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勇者が魔王を倒した後

作者: 秋月都市
掲載日:2015/11/08

この作品は、日本一ソフトウェアの勇者死すというゲームのティザーサイトにあった

「RPGにおいて主人公である勇者がラスボスの魔王を倒した後の世界について想像してみてほしい」

というのを見た時に思いついてツイッターに書いたネタを短編小説にしたものです。

 俺の目の前に魔王が倒れている。

 瀕死の重傷であり、息も絶え絶えだ。

 仲間たちは皆、手を出すことなく俺に視線を投げかけている。

 最後は皆のリーダーである俺にやらせるべきだと考えているようだ。


「これで終わりだ、魔王。なにか言い残すことはあるか?」


「―――――――――」







 生まれ育った村に伝わる伝説の剣、それを抜いた俺は伝説の勇者の力を継ぐ者らしかった。

 そして王城まで呼び出された俺は、王様直々に魔族の長である魔王を討つことを命じられたのだ。

 魔物に掌握された村を救ったり、洞窟に潜む強大な魔物を倒していく旅は長く険しいものだったが、充実した日々でもあった。

 旅の道中では、武闘家、魔法使い、僧侶という心強い三人の仲間に出会うことも出来た。

 そして長い旅の末、俺たちはついに魔王を討ち倒し平和を勝ち取った。




 それから五年後。

 武闘家と魔法使いが結婚するという話を最初に聞いた時は、ほんとうに驚いた。

 あの二人は性格もなにもかも正反対だったし、意見が衝突することも多々あったように俺は感じる。

 それでも、武闘家が釣り上げた魚をそのままかじっているのを見た、魔法使いの驚いた顔と微笑みなどを思い出すと、やはりお似合いの二人だったと思える。


 僧侶は、魔族との戦いで傷付いた人々のため、また旅を始めたそうだ。

 各地で人々の傷を癒やしたり、呪いを解くため祈りを捧げたりなどをしていると聞いている。

 なんともあいつらしいと、話を聞くたび笑みが溢れるものだった。


 そして俺は、魔王との戦いの後王様に雇われた。

 王様の近衛騎士団の団長としてだ。

 魔王を倒してからの5年、騎士団の連中に稽古をつけたり反抗的な魔族の残党を始末したり、あの一年ほどではないがそこそこ満たされた生活を送っていた。




 あれから世の中も大きく変わった。

 魔族たちの多くは人間に降伏し、奴隷として働いている。

 鉱山や鍛冶屋など、危険な力仕事などでは重宝がられているらしい。

 それとダークエルフやハーピーなど、見た目の美しいメスの魔族専門の娼館もあるらしかった。

 俺は金をもらっても魔族の女など抱く気にはならないが、世の中には物好きが居るらしく儲かっているらしかった。

 それと、魔族との戦いではごく少数だった、魔族との共存を訴える奴やリベラル派がここ最近活発化していた。

 それらは王国の上層部にまで入り込んでいるらしく、魔族の人権擁立や戦後補償などを実現させようとしているそうだ。


 バカバカしい話だと思う。

 歴史とはいつでも、勝者が好き勝手に書くものだ。

 そして世界とは、勝者が好き勝手に作るものだ。

 なぜ敗者である魔族を、勝者である人間と対等に扱う必要があるのか全くわからなかった。

 それが、勝者である人間の総意なら俺に文句を言う筋合いはないが、そうではない。

 少数のいかれた連中と、平和ぼけして騙されている奴の妄言でしか無い。

 戦争中であるなら反逆罪に問われていてもおかしくない奴ら。

 そいつらが平和になって見逃され、調子に乗っているだけだ。

 ふいに、魔王が死に際に吐いた負け惜しみが脳裏によぎり、吹き出しそうになる。




 俺は団長としての仕事を終えた後、王様との個人的な謁見、というよりも酒盛りをした。

 王様も思い出話に花を咲かせたいらしく、よく俺を呼んで盃を交わす。

 その度、魔族の権利を訴える大臣などの愚痴をこぼすこともよくあった。

 酔いが回ってきて、俺はそろそろ帰り支度を始める。

 だが王様はまだ一人で飲んでいると言い、きつい酒を瓶ごとあおった。

 よほど神経をすり減らしているのだろうか。

 

 明日のことを考えながら帰路につく。

 騎士団の連中も、俺の稽古でどんどん力をつけているようだった。

 一年魔物と戦って過ごし、魔王を倒した俺だが、最近の団員にはなかなか勝てる気がしないほどだ。

 これならば、また魔王のような強大な敵が現れたり、魔族がクーデターを起こす等ということがあっても安心できるだろう。

 俺は帰宅し、少し疲労感のある身体をベッドに沈めて眠った。




「団長!お目覚めください!」

 ドアを叩く音で目が覚める、呼んでいるのは俺の部下の騎士団員だ。

「どうした、騒々しい。」

 俺は寝ぼけ眼で扉を開ける、まだ日の出前だ。

「団長に国王殺害の嫌疑がかかっています、どうか抵抗せず出頭なさってください。」

「なに?」

 俺は耳を疑った。

 王様が殺された?俺に殺害容疑?

「ふざけるな!誰がそんなことを!」

「大臣さまです、証拠もあるとおっしゃっています。

 どうかおとなしく出頭なさってください。貴方を斬りたくないのです。」


 そして俺は、国王殺害の容疑で裁判にかけられた。

 王は酒に含まれた毒によって死亡していたらしく、共に酒を飲んだ俺が無事なのはおかしいという話だった。

 おまけに俺の部屋から王の飲んだのと同じものと思われる毒薬が見つかったという話だった。

 そんなもの俺は持っていた覚えはないし、あきらかに捏造されたものだ。

 だが大臣は俺の言い分など聞かず一方的に裁判を進めた。

 曰く、魔族共存派に傾きつつある王様を邪魔に思った俺が毒を飲ませ殺したという筋書きらしい。

 近衛騎士団の連中も俺を弁護するため証言台に立ったが、大臣は尽くそれらを退けた。

 魔族殲滅派である俺に洗脳された者の偏った意見だという話だ。

 かつてともに旅をした武闘家と魔法使いも裁判に駆けつけた。

 だが、大臣が現在のふたりの持つ魔王討伐の誉れによる地位を剥奪することをちらつかせると、それきり来なくなった。

 僧侶は来ることはなかった、聞くところによると全く連絡が取れず安否もわからないらしかった。


 そして裁判は、ほとんど魔族を呼んでの俺に対する中傷を披露する場と化していた。

 曰く目の前で親を殺されただの、曰く幼い娘を強姦して殺されただの、曰く魔族の隠れ住んでいた村を焼き払っただの。

 よくもこう、ここまで嘘八百を並べ立て、ここまで舌が回るものだと思う。

 証言をしている者には人間も含まれている、なぜ魔族の側につくのか俺には理解できなかった。


 そして判決が言い渡された。

 それは地下牢に生涯監禁されるというものだった。

 本来ならば処刑されるところを、魔王討伐や近衛騎士団としての働き、騎士団員を始めとする味方してくれる者達の声による譲歩らしかった。

 俺は無実を訴え再審を要求したが、何ら聞き入れられることはなかった。







 幽閉されてから、どれだけの年月が経ったのだろう?

 俺は魔王を倒すための一年の旅、その後の五年間を思い出していた。

 俺の人生における黄金期、すべてが輝いていた頃だ。

 一体いつ、なにが狂ってしまったのだろう?


 騎士団と共謀し、裁判中逃げ出そうとしたこともあった。

 だが、団員の一人が大臣と内通していたのだ、俺だけでなく、関係していた団員も皆捕らえられてしまい、その後の裁判がさらに不利になった。

 今思えば、俺に濡れ衣を着せるために大臣や魔族達は、以前から計画を練っていたのだろう。


 ここでは面会も許されておらず、声を交わすのは食事を届ける元騎士団員だけだった。

 そいつは大臣により騎士団から除名されたため、今はこの仕事をしているらしかった。

 そいつの話を聞くたび、外の世界の状況に驚かされる。


 いまは魔族が完全に人間と同じだけの権利を手に入れ、逆に魔物を差別した人間は厳しく罰せられるのだそうだ。

 そして国は以前のような体制ではなく、魔族の議員さえ居る民主主義国家となったらしい。

 あの大臣が実質的なトップであるが、魔族議員の操り人形に近い状態らしかった。


 そして旧態依然のものは次々と消され、新しい国のための新しいものが次々と生まれているらしい。

 俺は早期解決が可能だった魔族との戦争をいたずらに長引かせ、罪もない魔族を虐殺した戦犯と言う事になっているそうだ。

 武闘家と魔法使いは、結局地位を剥奪され今は魔物の下で奴隷同然の暮らしをしていると聞き、胸が痛んだ。

 僧侶は全く行方がわからないらしく、俺達に恨みのある魔族に殺されたのではないかと心配で仕方ない。


 世界は作り変えられ、俺が世界を救ったという歴史も書き換えられた。

 結局のところ、勝ったのは俺達人間ではなく魔族だったということなのだろうか。





「これで終わりだ、魔王。なにか言い残すことはあるか?」


「・・・たとえ那由多の刻が過ぎようと・・・貴様ら人間は滅び去り、再び魔族がこの地を埋め尽くし果てのない栄華を誇るであろう・・・。」


 ふいに、魔王の最期の言葉が脳裏によぎった。

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