サークル
同回生の森山にサークルに行かないかと誘われたのは
1週間ほど前の少し肌寒さの残る明け方だった。
こんな時間に連絡が来るということは
かなり呑んでいると確信。
僕はちゃんと家まで帰れよと言って本気にはしていなかったのだけど、今日行くよな?と森山がすんとした顔で言うので驚いた。
「本気で言ってたのか」
「当たり前じゃないか。電話すぐ切るから本気にしてはいないと思ってたけどな。」
分かっていたなら言ってくれればいいじゃないか
とは思ったが、特に予定も入っていないから森山について行った。
「どうして急に行こうなんて言い出したの」
それはだな、と鼻の穴を開けて話し出すもんだからロクな理由でないことは分かった。
どうやら1回生の時に噂になった美人が
同じサークルであったらしく、ならば見に行こうではないかと意気込んでいるらしい。
「お前は阿呆か。」
「俺が阿呆なのはお前が1番よく知ってるだろ」
それもそうだ。
森山とは中学2年の頃からの付き合いでありこいつがこの大学に来たのは僕でも行けるなら受験が楽そうだからという理由だ。
僕、なんて言う奴は大体秀才なんじゃないかと思うが、あれ僕はそんなことはないらしいと気が付いたのは大学受験の少し前であった。
その頃には既に手遅れだったのは大体想像がつくだろう。
「着いたぞ、どれだどれだ」
各々が目を雑誌に伏せながら、どこのスコーンが美味しいだとかコーヒーはあの店だとか話をしている。
何故僕はカフェテリアサークルに入ったのかといえば、それは押しに弱いからである。
入学式の帰り道サークル入りませんかと言われ断りきれなかったから。
一緒に居た森山も一生分の苦笑いをする僕を面白がって同じサークルに入った。
僕は森山の探している美人には興味が無かったから、空いた席に腰掛けてこれも特に興味のないカフェテリアの雑誌に目を落とした。
断じて格好付けているわけではない。
が、しかし自分が気取っているようで気恥ずかしくなり、そっと雑誌を閉じた。
「好きではないの」
そう話しかけて来た方に目線を向けた。
あぁ、と僕はすとんと何か落ちたように納得していた。
目の前に座っていたのは、
森山が探しに来たという美人であった。