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隣で大人が泣いている。

作者: Dry‐Ice


どんな大人になりたいのだろうか。


いつから大人になるのだろうか。


ある日を境に制服がコスプレになる。

次第に髪が明るくなり、清楚なあの子の香り付きリップに色がつく。

気が付けばつい先日までの私もそうであったはずなのに、通学電車内の女子高生が眩しく愚かに見える。

日が経つにつれ自分自身が違うものに変わっていている気がする。

擦れていっているのか、洗練されているのか。この歳では分からない。

私はまだ子どもだ。

でもそれはいつまでなのだろうか。

無邪気な子どもからは確実に離れていく一方だ。

今よりもっと幼い頃、思い描いていた大人は今の私みたいにこんなにも冷たい生き物だっただろうか。

こんなにも未熟で、利己的で、空っぽだったのだろうか。

大丈夫、まだ時間はある、まだ子どもだ。


だとしたら、二十歳になった途端に器だけが大人になるのだろうか。

うちの両親も学校の先生もバイト先の社員もみんな器だけの子どもだ。

みんな構ってほしくて、みんな他人を少しでも上から見下ろしたい。みんな自分が楽をしたくて責任から逃れたい。みんなみんな他人を否定して自分を正当化したい。

大人って何だろう。境界線は何処だろう。

お金を稼げればいいのだろうか。寂しさに慣れればいいのだろうか。


「コーヒー飲む?」

「すいません、私コーヒー飲めないです。・・・水でも何でもいいです。」

「じゃあココアにしよう。甘いの好きだよね?」

「・・・ありがとうございます。」


まあ、慣れないものには慣れない。このやり取りにも慣れないし、コーヒーの苦みも嫌ったままだ。

そして私はきっとずっと寂しい。


「これ、すごくいい話なんだよね。」


人は自分自身の濁った心を見て見ぬふりをしては、綺麗な映画やドラマを見て泣いている。


ねえ、私ね、人は正しくなくてもいい、綺麗じゃなくていいと思うの。

だから有名な脚本家のシナリオの恋愛ばっかり見てないで隣に座っている私を見てよ。

100円の価値ぐらいしかないだろうけど、いや、寧ろお手頃ですよお兄さん。


大人じゃないから安っぽい感情ぐらいしか抱けない。

あなたに可愛いと思われたくて今日いつもよりちょっと可愛くしてきたんですけど、とか。

独り占めにしたいなんて思ってしまう、大事にするなんて分からない。

寂しがり屋なあなたに一生一緒にいてあげるなんて言えない。だって嘘になるかもしれない。

私だっていつかあなたの綺麗な顔に飽きるかもしれないし、あなただっていつまでも素直で可愛いままでいてくれないかもしれないでしょう。嘘つきにはなりたくないの。

でも今はあなたのダメなところも全部丸ごと好きでいるよ。なんてそんなのじゃダメかな。

「昔子供の頃に見た映画を大人になってから見ると違って感じるんだよ」なんてあなたは言うけれど、昔も今も同じ、やっぱりよく分からない。

おこちゃまな私じゃ大人は分からない。いつから、どうなったら私はそっち側に行けるのだろう。

私とあなたの違いは何だろう。それとも、あなたも私と同じなのかな。


「そんなに泣くとすごいブスになっちゃいますよ。ほら、手で擦らないで。」

・・・ああ、餓鬼のくせに全然可愛くないな、私。


大人になりたくてお酒を飲んだ。これを飲んだところで何が変わるのだろう。

赤いリップが似合うと言われるようになった。でもコップに色移りして汚いんだよな。

就活という言葉が徐々に現実味を帯びてくる。嫌だなあ、まだ働きたくない。

お洒落なカクテルの名前なんて分からない。

私はまだビー玉が入ったラムネに心がときめいてしまう。





お読みいただきありがとうございました。

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