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前編

人間はオレ達を崇める存在として、または恐怖の存在として都合のいい様に呼称する。

オレ達を創造した我が君は人間を愛し憎んでいる、その相反する感情でオレ達に何もない空間でもっとも醜い化け物を大量に創り出させ人間の国に攻め込ませる作業をさせる。オレが創られた頃にはもうこの作業はされていた。いつ攻めてくるか分からない化け物に人間は挑み続け、怯えているだけではなく、勇敢に立ち向かってくる。人間は老いて死ぬ、オレ達は老ないし寿命もない、創られた時は青年の姿、名前は最初に頭に浮ぶ。我が君は見た事もないがオレ達の創造主、人間の創造主ではない。我が君自身は別の創造主から創り出されたのか、同じなのかは分からない。ただオレ達は満足な創りではないようだ、黒い髪と黒い瞳、似たような容姿に男女とも創られ感情が乏しい。だからこそ感情豊かな人間に魅かれる。度々人間に接触する仲間がいるが、我が君はオレ達が人間と親密になるのを許さなかった。だからここから消され、寿命がなくても簡単に終われる。




「どこ行くんだ?ヴェント」


アノンに不意に呼び止められた。


「ちょっと外に。」


アノンとは長い付き合いの仲間でありここにオレが創られた前からいる奴だ。


「また人間のところか?あまり近づくなよ、お前が我が君のお気に入りだとしても、消されるぞ。」


お気に入り、何故だかこいつから聞かされてはいるが、会った事もないのに何故だろうか?創りが良かったのかもしれないな。この空間で化け物ばかり作るのも、ここから人間を眺めるだけも、飽きていた。だからちょくちょく動物に姿を変えては人間を観察している。


「親密にならなきゃいいんだろ?」


「俺は過去何度もそう言って消された仲間を散々見てきたがな。だから俺はここを出ない。」


毎回出かけるたびに念を押すように言う。お前はすごいよな、この暗い空間に永遠にいられると思ってるなんて。見かける奴が急にいなくなる事は何度もあった。アノンの様に直接消された所をみた事はないが、きっとそうなんだろう。


「毎回心配してくれてありがとな。」


手を軽く振り、人間の世界に降り立つ。毎回動物の姿になり景色や人間観察をする。今回は鹿になりひっそりとした森の湖に来ている。城近くは人が多いので、あまり好かないが鳥や犬になる事が多い。森の中はたまに人に遭遇するくらいで、接するタイミングもないから、あいつが心配する様な事はない。自然という奇跡の大地を創り上げるこの世界は我が君が嫉妬する要因の1つである。湖の水は透き通っており、本来の姿で水浴びをたまにしている。今日も鹿の姿から人の姿に戻り水の気持ち良さを堪能していた。


ガサッ


「!」


人の気配だ。まさかこんな近くにいるとは思わなかった。どうして気づかなかったのだろう。鹿の姿に戻るにはもう遅い。


「誰かいるのか?」


自ら先に声をかける。


木陰から青年が出て来た。きっとオレ達が創り出した化け物と戦う人間だろうか装備はしてないが、短髪茶色で身体がガッチリしている。だが、爽やかな印象だ。


「すまない。隠れて見る事はしたくなかったのだが、ついつい魅入ってしまって。」


「男にか?」


「ああ。黒い髪と黒い瞳の人種は見た事がない。どこの国の者だ?」


どこの国か、そんなものないが適当に答えておくか。


「旅をしている。国はどこにも属さない。」


「旅か、いいな。すまない、職業柄ついつい質問してしまって。今日は休暇なのにな。」


木漏れ日の中で豪快に笑う男はオレにとって新鮮だった。感情があり、表情があり、人間はオレ達にないのもがある。間近でみるとすごい迫力だ。


「もしかして、気を悪くしたか?」


「いや、すごい笑い方だと思って。オレは感情というものが欠落しているから、羨ましいよ。」


男は顎に手をかけてにっこり笑ってオレを見た。


「いろんな人間がいるからな。あっ、そうだこの国にいる間にお前を笑わせてやるよ!」


唐突な男の思いつきにオレは言葉をなくした。


「なんだ、唖然とした顔してるな。俺の名前はクラルテ。お前は?」


「ヴェント」


「ヴェントか。よろしくな。」


何がよろしくなのか。このクラルテという人間の男、結構図々しい感じだ。だが感情というものが豊かそうだと思うと、少し気になる。ある程度距離を置いて少しの間ならいいだろう。


「ここにいる間は、どこに泊まってるんだ?」


「さあな。オレに会いたければここに来い。いるか、いないかは別だが。」


「そうか、分かったよ。仕事がない日にちょくちょく来るからな。長期戦だなこれは。」


男は深くオレの事情を聞かなかった。あっさりとしたものだ。


「だが、お前はこの国に化け物が攻めて来ることは知っているか?」


オレ達が創っているからなとは言えないが、


「知ってる。」


「ならいい。化け物達はいつ襲ってくるか分からないから気を付けろよ。」


「ああ、忠告感謝する。」


じゃあな、と手を振りオレはその場を去った。長い時を過ごしてきたが、人間とは初めて喋った。ここにオレが二度と来なければあの男に会う事もないだろう。だが予感だけはあった、あの男とはこの先何度か会うのだろうと。


1end

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