出会い
SFもどき作品です。
20XX年。
春よりも紅い櫻。
近年、世界規模で異常気象が続くのが当たり前になっている。
これも、その一つだろう。
もう12月。メリークリスマスも近いってのに、櫻が日本の至る所で満開だとは…。
どこかのTV局のニュースで、夜桜見物を楽しむ人たちも増えてきたとか言っていた。
もう、これは日本の常識。櫻といえば春だけの名物とはいえないのかもしれない。
大体、真夏にだって雪が舞ってたりする年があるのだから。
ただ、春の櫻と違ってるのは、少し花弁の色が紅いってことか。
とある公園の櫻並木。
彼が、今見ている櫻は、今の時期、その辺の公園に何処にでも咲いているソメイヨシノだ。
こうして櫻をマジマジと見るという行為そのものが、もしかして彼には初めての経験かもしれない。
櫻…。最後に見たのは、大学の友人達との夜桜見物で…。
いや、その時も、見たとは言い難い。
大抵が、「夜桜見物イコール宴会」だからだ。その時も、友人達とはしゃいで飲んだくれて大騒ぎしてた。
櫻の下で。目の端に、櫻の花びらが舞っていた。
そういう記憶しか残っていない。
「余り見入ってると魂吸い取られるぞ」
振り向くと櫻の花びら舞い散る中。一人の少年が、立っていた。
「ほら、よく櫻の下には死体が埋まってるって言うだろ? あれ、ホントに埋まってると思う?」
世間話をするかのように少年は、俺の横に並んで問いかけてきた。
「さあ? そんな事、初めて聞いたな」
何だ? こいつ……変なヤツだな。
初対面の見知らぬ人物に向かって、「死体」なんて言葉をまるで挨拶でもするかのように言ってのけたのだ。
見た目は、高校生くらいか。
細身で背が高くて、この間、一瞬TVで観た何とかって若手俳優に似てるかな?
黒い髪とまだあどけなさの残る顔に少しキツメの瞳が印象的だ。
「ねえ、あんたモデルか俳優? それともホスト?」
少年は、俺にそう笑いかけて聞いてくる。が、特徴のある瞳は決して笑っていない。
「…ただの一般人だよ」
素っ気無くオレは答えた。
「ふ〜ん。いかにもって感じだからさ。女にモテそうな、さ」その言葉が、何故か棘を含んで聞こえる。
「……」
いかにも――確かに、そういうことはよく言われる。ただ立っているだけで、周りの視線を感じる事も多々ある。
が、(…くだらん)
俺は、それには答えず少年に背を向けて歩き出した。
その後を、少年は追いかけてくる。
「あんたさ〜。背高いよな。俺も高い方だけどさ」
「歩くの速いのな。それって、やっぱ足の長さが関係してんのかな」
「なあ、聞いてる? 人の話?」
うぜぇ…。何だ? こいつはっ!!
「お喋りは好きじゃない」冷たく言って追い払ったつもりが、
「あ。そうなの。同じだね。うん。オレも余り好きじゃないかも」
そう言ってまだ、俺の後を追うように付いてくる。
「――何で付いて来る」
「え? 何でって。オレんちこっちだもん」
俺は、歩幅を緩めず顔だけ少年の方を振り返った。相変わらず大きなキツイ瞳を俺に向けてる。が、口元は、微妙に笑いを含んでる。
明らかにウソだ。仕事上、そういう事は解る。
だが何だって、オレの後を付いて来るんだ?
公園を出てパーキングまで来たとき、少年は言った。
「オレ、時任 嵐。あんたは? 名前」
「…山田 太郎…」
「ウソだ」即ちょっと、口を尖らせて可愛い顔してそう言う。
ウソだよ。
ホント、変なヤツだな。見も知らぬ男の名前なんて聞いてどうするよ。それも、一回り程も年上の…。聞くならその辺の若いおねぇちゃんの名前でも聞けばいいだろ。
――と、ああ、そうか。今流行の「MO☆HO」くんかもな。
ひと昔前と違って、現在じゃ同性同士の恋愛なんてフツウだし…。何年か前には、法律で結婚も可能になったしな。
とはいうものの、やはりまだ同性同士のカップルには、世間の風は冷たいが。
「悪いが時任くんとやら、俺は君に名前を名乗る義務は無い。おまけにゲイでもな」きっぱり、そう言い放った。
時任少年は、大きな目をパチクリさせてる。あのキツイと思った瞳が、一瞬可愛いと思う瞳に変わった。
「まあ、そりゃそうだろうけど。警戒してんの? 俺何もしないよ。ホモでもないし。ただ、あんたの名前知りたいな〜と思っただけで」
時任少年が言い終わる間もなく
「じゃ」
俺は、車に乗り込んでドアを閉め発車した。少年の横をすれ違う瞬間
「バイバイ。―― ――さん」
え!
今、俺の――。
急ブレーキ。
慌ててドアを開けて振り返ったが、少年の姿はもうそこには無かった。
何で?空耳だったか?
それは、そうだろう。さっき初めて出逢ったあの少年が、俺の名を知ってるわけが無い。
それも、フルネームで……。
「武藤 将平さん」と――。
まるで、狐…いや、櫻に化かされたのかと思った。
それが、彼。時任 嵐との出会いだった。
出会い編は、自分が一番気に入ってる章です。
ブログにUPした作を少し手直ししてます。