【短編】美少女な生徒会長は、全校生徒に君臨する (2)
書き方の練習中です。
何回か推敲しましたが、読みづらいです。
「私は、一年八組の山吹紅葉です。この度、今学期の生徒会長を勤めさせて頂きます」
全校生徒、1万人もの前で挨拶する。
ここは、宇津魔法高校という私立の学校。三学期制で、期末テストの結果によって生徒会長が決まる不思議な学校。
生徒会長には様々な特権が許されていて、私は史上最速の1学年2学期での生徒会長に就任した。
この学校は、隣接する場所に傘下の企業が、ショッピングモールを展開している。
会長の間は授業が免除される特権があり、他にも傘下のお店で使える金券ポイントが、月6万円分も受け取れる。他にも、学食や購買でもポイントが使える。
成績や文化活動、スポーツなどで結果を残すと、IDカードとなっている学生証に、ポイントがチャージされる仕組みになっている。
演説中にも関わらず、思わず顔がにやけそうになる。
少し後ろには、成績2位で副会長に選ばれた生徒がいて、二年に在籍する最上剣という名前の男子生徒だった。
挨拶が終わり、一礼して下がると、代わりにその生徒が壇上に立つ。
二位の副会長には授業免除はないものの、月2万のポイントが受け取れるので、学生にしたら十分な特典と言えた。
----
私には秘密がある。
それは、前世を覚えていることであり、悲惨に死んだ魔法使いの魂を持っていること。
どうせなら、記憶など戻らなければ良かったのに、死んだままでよかった。
数百年後に生まれてみれば、魔女狩りの過去なんて忘れられ、産業革命と魔法が共存した、歪な世界となっていた。
「最上さん。私の顔に何か?」
「いえ、とても凛々しいなと」
少し顔を赤らめていて、私の顔に不審な点でもあるのか。
傍らに置いてある鏡を見れば、普通の少女が映っている。黒髪で茶色い瞳をしていて、無愛想に目を細めている。
前世と比べれば、私の顔は劣っている。特段、可愛いとも思えない。
「下級生を口説いて、面白いですか?」
「会長はもうちょっと、自信を持っていいですよ」
内心を見透かした言葉をつぶやくのは、最上の隣りにいる女子生徒で、生徒会のメンバーである。
メガネを掛けて優等生然とした二年の先輩であり、名前は三崎愛歌という生徒会書記の少女である。
生徒会の中で書記と会計だけは、実務のトップとしての役割があって、選挙で選ばれる。任期は選挙から1年間。
学校から数百万円のお金を任せられた生徒会は、委員会や部活動への補助、文化祭等のイベントに使う予算配分の権限がある。
企業で言えば、部長や役員にも届きそうなほど、自由な裁量が許されている。
この経験のおかげか、生徒会役員を務めた者は、優秀な卒業生が多かった。学校傘下の企業では、高卒なのに院卒と同じ初任給が貰えたりする。
「会長。初仕事です」
「これは何? 三崎さん」
先輩の三崎さんは、数枚の申請書類を手渡してくる。
そこには、予算の異議申し立てと書かれた紙と、一枚のイベント申請書が入っていた。イベントの名前は『決闘』で、先生のサインが入っている。
「決闘ですか」
「この高校では、会長が矢面に立って、生徒の異議を正します。負ければ便宜を計り、勝てば任期中は多少の無茶を通せます」
少し物騒な名前だけど、ルールが定められたスポーツで、相手を無効化すれば勝ちである。
基本的には、期末試験の科目の一つで、全校生徒でトーナメント式に競いあう魔法実技試験と同じ規則が適用される。
「面白そうですね」
「血気盛んな部活動勢力は、交代時期を狙って挑んできます。特に私用がない限り、一日に4件以上の決闘を受ける必要があって、生徒会の恒例行事です」
学校への不満が、そのまま体制のトップへ向くようになっている。
実力でねじ伏せれば敵を作ることになり、次の任期で会長を降ろされたら、陰湿ないじめを受けそうな構図である。
その為の『授業免除』だとしたら、ある意味で恐ろしい。
「連戦の疲れで、何件か負けることもあるので、気負わなくて大丈夫ですよ」
三崎さんは笑顔を浮かべつつも、どこか品定めするような視線を向けてくる。何かあるらしい。
「負けが多いと、どうなるんです?」
「これを」
そう言うと三崎さんは、唐突にお茶とお菓子を目の前に出してくる。
うん。美味しい。
「これが、何か」
「予算が減ると、生徒会は贅沢ができなくなります」
元々、成果に応じて少しだけ少なめに調整してあって、生徒会が自由に使えるお金が黙認されているという。
あまり露骨だと、生徒会監査の先生が居て指摘されてしまうが、特権の一つだと言う。
「出来れば、負けないでくださいね」
ここは本当に、日本だろうか? と、少しだけ疑わしくなっていた。
日本で生活していた『私』の記憶を探っても、こんな先鋭的な教育を施す学校は知らない。
ある意味では外資系企業に似ていて、成果によって報酬が上がったり、裁量で使える予算が増えたりする。部長とかになれば、子会社を任せられたのと同じ程度の権限と、聞いた事がある。
まるで、学校ではなく会社である。
「では、今日のうちに受けましょうか」
「はい。手続きしておきますね」
---
学校の体育館に立っている。
ギャラリーには生徒会のメンバーが居て、目を向ければ三崎さんが手を振ってくる。
好かれるような態度を取った覚えはないが、三崎さんは人懐っこい性格をしているようだった。
最上さんは、上級生らしい澄ました表情で見下ろしている。
私は、一人の男子生徒と向き合っている。
たしか苗字は遠藤で、この学校の図書委員長だったと思う。
「立会いは、体育教師の白沢晴之が担当する。両者、いいですか?」
「はい」
彼は魔法実技の大会で、準決勝までは出ていたはずだ。文科系の委員長なのに、ばりばりの武闘派である。
実技大会では本気を出さない人も多いけど、実質的には学校のトップ4位に入る実力者でもある。
「殺傷力の高い魔法や武術、後遺症が残るものは禁止。当身によって多少の傷や痣が出来ても、回復魔法が使える者が控えているので、残ることは無いので安心してください」
白沢という教師が、淡々とルール説明をしていく。
終盤になり、横幅が約15メートル、縦28メートルの赤い線を指し示す。
「この赤い線の外側に追い出すか、戦闘不能にすること。床に背中がついた場合も、敗北となります。では……」
視線を交わしながら、私と遠藤さんは頷いた。
「始め」
----
相手との距離は15メートル離れている。
私は鏡を使って、魔法ではなく魔術を使う。
硝子に銀やアルミの鍍金が施された物でも良いし、前世を思い出した私には、左右が反転した鏡像が映るものであれば、何でも構わなかった。
故に、この世界ではメジャーな、氷を作る魔法を使う。
「割れ降る鏡、氷の刃。氷刃――」
呟きながら手を叩くと、氷で出来た鏡が現れる。
本当は恥ずかしい言葉(詠唱)はいらないけど、魔法に見せるために必要なことだった。
私の身長ほどの鏡が出来て、一瞬後には割れて散っていく。やろうと思えば、その破片で相手を攻撃する事も可能だけど、それをすれば反則になる。
一方の遠藤さんは、杖や補助器具を使わずに魔法を発動する私に驚いていた。
珍しくはあるものの、校内で使う者がいない訳ではない。西洋の流れを汲む魔法の一部や、魔術と呼ばれる上位の技術であれば、出来て当たり前だった。
それを見て焦ったのか、遠藤さんは物凄い速度で迫ってくる。普通ではないので、身体能力を上げる魔法を使ったと思われる。
牽制に、僅かに光った風の魔法を発動していて、私めがけて淡い光が飛んでくる。よろめく程度には威力がありそうだった。
「咲き誇れる、万華鏡――」
地面に散らばった鏡が、遠藤さんの魔法を映す。すると、一瞬後には全ての魔法が打ち消され、そよ風が通りすぎていく。
ただし、それだけでは終わらない。
代わりに、鏡から同じ魔法が放たれて、遠藤さんを襲う。
それも、割れた鏡の数だけ。
「え? あ? ちょっと!」
急には止まれない速度でぶつかれば、威力の弱い魔法でも、体勢を崩すことが出来る。
それも、遠藤さんは足元の氷を踏まないよう注意しつつ、中途半端な格好で氷を踏み抜いた。
つるっと滑り、綺麗に背中から着地していた。
「そこまで」
勝負がついて、私は一歩も動くことなく勝利を収めた。
私の戦闘スタイルを知らない者は、大抵この組み合わせで、初見殺しができる。
最速で突撃してくれば、水を使った魔法と、冷気の魔法を組み合わせて動きを止める。
ネズミ捕りに、ネズミが引っかかった気分になるので、とても楽しかった。
----
「お疲れ様です」
「楽勝でしたね」
生徒会室に戻り、三崎さんがお茶を入れてくれる。
お茶菓子もあって、さっき出てきたものより、少しだけ高級感のあるものに変わっていた。
「本格化するのは、これからです。本当は予算に困っていない委員会や部活動から、勝てたらラッキー程度で、小手調べに来るんです」
三崎さんが言うには、次の決闘や魔法実技試験に向けて、皆が結託して情報を引き出していくのだという。伝統行事に乗じて、成績を上げようと企む者が一定数いて、不満のない人たちから順に挑んでくる。
そこには、歪な連帯感があった。
このシステムの画期的なところは、生徒が実社会に近い体験が出来ること。
生徒の成績は公開されて、自分がどの位置にいるかを細かく把握できる。
上がりたければ、努力を工夫する必要があって、無駄な努力は実らないことに悲観する。
トップと中間層のあいだに、近寄りがたい絶壁がある事を痛感し、社会に出る前に打ちひしがれる。
膨大な人数の中から自分を比較するから、小さい集団に対するこだわりは消える。
自由裁量の生徒会は、お金の動かし方を学べるし、トップに君臨し続けることの甘美さを知る。
努力を怠れば、すぐに蹴落とされる危機感を抱くし、失敗の経験はメンタルを強くしてくれる。もちろん、それで崩れる場合もある。
委員会は完全に分業されていて、担当ごとに責任を持つ事を知り、結果が出せないと理不尽な予算が突きつけられる。
規模の大きさから、会計書類を作るのは大変で、人数も多いから連絡方法の重要性が分かる。
一言で表すのなら、趣味が悪い。
現実とは違う、明確な条件が示されている違いはあるけど、高校生から知る必要があるかは疑問だった。
そんな学校だけど、私は好ましく思った。
良い意味で、子供っぽさが消えた環境は、心地よかった。