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6. そして閉じられた世界から、外にでていくのだろう。

「……」

子供の視線の雄弁さが、彼等を怪しいともろに語っていた。

それを見ながら、穏便に事を済ませる方法を、ジェムは考えていた。

一向に思いつかなかったが。

「おまえたち、我ら国王陛下直属の騎士に対して、礼儀というものがなっていないのではないか」

一人の騎士が面白がるようにいう。

おそらく彼は、子供たちの物おじしない、あけすけな視線が面白いのだろう。

越えや雰囲気からそれらが感じ取れた。

だが問題はそこではなく、こんな森の中の孤児院に、国王直属の騎士が来たという事に違いない。

「いったいどのようなご用件でしょう」

ジェムが年上らしい丁寧さを見せると、騎士の一人が彼女に頭を軽く下げる。

それは騎士が、野良仕事に精を出す娘にたいしての、一般的な挨拶だった。

女性を重んじよ、というのが騎士の建前なのだから。

「これは、ここで働く女性だろうか」

「わたしはここで暮らしている孤児だったものです。今は近くの町で学んでいます」

丁寧な口調に、話が通じると思ったのだろう。

騎士が苦笑いをした後に、こう言ったのだ。

「ここに、炎の門を開くものはご在宅だろうか? その誰かを迎えに来たのだけれども」

「兄ちゃんはどこにもいかないよ!」

その言葉を聞き、慌てたのが一人の少年だった。

彼はしょっちゅうレパードについて歩いていたから、炎という単語だけでレパードを連想できたのだろう。

きっと、炎を見せた事があるのだ。

ジェムには見せた事が無くとも、レパードはどこか抜けているため、子供たちに見せたことだってあったかもしれなかった。

「にいちゃん、という事は年上の御仁か。よかった、小さな子供だったらどうしようかと」

物事は話し合えば理解しあえる、とでも思っているのか、騎士が安堵した顔になった。

あの人は話し合えば理解できる、なんて生易しい人間でも性格でもないけれど、とジェムは遠い目になりそうになりつつ、言う。

「あの、あなた方は一体どのような人間がここにいる、と思って来たのでしょうか」

「こういうのは、卑怯だと思うのだが……われわれは、ここの人間を守るために来たのだ」

「まあ、どうしてですか。ここは熊や獣、魔獣は多くいる森ですが、今このようなときに守りに来てくださるとは、それほど危険な獣が?」

ジェムの言葉に、騎士が言う。

「いいや、危険なのは獣ではなく……炎を操る人間なのですよ」

「兄ちゃんは危なくなんてないよ!」

食ってかかった子供たちに、騎士の一人がうるさがったのか睨み付ける。

その視線の鋭さに気おされた子供が、一斉にジェムの後ろに隠れた。

「わたしも、理解しかねます。何故危険なのでしょうか」

レパードがどうして、危険だと言い切れるのか。

全く理解できない、というには成長しつつあるものの、ジェムと手言い切る理由は気になった。

「炎を操る門士が、登録もされずに、野放し状態で一人気ままにしている、というのは恐ろしい事なのですよ。いつどこで、その気分で物を燃やすかわからないのです。そして登録印を体に刻んでいない門士は、ことごとく、無意識に門を開いて呼ぶべきではない時にあちら側の存在を呼び、事件を起こすのです」

まして炎だ、その辺の水や風ですら事件になるのだから、炎のその具合は推して知るべし、と言いたげな騎士だ。

「と言われましても……本人であろう人間がここにいないのに、わたしたちが答える事は出来ませんし」

誰か、ここのもっと権限がある人間、尼僧様はお祈りの時間だからあと一時間は……と頭を巡らせていた時だ。

「おい、おれになんの用事だよ」

子豚を抱えて現れたのは、今まさに話題になっていた男だった。

彼は泥まみれで、おそらく子豚が逃げ出したのを探していたのだろう。

足元も泥にまみれており、顔だって泥まみれ。

まさに泥の塊のような見た目をしていた。

そんな、危険さなど見受けられないレパードは、騎士たちを見てこう言った。

「お、お迎え速いな」

「レパードさん、知っていたの?」

「いんや、そろそろうわさを聞きつけてくるだろうなあ、程度は感じてたんだよ、ジェーム? そんな眉間に皺寄せた顔しないでくれってば」

思わず顔をしかめてしまうジェムに、自分の顔を近づけて笑うレパードが、騎士たちに言う。

「連れてくなら、ほかの誰にも迷惑かけんじゃねえよ。そうだ、おれがどこに行くのか知らねえけど、そこにジェムの仕事先があるだろ? ジェムも十六だからそろそろ、働き口を探してんのよ。おれ、心配過ぎるからわからないなら、どこにもいかねえけど」

騎士たちは顔を見合わせた。あまりにも、馬鹿の言い分に聞えたのだろう。

少なくとも、ジェムには馬鹿丸出しに聞えたし、自分を優先にし過ぎているような言い方だ。

これはまずいだろう、とジェムは思って慌てた。

「レパードさん、自分のこれからの事を、わたしで決めないでくださいよ」

「だって、おれのいるべき場所はジェムが幸せに暮らせる場所だろうが」

何の問題があるの、と言いたげなまなざしに、ジェムはお手上げ状態に変わった。

そして騎士たちを見上げ、困った顔で告げた。

「すみません、いかんせんあまり頭のよくない兄貴分でして……」

「いやいや、妹を優先する姿勢は、あっぱれな物ですよ、昨今の兄がすべて、このように兄妹を心配するわけでもありませんし、妹にたかる兄も多いのですから」

騎士がその後言う。

「それでは、鳩を飛ばしまして、ジェムさんの働き口の事も相談しましょう。私の飼っている鳩でしたら、ここと王城を何度か往復できるはずですからね」

<6.そして閉じられた世界から、外にでていくのだろう。>

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