変わり者の住む屋敷 一日目
また、書いてしまった。
つい筆が進んでしまったんだ。
外に出て最初に目に映ったのは、森だった。それも、かなり鬱蒼としたやつ。後ろを見れば、何かの遺跡と見間違えそうなほど蔦や草木に覆われた建物。私達が、さっきまで居たところだ。
本当に、此処どの辺りなんだろう。私は、記憶無いし聞いても解らないけどね!
しかし、夜なのか。シルは、一体どれだけの時間あそこに居たんだろう。私のため、って判ってる分心が痛い。
「少し歩くけど、大丈夫?」
「どのくらい?」
「う~ん、ゆっくりで30分位かな。私が借りてる家があるんだ」
三十分位なら、大丈夫かな。獣道みたいとはいえ、一応、整備された道みたいだし。けど、シルには申し訳ないなぁ。私のせいで、ゆっくり歩かないといけないんだし。
「大丈夫だよ。ごめんね、早速足手まといで……」
「そんなこと思ってないよ。辛かったら頼ってね。私、お姉ちゃん位なら抱いて走れるから」
……それは、恥ずかしいから最後の手段かな。特に、今のシルに抱かれるとなにされるかわかんない恐怖があるから。
そろそろ十五分位たったかな?ちょっと疲れてきた。
シルと身長がかなり違うから、歩く早さが全然違うんだよね。これでも、大分抑えてくれてるみたいだから、十年ってやっぱり長いんだね。
「そういえば、お姉ちゃん記憶無いんだよね?それって、どのくらい?」
唐突だなぁ。前にも言った気がするけど、まあいっか。隠すほどの事でもないしね。
「残念なことに自分の名前とシルの事位しか覚えてないよ」
これ本当。本当の事だから!過去に何があったとか、この世界の事とかは勿論、自分の生まれの事すら覚えてないもん。ある意味、喋れてるのは奇跡みたいなものだね。
「……それじゃあ、お姉ちゃんは昔使ってた"魔法"とか全く覚えてないんだ」
「"魔法"?何、それ?私、使えてたの?」
「うん。凄かったんだよ。お姉ちゃんのお陰で、水と火だけは困らなかったし、お陰で動物にも襲われにくかったしね」
……全く覚えがございません。魔法って、火とか水出せるの!?そしてそれを私、使ってたの!?
「ごめんね。全然覚えてないや。今は使えないかな」
「ううん、いいの。こっちこそごめんね。お姉ちゃんにとって、嫌なこと聞いて。でも一応、確認しときたかったんだ」
「どうして?」
「ちょっと、今私が働いてる所が、実力主義みたいなところがあって……」
ああ~。なるほど、それは大事なことだね。最悪、足手まといにしかならない私は居られないって事だもんね。……シルと離れて暮らしていけるのかな、私。絶対無理だね。
「ごめんね……」
「?どうして謝るの、お姉ちゃん。気にしなくても大丈夫だよ」
?何でそう言いきれるんだろう。別にシルの事を信用してない訳じゃなくて、気にしなくてもいいって理由が、私には分からないからだけど。
「だって、私強くなったんだから。結構偉い立場なんだよ?私って」
あ、そういうことですか。なるほど。……それはそれで、シルに申し訳ないよ。姉としての、威厳なんてもう有って無いようなものだね。元から無かったと思うけど。
「あ、見えてきたね。あれが、今私が暮らしてる家だよ」
おお~!予想以上に大きかった!想像の三倍くらい?豪邸なんじゃないのかな。
「シル、何部屋くらいあるの?結構大きいよ!?」
「う~ん、数えたこと無いからわからないよ。でも、お姉ちゃんのお部屋くらい余裕であるよ」
でしょうね!森の中とはいえ、家の周りはしっかり整備されてるし、三階建てくらいに見えるもん。庭もありそう。
「あ、庭もあるよ。そこそこ広いから、自分の部屋と同じで好きに使ってね」
やっぱりあるんですね、ヤッター(棒)。
本当に、十年間でシルに何があったのか気になってくるよ。危ないことしてないよね?お姉ちゃん心配になってきたよ。
「し、シル?本当に、此処に住んでるの?」
「そうだよ?……信じてくれないの、お姉ちゃん」
怖い!笑顔で、声低くしないでぇ~!
信じてる、シルの事は信じてるから!だから、やめてぇ~!?
「嘘だとは思ってないよ。ただ、お姉ちゃんはシルの事が心配なだけだよ。危ないことしてたんじゃないかって……」
「ごめんなさい。でも、大丈夫だから。そんな危ないことしてないから、安心して」
「わかったよ、信じてるからね。……だから、早くお姉ちゃんの部屋を教えて?」
「あ、ごめん。ちょっと待ってね。すぐ案内するから。……でも、同居人には覚悟しててね」
ッ!?同居人なんかいるの!?男の人!?何人いるの!?シルとはどんな関係!?すっごい気になる!
「男の人もいるけど、変な人ばっかりだよ。私含めて、たった4人だし」
あ、良かった。どうやらそっち系の関係じゃなさそう。"変な人"ってのが気になるけどね。
シルが、大きな玄関のドアを開けた瞬間、上からドタドタと走り降りてくる音が聞こえた。例の同居人の人かな。
「…………」
し、シルさん?無表情怖いよ?さっきまでの笑顔はどこ行ったの。
「シルフィー!何処行っとったんじゃ!探したぞ」
「あ~、ごめんなさい。オーウェン様」
「謝罪なんぞ、いらん。そんなことより実験に付き合っておくれ。ちょうど新しい魔法ができたんじゃ!」
偉い人……なのかな?シルが「オーウェン"様"」って言ってたし。にしてもなんなんだろ、このチビッ子、耳尖ってるし。でも、白髪に翠眼で綺麗な娘だなぁ。って、私も子供だった。
「ん?シルフィーよ、その娘はなんじゃ?」
「あ、紹介します。私の姉のカレンお姉ちゃんです。お姉ちゃん、こちらの人は、オーウェン・メイザース様。エルフの凄い魔女なの」
「死霊術士じゃ!……そうか、お主がシルフィーの姉か。よく目覚められたのう。まあ、此処で生活するのであればよろしくたのむのう」
勝手に、話が進んじゃった。それに、エルフって何?死霊術士ってなに!?偉くて凄い人ってのはわかったんだけど。
「……シル」
「えっと、エルフってのは魔法に強い適性を持った種族で、死霊術士は、死者を使役する事に特化した魔法を使う魔法使いの事だよ」
流石シル!私の聞きたい事を察して答えてくれるなんて‼
「なんじゃ、エルフも知らんのか?最初会った時のシルフィーは、既に知っておったのじゃがな」
「あ、えっと、私記憶がないんです。自分の名前とシルの事以外全く」
「……そうじゃったか。何か困ったことがあったら頼ってくれて構わん。老人は老人なりに役に立つのでな」
同情のような目を向けられてしまった。別に、なんとも思ってないんだけどなぁ。シルと一緒に居られればどうでもいいし。でも、一応お礼は言っておくべきだよね。
「……ありがとうございます」
「うむ、一人変わった弟子がおるが、其奴とも仲良くしてやっておくれ」
「……はい。何かあったら、相談させてもらいます」
それだけ言うと、自分の部屋に戻ってしまった。実験が途中だったんだとかなんとか。
あと、二人も変わった人がいるのか……。それも、内一人はオーウェンさんの弟子らしい。
「お姉ちゃんの部屋は、三階の大部屋だよ。私の隣だから安心してね」
うん、ちっとも安心できないや。主に、夜這い的な意味で。
少し、夜中は警戒しなきゃいけないかな。……こんなんで、大丈夫なのだろうか。
そして、オーウェンさんがいた間ずっとシルは無表情だった。その事に、オーウェンさんは反応してなかった。見慣れた光景のように……。
やっぱりお姉ちゃんは、シルの事が心配だよ。
あくまで息抜きですので短くてもご了承下さい。
それと、今回出てこなかったあと二人は後程出てきます。