カチカチ
【カチカチ】
僕が16歳になった頃の話だ。
友達みんなでバイクの免許を取り、遠出をするのにハマっていた。
その日も僕等はバイクで40kmほど走り、
ある山の頂上を目指していたんだ。
道中で1人がガス欠したりもあったけど、
事故もなく無事に辿り着く事ができた。
今日はそこで星を見ようと話していたんだ。
思い思い好きな事をして時間を潰し、
空が紫色になってきた頃、友人のS君が大慌てで走ってくる。
何かあったのか?と僕とM君は怪訝そうな表情でS君が来るのを待ち、
ただならぬ気配を感じた皆が集まってくる。
「どうした?」
「はぁはぁ……ヤバいって…はぁはぁ……ここ、ヤバいって」
何言ってんだ?野生動物でも出たのか?と皆が思っていると、
S君はこう続けた。
「何かいるんだよ、みんな聴こえないの?」
耳をすまして辺りを見渡すが、それらしい気配はない。
2~3分は皆で探していただろうか、だが見つける事は出来なかった。
「何? S君ビビってんの?w」
と冗談っぽくからかうと、S君の表情は怒りに歪み、
普段の彼では想像も出来ない大声をあげた。
「ふざけんじゃねーよ!マジなんだって!!」
怒鳴った彼は僕の胸ぐらを掴み、
何かにすがるような瞳で訴えてくる。
「な、お前なら分かるよな?カチカチって音…な?!」
「んなこと言われも……あ」
そこで僕は気がついた。
少し離れた位置に小さな椅子に座り望遠鏡を覗く男性が、
こちらを見てニタニタとしながら、歯をカチカチと鳴らしている事に。
気持ち悪い……気持ち悪い……あれは異常だ。
僕等が来る前からいたあの男性は、
僕等と同じで星を見るために来ている人としか認識していなかった。
何となく距離を取り、関わらないようにしていただけだった。
でも、それは僕だけだったのだ。
あの男性を、友達の誰一人として見えていなかった。
その証拠に、僕が
「あの人がカチカチ歯を鳴らしてるだけじゃん」
と言うと、全員が「は?」と声を揃えて言ったのだ。
あまりにも自然に居たせいで、僕には"あれ"が人に見えていた。
でも"あれ"はもう人じゃない。
カチカチ……カチカチ……カチカチ……ガチッ!!
一際大きな歯が鳴る音が響き、僕等は蜘蛛の子を散らすように逃げた。
逃げて逃げて逃げ回った。
後ろなんて確認出来ない、恐ろしかった。
ひたすら走り、バイクを止めている場所まで一目散で走った。
皆がバイクにまたがりながら来た道を見ると、
そこにはあの男性が笑顔で手を振っていた。
でも、それは僕以外には見えず……、
ただ、カチカチ…‥カチカチ……という音が響いてたそうだ。
おしまい。