第一章 3話
先生の運転する車の助手席に座り、俺は考えを巡らせていた。
......なんで、どうして羽衣が事故なんかに...。
先生の説明だと、横断歩道を渡っているときに信号を無視して侵入してきた車に引かれたのだという。
わき見運転?飲酒??...いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく今はただ羽衣が無事でいることを願うだけだ...。
病院に向かうまでの道を、俺はただひたすらに妹の無事を願い続けた。
「康汰くん、病院に着きましたよ!」
先生のその声を聞いて、俺は車から飛び出した。
後ろのほうで先生が何か言っているが、先生を気に掛ける余裕が残されておらず俺は無我夢中で受付へと走った。
「千葉羽衣の兄です!少し前に妹がこの病院に運ばれたと思うんですが!!」
受付に着いた俺は、焦る気持ちを抑えることができず声を荒げながらそう聞いた。
「少々お待ちください............ただいま手術室のほうで施術中のようです。
お母様があちらでお待ちになっております。」
「ありがとうございます!!」
受付の女性が指差した方を見ると、確かに母さんらしき人が待合室とかかれた部屋の中にいた。
...俺と受付の女性が話をしていたのを見ていたのだろう、部屋から出てこちらへと向かってくる。
「康汰!あんたはどうして来るのにこんなに時間がかかったの!!!」
「それは色々あって...今はそんなことより、羽衣の...羽衣の容態はどうなんだ!?手術って言ってもあれだろ?!多少傷ができてそれを縫い合わせているとかその程度なんだろ!?!!?」
「.........」
母さんは何も答えない。
「...おい、なんで...なんで何も言わないんだよ!!......それじゃあまるで、羽衣の事故が、容態が悪いみたいじゃないか...」
「.........」
「なんとか言えよ!!!!!?」
...母さんは唇を噛みしめ、何かをこらえているようだったが、少しして羽衣の事故時の様子を語り始めた。
「......羽衣の事故はね、先生に伝えた通り横断歩道を渡っているときに車が飛び出してきて起こった交通事故なんだけど、ただの事故じゃなかったの。......飛び出してきた車の速度が速かったのかはわからないけれど、はねられた羽衣は対向車線に止まっていた車のとこまで飛ばされて...頭からその車のフロント部分にぶつかった。...そう警察の人に聞いたの......私も実際に羽衣の姿を見たわけじゃないけれど.........すごい血だらけだったんだって...」
話している母さんの声はひどく震えていて、必死に涙を流さないように我慢しているようだった。
「そんな...なんだって羽衣がそんな目に......くそぉぉおお!!!!!!!」
僕ら家族が絶望に打ちひしがれているところに先ほど置き去りにしてしまった先生が合流した。
「......康汰くん...。
.........学校のほうには数日ほどお休みすることを連絡しておきました。
学校へ置きっぱなしになっている荷物もあとでお家に届けましょう。
...なので今はただ、何も考えず妹さんのそばへいてあげてください。」
「先生.........ありがとうございます...。」
羽衣の手術室のランプが消えたのはそれから約2時間後のことだった。
不定期になると思いますが、
できる限り毎日午後18時ごろに更新する予定です。