第七話 ゴブリン
昨日「勉強しないと勉強しないと勉強しないと勉強しn……校長かっけぇ……」
的ななにかがあったらしい。
川沿いを下流に向かって歩いていた俺は、この世界に来て初めて、別の存在の気配を感じた。
[気配察知]のスキルは持っていなかったはずだが、気配を知られると困る[隠密]やその他戦闘系スキルに僅かばかりその効果があるようで。
モンスターがいる世界なので、そのうちスキルに頼らない完全な勘で感じることが出来るようにならないといけない気がする。習得は遥か先になりそうだが………
ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。
スキルが多重発動した場合、重複した効果は重ね掛けされるが全てではない。
例えば10の効果を出すスキルが多重発動した場合、重複して発揮される効果はせいぜい11〜12程度にしかならない。完全に重複効果がゼロじゃないだけマシである。
今は多分10が15になって1.5倍と言うことになるが、そもそものスキルレベルが1で、デフォルトの効果が少ないためさして変わらない。ボールを投げられる距離が10mから1.5倍されたところで15mも短いのと同じだ。
今回も大体ヘルプの受け売り。
そういうわけで、この低スペックでも気配がわかるということは、視認こそ出来ないがかなり近い場所にそれがいるということだ。
対岸は森で、十分見えない。川の幅を引いても先程の計算で気配を察知出来る範囲に森も入っている。
俺は足を止めて、川の奥の森に目を凝らした。
こちら側は草の高さも低い緩やかな丘だ。気づいているならとっくに見えている。
俺は第一村人ならぬ第一生物の邂逅を果たすため、その場で神経を研ぎ澄ました。予想のハズレだった場合に盛大に無駄になるだろう程。
1分もしないうちに、そいつは現れた。
森の茂みの中から、周囲を、特にそいつがいる側の川岸を気にしている様にして出てきた存在。
深緑の体色、醜くゴテゴテな顔、身長は低く、口からは短い牙。法令遵守の如く腰周りにだけ巻かれた布。そう、モンスターの代名詞、ゴブリンである。
見ただけですぐわかる様な姿だが、一応ヘルプで解説を聞いておく。
《ゴブリン:世界中のどこにでもいるモンスター。自分より強い相手に対して逃げるを選択する程度はあるがほとんど無いに等しい知能をもつ。多少鍛えた人間だと撃退出来る程度に弱く、対モンスター戦においては入門的存在である。弱い代わりに個体数が多いが知能の低さ故、上位種に統括されていない場合は単体で行動する。そのため更に撃退は容易とされている。》
要するにドが付くほどの雑魚。ということらしい。どの世界でも大体変わらない。
周囲に別の気配はない。完全に単体で行動している。
そしてまだこちらに気づかない。俺が隠密スキルを意識しながら動かず息をひそめているからとはいってもLv1。自分がいる側の川岸気にしすぎてこっちをまるで見ていない。
……あのー、ゴブリンとかモンスターってやっちゃっていいんですよね?
《モンスターは基本的に討伐対象です。今回のパターンも倒して罪に問われることはありません》
ヘルプからもGOサイン。いっちょやりますか。
まずはどうやって倒すかだ。未だに川岸を気にしているご様子。一体何が気になるんだよなにもないだろ……
で、現在俺が持ち合わせている攻撃手段は幾つかある。ただし、考えて却下したりとあっちがこっちの存在にまーだ気づかないことをいい事に考える。
・川を渡って近接戦闘……武器がないし素手?嫌だし安全性が足りない。却下。
・魔法を撃ち込む……属性どうする?↓
・火魔法……川岸だから入られたら即消火。消し炭にするのもありだが後ろが森。どのみち却下。
・水魔法……水球撃ち込んでも効果少なそう。無理矢理溺死させる?そんな制御今は無理だから却下。
・土魔法……砲弾の様に土塊を撃つ?ありだな。
・風魔法……風でどうやるんだ?エアカッターなんて怖いし制御無理だし。腰周りの布揺らしてどうするんだよ以下精神上良くない。
・闇魔法・光魔法……どうすんの?
etc……………
結論、土魔法が現状一番。物理攻撃ってなったらやっぱこれが一番だよね。
というわけでお馴染み初級魔法の球シリーズ。雷属性とかの場合は纏める方が大変だから中級だが、大体は初級の球シリーズ。
ちゃっかり練習していた為に無詠唱のスキルレベルが8になっており、もう初級は無詠唱でもパパッと行使出来るようで、完全無言でも発動出来る。というか無詠唱のレベルアップによる効果が、『無詠唱(魔法名だけ名乗る。Lv6になったら初級魔法では必要なくなった)→無言→発動までのタイムラグ短縮&別の会話をしつつの行使→激しい運動or難解作業時の並行発動』というプロセスを辿るらしく、初級魔法に関してはもう使い慣れた。
因みに、[詠唱短縮Lv11]の効果も併用されているようで、無詠唱オンリーならまだここまで出来ない模様。スキル積みまくりスゲー。
話を戻して現在の状況。
ようやく安全確認が終わったのか、ゴブリンは川に手を入れて洗っている?というか涼んでいるようだ。
そして距離約10m。気づいていて置物扱いなのか、ホントにわかってないバカなのか。世の中のゴブリン全部コレだったとしてよく絶滅しないなぁ……。
《個体数が多く、更に個体数回復が早いためです。なお今回のゴブリンは特に馬鹿のようです。五感がかなり鈍いようです》
いやまぁ、そうゆうことだろうとは思ってたけどさ……そしてヘルプ認定の馬鹿宣言。すまんゴブリン、危うく全員こんな感じだと誤解するとこだった。
今度こそ攻撃だ。
土球を自分の腹付近に生成。なるべく速く、鋭く、そして狙いは頭。心臓でもいいのだが、感覚鈍すぎてなにするかわからないという危機感を持ったのでそもそもの指示系統ぶっ壊そうという発想だ。大丈夫、グロ耐性は覚悟を決めた。
スタンバイ完了………発射!
ヒュッ──ドパッ。バタッ……………
発射成功。ターゲット撃破確認。
ザッとスナイパーっぽく実況したが実際の距離は10m程。射出したらすぐ相手の額を貫通するどころか、鋭さが足りずそのまま頭を吹き飛ばしてしまった。予想はしてたが吹き飛ぶ瞬間を見ていた為に覚悟が揺らぎかけた。
首から下はその場で倒れ、首元から血を流している。心臓がまだ仕事をしているようだが、人間と構造がさして変わらないのでじきに……あ、止まったっぽい。
ところでコレ………処理どうすんの?
《冒険者ならば討伐確認部位。ゴブリンの場合は右耳もしくは魔石を確保すればギルドにて換金出来ます。放置していても頭が吹き飛んでいるため、アンデッド化はしませんが腐食します。別のモンスターが食べに来る可能性が高いので焼却して埋めるのがベストですが、モンスターに任せて場所を移動するのも手段としての一つです》
……………放置で。
こちらの被害はゼロ。強いて言うならMPが15程消費された。鋭さとか速さを考えて変化させたからだと思うが、3倍か。まぁ追々考えていく方針で。
ステータスにも流石に雑魚過ぎたのかレベルが1から2に上がりすらしない。はじめての戦闘でもなんでもないな………
そして俺はゴブリンの死体を一弊した後、川の下流へ再び歩を進め、その場を後にするのであった。
尤も、コイツがビビりにビビりまくって恐れていたア(・)イ(・)ツ(・)が居たのは確かだが、その時にそこにはいなかったのも確か。この後しばらくしないうちに、俺はそれを知ることになるのだった……………。
詳しくは活動報告にて。
23時頃の出来事に関しては共感出来るはず……え?そんなことない?そうですかすみませんm(_ _)m