戦争都市ワルツ
あるところに、ワルツという街がありました。
ワルツは住民同士、あるいは他の街と戦争ばかりしている危険な街です。
ワルツの人々の誰しもが武器を持ち、戦うために武器を作り、戦うために武器を売り、売ったお金でまた武器を作り、武器を使うために戦う、その繰り返しです。
世界中の街が、ワルツは恐ろしい街だと言って関わろうとしません。
世界中の人々が悲鳴をあげて指を差しても、ワルツの人々は戦いつづけました。
遊び半分で誰かを脅かして撃った銃弾が見知らぬ誰かに当たり、出来心で振り上げた剣が重くて自分を切り裂いたり、毎日どこかで爆発音がし、毎日が死との共生である、そんな街でも、外からやって来る人々がいます。
ある人は帰る家やふるさとをなくして、またある人は夢破れて絶望して、またある人は死にたくて。
彼らは生きる気力をなくし、そして自力で死ぬ勇気もなく、きっといつか誰かに殺されて死ぬだろうと思ってやってくるのです。
しかしワルツに来たからには武器を持たされます。
年老いた者には銃を、年若い者には剣を、そうでない者には爆弾を。
武器を持たされても、使うことはないだろうと彼らは思います。
何故なら、ワルツに来た理由は、少なくとも戦うためではないからです。
彼らは武器を手にとぼとぼと街をさまよいました。
すると、どこからともなく爆発音がし、彼らの内の誰かが銃弾を受けて怪我をしました。
急いで近くの建物の影に隠れ、狙撃者から身を潜めました。
そして、近づいてくる足音に耳を澄まし、人影が見えてきた頃、彼らの内の一人が、ばっと飛び出すのと同時に持っていた銃を発砲しました。
それは見事に命中し、相手は倒れて死んでしまったようです。
拳を作って、
「よし」
と言いました。
最初は決して人に見つからないよう、物陰に隠れながら移動していた彼らでしたが、次第に、戦争の街ワルツが実のところ恐ろしい街ではないのではと感じてきてしまいました。
人々が戦争をするせいで、あちこちに火薬の臭いが蔓延し、銃痕や刃物の跡だらけの建物ばかりでしたが、人が住んでる家もあるし、食事をとれるお店もあります。
人々も、誰彼かまわず襲っているわけではなそうで、彼らは安心しました。
あんなにも生きることに絶望して、そのうち誰かが殺してくれることを期待していた彼らは、すっかりワルツの街になじみ、生きることよりも死ぬことよりも、次はさてどんな戦い方をしようかと考える日々を送っています。
どれだけ生きたくなくなった彼らも、一思いに死ぬよりも死ぬかもしれないという恐怖に会い、戦いに勝てば死なないと思ったのでしょう。
生きることも死ぬこともつらい彼らは、戦うことにしたのです。
そうしてワルツの人々は、今でも戦争をしています。