赤い女
【赤い女】
これは僕がまだ小5の頃の話だ。
僕には両親がいなく親戚に育てられていた。
育ての親である叔父さん達は放任主義で、
今で言うところの"育児放棄"というやつである。
だが、それは嫌ではなかった。
僕は平屋の離れ(プレハブ小屋)に住んでいた。
好きなだけゲームをし、玩具で遊び、友達を泊めていた。
子供の僕等にとってそこは楽園だったんだ。
6歳の頃からずっと友達のM君はしょっちゅうウチに泊まりに来ていた。
彼とは馬が合い、色々な好みがそっくりで驚いた。
不思議と同じ言葉を同じ瞬間に口にする事も多く、
友人達からは双子みたいだなって言われた事もある。
夏休み、友人のM君と僕は、
裏の空き地にあった茶色く変色した湾曲した竹を使い、
下着に使うウエストゴムを括り付け、弓を作っていた。
この頃の僕等は武器作りにハマっていたのだ。
矢には裏の空き地の横にある竹林を通り抜け、
その先で採れる棒状の幹の持つ雑草を使った。
これが軽くてよく飛ぶので僕等のお気に入りである。
なんと最長飛距離30m超えという記録すら出していた。
ただ、この竹林の中には全く手入れのされていない祠があった。
50cmほどしかない小さな祠だが、屋根は壊れ、
草木に侵食され、どこか寂しい雰囲気が漂っている。
僕等は何となくその祠が怖く、避けて通っていたんだ。
僕等が手間暇をかけて作った弓が友達の間で話題になり、
大勢の友達が僕の家に押し寄せ、皆で弓矢を作っていた。
陽射しの強いある日の事である。
M君を含め、6人がウチの庭で弓矢作りで遊んでいると、
一人の友人が気持ち悪いと言い始める。
日射病にでもなったか?と皆が心配し、彼を寝かすために部屋に戻った。
皆も暑さと弓作りという重労働に疲れてか、
8畳のプレハブ小屋で昼寝を始める。
僕もすぐに眠りに落ちる……この時、僕は夢を見ていた。
赤い赤い夢…空も大地も真っ赤で、
恐ろしくなって逃げようとするけど、足はもつれてしまい、
声を出そうとしても怖くて声が出ない。
そんな悪夢を見て僕は飛び起きた。
全身びっしょりになるほど汗をかいており、
見るとM君もまた同じように汗だくで軽く息を切らしていた。
僕が跳ね起きたのをキッカケに皆も起きてしまった。
僕は外の水道にホースを差し、頭から水を被った。
夏の陽射しの中での水浴びは気持ち良く、皆も真似をする。
それからしばらく水遊びをしていると、
気持ち悪いと寝ていた彼も起きてきて、6人は弓作りを再開した。
賑やかな少年達の微笑ましい夏休みだったと思う。
そう、この瞬間までは……。
まだ小5の少年達は遊びだしたらその事に夢中になる。
周りの迷惑など考えず騒ぎ、遊びという行為に熱中する。
そんな僕等が全員ピタッと言葉を発しなくなり、ある1点に目を奪われる…。
空き地の隣り、竹林の方へと吸い込まれるように皆の目が釘付けになった。
そこは昼でも薄暗く、竹林の奥を見通す事は出来ない。
緑と黒のコントラストの世界だ……だが、今日は違う色が1つあった。
赤。
赤い、とにかく赤い。
女性の形をした"それ"は顔も何もなく、ただ赤かった。
その姿は緑と黒の世界である竹林では異様だった。
いや、あんな赤い存在はどこにいても異様だったかもしれない。
赤い…まるでさっき見た夢のように赤い……。
僕等は微動だに出来ず、ただじっと息を潜めて見ている。
そこで僕は1つの事に気がついた。
赤い女は竹林の奥にいるのだ。
本来であれば竹や影で見通す事など出来るはずのない、竹林の奥に。
ゾッとした。
これは見てはいけないモノなのだと本能的に理解した。
だが、身体が動かない、視線を外す事も叶わない。
赤い女はゆっくりと竹林を進み、スッと消えて行った。
長い長い硬直が解け、皆が息を荒くし、互いの顔を見ている。
言葉はまだ出てこない、ただ互いを見て震えていた。
それから僕等は部屋に戻り、先程見た赤い女について語り合う。
「あれは何だったんだろ?」
「○○君も見えたの?」
「こんな真っ昼間にお化けは無いだろ~」
「でも説明出来なくない?」
「そうだけど、怖いから俺は信じないぞ!」
そんなやり取りをしてから、恐怖を打ち消すために、
僕等はゲームを始め、それ以降は誰一人としてこの話はする事はなかった。
おしまい。