第一章 4話
「先生!羽衣は、羽衣は大丈夫なんですか!?」
手術を終えたばかりの先生に殴りかかるのではないか、という勢いで俺は聞いた。
「...残念ながら我々も全力で、あらゆる手段を用いて手術へ臨んだのですが...助けることができませんでした。」
「な、なんで...」
遠くから母さんの声が聞こえた気がした。
な、なに言ってんだ...そんな、そんなのあるわけない...あってたまるか......そ、そうだ、きっと、先生頭おかしくなっちゃってこんなこと言ってるんだ...そ、そうに違いない。だって、だって、俺よりもあとに生まれて、俺の妹で、まだ高校2年だぜ...?死ぬなんて、そんなわけ...
「う、うぅぅぅ......」
近くで母さんの泣き声がする。
「な、なに泣いてるんだよ母さん...さっきのは先生の...お医者さんの冗談で、羽衣が...羽衣が死ぬわ、け...」
羽衣が死ぬ。その言葉を口にした瞬間、その先を言葉にすることができなかった。
何か一言でも発してしまえば涙をこぼしてしまいそうで、大声で泣き叫んでしまいそうで、どうしても"死ぬわけない"と言うことができなかった。
こんなところにいたくない。
俺はただ妹と仲を戻して、普通に幸せに家族と一緒に過ごしていたかっただけなのに、
なぜ、どうして、突然俺の目の前からいなくなってしまうんだ。
父さんがいなくなってしまった悲しみからみんな抜け出したばかりだというのに、
なんで、こんなにも早く、しかも父さんと同じ方法で羽衣を失わなければならないのか。
こんな、こんなところにいたくない...。
おもむろにその場から駆け出した俺はそのまま病院の外へと飛び出したのだった。
どこを走ったのか、どの道を通ったのか、全く覚えていない。
気づいたら俺は父さんの墓場まで走ってきていた。
ちょうど一年前。今くらいの時期に父は羽衣と同じように車にはねられて他界した。46歳だった。
そのとき父は仕事帰りで帰路に着く途中、何かを買いに行ったのか、寄り道をしたのかはわからないが、なぜか俺と羽衣の通学路であるあの交差点を通り横断歩道を歩いていたところをはねられたらしい。即死だった。
「なあ、父さん。天国なんてものがあるんだとしたら、どうして羽衣のこと守ってくれなかったんだ...?生きているときの口癖は、いつでも見守ってるからな、っていうのは嘘だったのかよ...。」
自分でも死人に対して酷い言い分だなぁとはわかっている。
でも愚痴っていないとどうにかなってしまいそうな気分だったのだ。
「父さんがいなくなって、1年経ってやっと、やっと母さんが笑ってくれるようになったんだ。俺と羽衣も...つらかったけど、それでも笑って毎日過ごしてたんだ...。そんなときにどうして、どうして羽衣までそっちに連れて行ってしまうんだ...?なぁ神様...答えてくれよ......どうして俺たち家族ばかりこんな目に合わなきゃいけないんだ...。父さん...羽衣...。」
酷い顔をしていたと思う。
涙や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、すごく酷い顔で父さんの墓に向き合っていたと思う。
けれどそんな顔なんてかわいく思えるような酷い顔を、次の瞬間俺は作っていた。
「呼んだ?お兄ちゃん??」
そこには死んだはずの、絶賛病院に死体があるはずの妹が父さんの暮石に腰かけていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しずつ少しずつ、話を進めていこうと思っていたのですが
全力で、超特急でこの4話、進めてしまいました...(;'∀')
ですのでそろそろ、何か大きな進展があるかもしれません。(遠い目