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オレンジ

「外が明るくなってきたね」


長い夜があけた。


小さなアパートの一室に光が差し込む。

彼女は窓をあけて、どこからか聞こえる鳥のさえずりに聞き耳をたてていた。


特別な朝であるのに、彼女は何百回と繰り返された朝の日常をいつも通りに振る舞っているようだった。


「ねぇ、いよいよだね。」


彼女は無駄に明るい声色で、外の方を見ながら会話を求めた。

僕は、そうだね、と短く返事をする。


家具がほとんど無いこの小さな部屋で、沈黙が続いた。


正直、楽しく会話をしようなどという気持ちにはなれなかった。



椅子が一脚、それと手錠。ただそれだけがこの部屋にあった。この部屋で僕と彼女は1つの夜を越える必要があった。


「もう時間ね……」

「ああ、時間だ……」


僕は手錠を彼女に手渡すと、部屋の真ん中に置いてある椅子に沈み込むように腰をかけた。


「これで、君は僕の”監視人”だ…」


僕は両手を前に出した。

彼女は手錠を、まるで宝石の付いた綺麗なアクセサリーを持つかのようにして取り出し、丁寧に僕の両手首にあてがった。


そして持っていた小さな鍵をゆっくり鍵穴に差し込み、こぎみ良い金属音と共に、鍵をかけた。


「これで、終わり……」


彼女はそう言って、小さなその鍵を僕の目の前にひらひらさせた。

そして、小さな手でその鍵を包み込むと、そのまま両手を口に近づ、鍵を口の中に流し込み、思い切ったようにしてそれを飲み込んだ。


うす暗い部屋の中に光が淡く差し込んできていて、ほこりまみれの畳に薄い陰影をつけていた。畳の上を歩く彼女の足のまわりはわずかに埃が舞い上がったりして、まるで雲の上を優雅に歩いているようだった。


そんな事を考えていると、ドアが乱暴にたたかれた。そしてこの四畳一間の小さな部屋にその怒声が響きわたった。

「5秒以内にドアをあけなさい。あなたは、重大な罪をおかそうとしている」

彼らは拡声器かなんかを使っているようだった。


僕は覚悟ができていた。


しばらくして、ドアは強引に破られ、オレンジ色の服に身を包んだ男たちが、実に整然とした顔でなだれこんできた。そして、彼女の周りをぐるりと取り囲むと、息を合わせたように彼女の両腕を捕え、そして乱暴がさも当たり前かのように全身を拘束した。


彼女は声も上げずに、ただ粛々とそのオレンジの言うがままであり、ついには目隠しをされてしまい僕に一瞥もくれることもできなくなってしまった。


それでも僕はその痛々しい姿を、目をそらすことなく見続けていた。オレンジはただ淡々と作業を進めて、突入されてから一息もつかぬ段取りで、とうとう彼女を連行する段取りに移った。


オレンジ達は、まるでそれが人間だとは到底理解していない手つきで数人がかりで持ち上げ、そして僕の部屋から連れ出していった。担ぎ出される彼女は毅然としていて、口元は少し笑っているように見えた。連れ出したオレンジに続いて他の奴らも部屋から退散し、まるで嵐が通り過ぎたかのように部屋は閑散とした。そしてただ手錠をした僕だけが部屋の椅子に残された。




それから、数時間。町の中心の方から鉄砲がなるのが聞こえた。

その直後、人々の大きな湧き上がる声、おそらく歓声の類の声が、わずかに聞き取れた。


彼女は処刑されたのだ。

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