近いようで遠い現実
息抜きってなんでしょう?
「お姉ちゃ~ん、何があったの!?凄い音したよ!?」
あ、シルが来た。って速っ!?シルの全力疾走速すぎでしょ!?……訓練中は加減してくれてたのね、はははっ。はぁ~、お姉ちゃん落ち込んじゃうなぁ。
「大丈夫だから。ちょっと加減を間違えただけ。……それより、このヒト誰?シルの知り合い?」
一頻り笑った後、何やら思案中らしい黒ローブの男を指差す。本当に、このヒトなんなの?ただ者じゃ無さそうだし………。
「えっ、他に誰かい――っ、何で貴方がここにいるんですか、ま――」
「シルフィーよ、久しぶりだな。壮健そうで何よりだ。それと、ここではそう呼ぶな」
いきなりシルが表情を消した。
何々!?知り合いっぽいけど敵なの?ホントになんなの!?
「………お姉ちゃん、この人は――」
「私は、ジーク・リヒターという。シルフィーの現保護者であり、仕事場の上司でもある」
………この人、他人の台詞盗るの好きだなぁ。
でも、黒ローブを脱いだ素顔は、とてもイケメンだった。それも普通の人なら、即一目惚れするレベルの。
闇のような黒髪に血のように紅い眼。そして、黒い角が二本頭から生えていた。これが"魔人族"ってやつなのかな。
それよりも、今何て言った?シルフィーの保護者?上司?どゆこと……
「む、混乱しているようだな」
「………当たり前でしょう。3ヶ月もこちらに来ず、いきなり保護者だ、何て言われたら誰でも混乱します」
「それもそうか。すまぬな、もっと早く顔を出すべきだった」
「………いえ、それはもういいんですが」
はっ、私は一体。
完全に思考停止してたみたい。……うん、やっと思考がまとまってきた。
「シル、つまりこの人はシルの仕事の上司で、前に言ってた"拾ってくれた人"?」
「うん、そうだよ。もっと早く紹介してればよかったよ。……お姉ちゃんはあまり会わせたくなかったんだけど」
「む、失礼な」
それから暫く彼のことについて質問した。度々、茶化されたり言い淀んだりしてたけど。
「……そっか。この人のお陰で、シルは大きくなれたんだね」
「……うん」
なら、ちゃんとお礼を言わないとだよね。きちんと、相手に向いて、礼儀正しく。
「今までシルがお世話になっていたようで。ありがとうございます」
「いや、構わん。こちらとてシルフィーには助けられている」
「それでもお礼を言わせてください。ありがとうございました」
「………」
ん?私、なにか変なこといったかな?
「くくくっ、貴様本当に子供か?それも、まともに勉学など出来なかった筈の。………なるほどな、シルフィーが拘るわけだ」
………馬鹿にされてるのかな?
でも、そんな感じじゃないし。どういう意味かな。
「シルフィーよ、この娘……貴様の姉は使えるのか?どうなんだ」
「………私より凄いですよ。なんたって、自慢の姉ですから」
「そうか、先の魔導兵器と言い、実に面白いな!」
なるほど、私は値踏みされてたわけか。
まあ、仕方ないよね。実力主義だって言ってたもんね。
………それよりその満面の笑みは止めてください、恐いだけです。
「それよりシルフィーよ。少し手伝ってやれ。姉殿は、人に向かって試したいだろう?」
「お姉ちゃん?」
「………シル、お願い」
「わかった」
シルに攻撃するのはちょっと嫌だけど、この際仕方ない。少しだけ我慢してね。
五十メートルほど、シルは離れ、抜剣する。
今回は、居合じゃないんだ。シルなりの手加減かな?
「いくよ!シルフィー!」
「………うん」
痛いほどシルが集中していることが伝わってくる。
全く隙がない。中段に構えられた反りを持つ独特な長剣がどこから攻撃しようと反撃してきそうな雰囲気を纏っている。
なら!
貫通は危険過ぎるから先ずは、速度重視の衝撃弾!
パシュシュシュッ
今出来る最大連射三連!
着弾時に衝撃を撒き散らす弓矢の百倍近い速度を誇る小さな魔力弾がシルへと向かう。だが……。
パンッ
音は一回。けれども、炸裂した衝撃波は三度。一瞬で、シルが三発もの魔弾を切り裂いたのだと遅ればせながら気づく。
「………終わり?」
「まだまだ!」
今度は、時間差をつけて放つ。
操作性を重視した拡散弾を三連射!放たれた魔弾が実に百数十発に分散し、その一つ一つを速度、射線、威力全てを遠隔操作出来る!今まだ、速度と射線、それも一部だけ。だけど近い内にマスターして見せる!
「ッ!」
弾丸が全方位から殺到するなか、シルは納刀した。確実に。
「疾ッ!!」
一瞬。一瞬だった。
瞬きする時間ほどもない短い時間の内に、シルは百数十発全てを叩き落としていた。
「………やっぱり届かないかぁ」
我ながら、気弱な声が漏れる。
十年、シルとの間にある溝は深く大きかった。
「リヒター様!勝手な行動は慎んでいただきたいとあれほど申していたでしょう!」
「む、すまぬ。つい面白そうだったものでな。以後気を付けるとしよう」
「そうしてください。………っと、大変失礼いたしました。私、リヒター様の従者を勤めておりますファーフル申します。以後お見知りおきを」
ほへー。
はっ、思わず見惚れてしまった。格好いいおじ様だなぁ。
燕尾服を着こなした五十~六十歳ほどの大柄な男性だ。特徴的な基本は黒だが先端にいくほど焔のような赤色になる長髪を後ろでまとめている。本当に、執事って感じに人だ。
「あ、えっと、カレンです。こちらこそ?」
「はい。………シルフィー殿、お祝い申し上げます。本当であれば、もう少し早く言いたかったところですが」
「あ、いえいえ、ありがとうございます。………リヒター様がお忙しいのは知っていますから」
「………おい、シルフィーよ、私とファフで態度が違いすぎないか?一応、貴様の上司で保護者なのだが?」
「………ご冗談を」
一瞬で殺気が飛び交う空間に早変わりしていた。し、シルフィー、笑って笑って。お姉ちゃんは、笑った貴女が好きよぉ。
「………ふん、まあいい。で、姉殿。他にはないのか?先程のようなモノは」
「む?何かあったのですか?」
「ああ、実に面白いものを造っていた!」
………どうしよう。あるにはある。
けどあれは、試作品な上に、ちょっと――
「………あるにはあります。ですが、威力が高過ぎて使えないです」
「………ふむ。なら、私に向かって射つがいい。なに、心配はいらぬぞ」
なに言ってんだ、この人?
「何を仰っているのです!その様なこと、させられるはずがございません!シルフィーからも、なにか言って下さい!」
「お、お姉ちゃん。そんなの大丈夫なの!?」
「シルフィー!?」
シル、ファーフルさん驚いてるよ。少しは、手伝ってあげなさいよ。………でも、試し射ち出来るなら!
「安全は保証出来ませんよ?」
「構わん!早く準備しろ」
もうどうなっても知らないよ!?
一応、持ってきていた金属の塊とでも言うべき代物に手を伸ばす。
全長一.五メートルにもなる"コレ"の超大型版。しかし、明確な違いがある。それは、"実弾式"という事。
これには、金属筒の内部に螺旋状の溝を彫り、特殊な形状をした約十四センチほどの巨大な弾丸を込める機構がある。ゴーアンさん曰く、"ボルト(遊底)"というらしい部品を引き、そこから弾を込める。
そして、もう一つ。これに魔弾を作る仕組みはない。代わりに、電気を纏う仕組みがある。
バチバチバチ
帯電を始める金属筒。ここからが、本番だ。
「魔力充填40パーセント。"電磁仮想レール"伸展開始。………70、80、85」
「………ほう。面白い!実に面白いぞ!人間風情が!もっと、もっと我を楽しませろ!」
なんかおかしなテンションになってる大声が聴こえるが無視だ、無視。今気にしてる余裕はない。一歩間違えば暴発は必至だから。
「充填率120パーセント。仮想レール伸展完了!」
今出来る私の全力!
シルフィーに、自慢の妹に見せつける!
「発射ぁぁぁああああ!!」
「ッ!?」
ドガァーン。
空気を焦がす臭いと、空気を叩き突き抜ける音がした。恐らくは、音の速度等遥かに越えているであろう一筋の閃光が百メートルなどという距離を瞬く間に食い潰し、リヒターさんへと届く。
そして、自分の目が信じられなくなった。
一瞬にして現れた黒塗りの長槍。そして、下から上へと一閃した。結果は………
「嘘……でしょ」
「………………」
シルは口を押さえ、ファーフルさんは驚き絶句していた。どちらへの反応かは判らなかったけど。
「く、くくくっ。はははっ!いい、良いぞ!実にいい見世物だった!私も久々に熱くなったわ!」
音速すら越えた閃光を、真ッ二つにしてのけたリヒターさんが笑う。高らかに。
「………………これでも届かないのかぁ。ああ、遠いなぁ」
魔力切れを起こし、そこで私は意識を手放した。
1日クオリティです。
この世界ではまだ、"銃"という概念がないので描写が回りくどかったりわかりづらいですがご容赦ください。
でも、大砲はあるんですよねぇ。砲身位なら書いてもよかったかもですね。………ここはカレン達がその名称を知らなかったという事で(;・∀・)
銃のスペック等は、あまり深く考えていません。あくまで、メインで使う予定のを引っ張ってきただけなので。弾速や重量などは異世界クオリティっという事で見逃してつかぁさい(´・ω・`)