だ?じゅーかって何だ?」
「質問ばっかだな。合神獣とは、簡単に言うとさっき見たような奴だ。さっきのはザコ合神獣で自我がない。しかし、強さが増してくると、自我があり、武装し、武器を使ってくるやつもいる。また、あるウイルスに感染し、体が順応できないと合神獣になってしまう。合神獣は人の心にある『ハートクリスタル』ってのを集めている。これが一定の個数集まり、玉になると完璧な合神獣になれるらしい。」
情報の多さに少し戸惑った。
「な、なるほど、じゃあ、その合神獣を倒すために獣狩はあるのか。」
「そういうことだ。理解が早くて助かる。」
「も、もう一つの用件とは?」
「もう一つは、清秀、お前の父親は生きている。」
「えっ?父、さん、が…?」
「あぁ。どうやらお前の父親は合神獣との関わりが深いらしくてな。それで…。」
清秀の顔がすぐ近くまで迫っていた。
「会わせてっ!父さんに!」
「ち、近いっ。今すぐは無理だ。ただ…。」
「ただ?」
「獣狩に入れば、会える確率は上がるだろう。それにお前のさっきの動きはかなりセンスがあると思う。」
「さっきのって、見てたのか?」
「見てた。」
「じゃ、じゃあっ、何で最初から助けてくれなかったの!?」
「人が窮地に追い込まれる姿は面白いから、見ていたかったんだよ。」
再び思った。
(こいのつホントに十四歳かよ…)
「で、どうなんだ?」
答えは決まっている。
「もちろん行くよ!」
獣狩の本拠地、嵯峨野に向かう。
「こんな竹やぶの中にあるのか?」
「そう。」
「紅輝が1番強いのか?」
「……。」
静かな竹やぶに、足音が響き、風が竹と竹の間を吹き抜けていく。
「なあっ!」
「黙れ。」
スタスタと先へ行ってしまった。
「ここだ。入れ。」
本拠地というものだから、オレはてっきりごっつい建物を想像していた。
しかし、連れてこられた場所は基地というより、山小屋のような所だった
「何か、変だな。まるで小屋みたいだ…」
ガラッ
「え?何も見えなくね?何だここ?」
扉の先には暗闇がどこまでも続いており、そこには無数の扉があった。
紅輝がため息をつく。
「少し黙っとけ。お前は。」
そう言うと、紅輝は何やら唱え始めた。
「キーワード、獣狩。」
オレをよそに続けて唱える。
「嵯峨野、本拠地、キトラ。」
暗闇に木製の扉だけが残った。
ギィッ
「すっげえ!すっげえ!何だこれ!紅輝だけが使えんのか?」
生まれて初めての光景にオレは興奮した。
「獣狩の隊員なら誰だって使える。今から参謀の元に行くから大人しくしとけ。後、会ったら必ず一礼するように。」
無機質な石段を上り、少しすると畳の上に誰かが座っているのが分かった。
「失礼。天曇隊、隊長の天曇紅輝。指令通り、真宮清秀を連れてきました。」
「……天曇、席を外せ。」
「はっ。」
紅輝は姿を消した。
「初めまして。私の名は安居院征士郎。君の父、秀樹とは5年間共同で研究をしていた。獣狩では参謀を務めている。よろしく。」
「真宮清秀です。父さんが生きてるって本当ですか⁈」
「ああ。その事についても話すから、座りたまえ。……」
数時間話した。獣狩の仕組み、合神獣を倒すためにできたこと、合神獣の弱点、父さんが合神獣と深くかかわっているということ、合神獣化ウイルスを作った科学者がいるということ、ウイルスに対抗できるワクチンを作り出す必要があるということ。
「―…今日から清秀は獣狩の隊員だ。早速だが、神来社の元に行って、基本の動き、戦い方を学んで来い。神来社のとこまでは…碧。」
パチン、と指を鳴らすと、オレと同じくらいの背丈のやつが現れた。
「こいつは皇碧。清秀と同じ十五歳だ。神来社の元まで碧が連れて行ってくれるから。後よろしく。」
「あのぉ…。」
質問しようとすると、オレは碧とかいうやつに袖を引っ張られ、部屋の外に連れ出された。
「あそこで質問すると話が長引いてめんどくせぇだろうが。」
「え、だって、神来社?だっけ?よく分からない言葉ばかり出てきたから…。」
「お前、神来社さんのことも知らねぇのかよ。いいか、よく聞け。獣狩にはな、」
「隊長が居て、その下に四帝の人たちがいるんでしょ?」
オレの決め顔に腹が立ったのか、碧はふてくされながら、話を続けた。
「なんで四帝を知ってて神来社さんを知らねぇんだよ。神来社さんも四帝だぞ?」
「あ~!なんかそんな人いたなぁ。安居院さんが言ってた気がする。まぁけど!名前よりオレは早く戦い方を学びたい!」
「っ!おまっ、ジャンプするな!ホコリが舞うだろ。それにここは狭いから転ぶぞ…」
ほぼ同時にオレはこけた。
ガシャーン!
こけたせいで、近くにあった花びんに衝突し、割ってしまった。
「ど、どどど、どうしよう…ねぇ碧…。」
「小動物のような眼でこっち見んなっ!そんなん知るか!自分で何とかしろよ!」
「そんなこと言わないでさぁ、頼むよぉ。」
「うっせぇ!俺まで犯人扱いされんだろ!こっちくんなぁっ!」
「はいはい、そこまで。」