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16.物語の始まり


流石に国王に会う手続きともなれば、色々大変らしいという事は、漠然と分かる道のりだった。

公爵と呼ばれる人ですらそうなのだから、平民が面会を希望できるわけもないだろう。

しつこいほどの身分の確認に素性の確認、そして武器の有無。

この国の王は命を狙われやすいらしい。

そう感じるほど、武器の有無に対して神経質な兵士たちだ。

しかしジェムは武器なんて何も持っていないため、気に障る事もない。

公爵も苦笑いをしながら、己の帯剣する一本の剣を見せている状態だ。

「この国の陛下は、過敏になっているのですね」

「大きな国だからいろいろな思惑があるものだ」

賢い娘でうれしい、と公爵が言う。しかしこれ位は、これだけ武器の確認をされれば分かるものである。

最後の最後、武器の確認と素性の確認を済ませた……もう十回はしていた……二人は、一つの大きな扉の前に出る。

そこを抜ければ、見るからに相手を威圧するような椅子に座る、一人の若い男が現れた。

その男は、殿下によく似ている。まるで年の近い兄弟だ。

しかし、カイヤのように見た目に寄らない人も多いようなので、ジェムは年齢を確認する無作法はしなかった。

「そちらが、お前の探していた娘か。そして弟が、大変に執着している」

男は余裕のある王者の笑みを浮かべ、公爵に言う。

「何度も何度も、面会を希望する手紙が送られていたと思えば。すっかり娘を気に行ってくださったようですね」

「だがまだ早い。あれは修学課程が終わっていない」

「存じておりますとも。せめて娘が学校を卒業するまでは辛抱していただきたいものです」

「そうだな。さて、ザフィーア嬢」

国王が手を差し出してくる。

ジェムは、そこでここで行う事を思い出す。確か手の甲に接吻するのだ。

街の女学校で教えられた、滑るような音を立てない足取りを意識した彼女が、国王に近付く。

すると国王がしげしげと、彼女の眼を見つめてきた。

「見事に青い目だな。美しい色をしている」

ジェムは聞こえないふりをして、その手に作法通りに唇を落そうとした。

その時だ。

「陛下、炎の男の事で申し上げたい事が……」

足早に現れた男のその声が、彼女の動きを止めた。

今なんて言った。

はっと振り返れば、焼け焦げだらけの男が、火傷の痛みで顔を歪めつつ言う。

「だめか」

国王は言いたい事を察したらしい。問いかければ、男が頷く。

「焼き印はことごとく上書きされます。ほかの術式は丸焦げで無効化。あれだけ非術式ができる奴は早々いません……というのに、全く従うつもりもないらしく。食事もとらないありさまでどうにも」

「……まるで野の獣だな。従う事を知らない。痛みはどうだ」

「……陛下、その事で取り急ぎ申し上げたい事が」

男が言ったその時だ。

「あー、いたいた、ここか。」

しっかりと閉じられた扉が、じわりと焼けて焦げたと思えば、人ひとりが通れるだけの穴が開く。

漂うのは、強烈な炎の香りだ。

「いくら待っても来てくれねえから、おれが来るしかないだろ?」

たった一人に向けられた言葉を聞き、ジェムは国王からその声に駆け寄った。

「なあ、ジェーム?」

焼けた匂いに焦げ付く音、そしてひらひらと舞い踊る数多の蝶々。

誰かが

「馬鹿な……蟲だと……」

「普通門から呼び寄せられても、四つ足の獣や魚で精いっぱいだというのに……」

「こちら側の門士とは、波長が合わないと言われている最高峰の種族、蝶々……」

などと呟いているが、そんな物関係なかった。

ただ、ジェムは駆け寄ってその顔を見た。

「……だから、ご飯はちゃんと食べてくださいとあれほど」

「んー、寝たら首のあたりに、へんなの刻まれるからなー」

見下ろす瞳の赤色の鮮やかさと、熱波で翻る髪。

それらに泣き出したくなりながら、ジェムは服の裾からパンとチーズを取り出した。

「ほら、食べてください」

「おー。さすがおれのジェムだわ、わかってる」

男……レパードは無邪気に笑い、パンとチーズに噛り付いた。

誰もがそれを、異様な光景のように見ている。

レパードの現れ方がとんでもないのだから、仕方がない事かもしれなかった。

「でも、レパードさん、お願いですからもうすこし、周りに合わせてくださいよ」

「んー?」

頬を膨らませてもちゃもちゃと、数日ぶりらしい食事をしている男が、眼を瞬かせる。

ジェムはとりあえず、説教は後回しにする事にした。

そして。

「……何か服、探しましょうか」

「ジェムがあれ作ってくれよ、おれが餓鬼の頃着てたようなの」

提案すれば、物を飲み込んだ声が返ってきた。



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